第48話 帝都へ

 アレクサンドラが大激怒している頃。帝都正面を守るよう命じられたロゼッタの元にも、ナツキ姉妹シスターズの快進撃は伝わってきた。

 同時に、クレアが人質になりエッチな目に遭わされていることも。



 ロゼッタの部下たちも噂で持ちきりだ。何処の世界でも、男女の痴情のもつれや下ネタ系のニュースは恰好の的にされるようで。


「ねえ、あの麗しき大将軍クレア様が敵に捕まりエッチ奴隷にされたそうよ」

「聞いた聞いた。何でも大将軍を倒すほどの勇者とか」

「きゃああっ! じゃあじゃあ、クレア様は毎晩餌食に?」

「そりゃ、当然やりまくりでしょ!」


「「「きゃああああああぁぁぁぁーっ!」」」



 ロゼッタは、噂話で盛り上がる部下たちを見て複雑な心境になっていた。


 ロゼッタ心の叫び――


 ななななな、なんだってぇぇぇぇっ!

 クレアが毎晩ナツキ君と、や、やや、ややや、やりまくりだとぉぉぉぉおおおっ!


 ※問題はそっちではない。


 し、しまった。ついエッチ方向にばかり気を取られて。重要なのは作戦の方だよ。

 当初の作戦と大分変っちゃったけど……私はどうすれば良いんだろ。このままで良いのだろうか?


 今の状況でナツキ君たちが真っ直ぐ進んで来ると、真っ先に私が相対することになるんだけど。まっ、その時に聞けば良いかな。


 結構アバウトなロゼッタだった――――


 ◆ ◇ ◆




 一方、帝都西方バラシコフの砦に向かったネルネルだが、アレクサンドラが付けた監視により引き返せないでいた。


「な、何でわたしにだけ監視が付いているんだナ。まるで信用されてないみたいなんだゾ」


 ブツブツと文句を言う。


 帝都を出発する時に突如現れた兵士が、議長の命令でバラシコフまで同行すると言い出し付いてきたのだ。途中で戻る予定だったのに、その兵士の目が気になり動けないでいた。


「い、いっそのこと殺すか……。だがしかし、連絡が途絶えたとなれば、更に事態が悪化しそうな気がするんだナ……」



 すると、考え込んでいる上官を気遣ってか、部下の女兵士がネルネルの元にやってきた。いつぞやの臭い足を舐めた彼女だ。


「ネルネル閣下、なんだかお元気がないようですが?」


 心配そうな顔の部下に、ネルネルが適当な理由を言っておく。


「何でもないんだナ。帝都のガノフ亭の牛肉煮込みが恋しいだけだゾ。バラシコフには行きたくないんだナ」


「閣下が元気が無いと私まで沈んでしまいます。せめて足を舐めてさしあげますね」

 部下がひざまずいて顔を足に近付けた。


「ううっ、も、もう舐めなくても良いんだゾ」


 ナツキに初恋してからというもの、臭い足を嗅がれたり舐められたりするのに羞恥心を覚えたネルネルだ。もう部下には舐めさせていなかった。


 いや、舐めさせたい思いはあるのだが、それはナツキに対してであり、当然お風呂に入ってからである。他の者に舐めさせるのは、今のネルネル的に浮気のようで気が引けるのだ。


「そ、そんな……ネルネル閣下の足を舐めるのが唯一の楽しみでしたのに……」

「ええええ……」


 変態大将軍の部下も変態だった。ドMかっ!


「何かご命令ください。上手くできたらご褒美ということで舐め、当然、失敗しても罰ということで舐めます」


 期待に満ちた目を向けてくる部下に、ネルネルもたじたじだ。


「べつに命令は無いんだナ」

「そうだっ、閣下は帝都にお戻りください」

「は?」

「私が身代わりになりますから」


 身代わりを申し出る部下に、訝しむ目を向けるネルネル。それもそのはず。部下が荷物を運んでくると、中から紫色のカツラと自分が捨てよと命じた古着が出てきたのだから。


「ぐはぁ、そ、それは……」


「はい、ネルネル閣下が散髪した時の髪で作ったカツラと、ネルネル様が捨てた衣類のコレクションです」


「へ、変態だぁ…………」

 自分が変態なのも忘れてネルネルが呟く。


「ほら、こうしてカツラを被って汚れた服を着ると……。ジャァーン! ネルネル閣下の完成です」


 もうネルネルはジト目で見つめるだけだ。得てして人は、自分の変態趣味は許容するが、他人の変態にはドン引きしてしまうものである。


「これ完璧ですよね。私はこれで毎晩……こほんっ、たまにネルネル閣下プレイをして、くんくんクンカクンカと……。と、とにかく、私は声真似も完璧ですし、閣下の真似だけは誰にも負けません」


 そう言う部下の姿が完全に自分のように見えてしまう。風呂に入っていなかった当時のものだが。

 ボサボサのカツラで顔が隠れ、ボロい服で背格好も似た感じだ。


「ほら、閣下は帝都に戻って牛肉煮込みを食べてきてください。今なら議長が付けた部下もいないですし。あの人、閣下をジロジロ見て嫌な感じですよね」


 丁度良い影武者が完成し、帝都に引き返す作戦が成功しそうだ。このチャンスを活かすしかないだろう。


「じゃ、じゃあ、帝都に戻ってお腹いっぱい食べてくるんだナ。お、お前は適当にやってれば良いんだゾ」


「はいっ、閣下。いつも通り、ダラダラ昼寝してゴロゴロおやつ食べてブツブツ独り言してます」


「おいっ! わたしそんななのカ……」


 ツッコみたいところは色々あるが、とりあえずネルネルは影武者に任せて帝都に引き返すことにした。


 ◆ ◇ ◆




 そして、帝都に向け意気揚々と突き進むナツキ姉妹シスターズだが――――


「はぁああぁ~ん♡ もう許してくださいましぃぃ~っ♡」


 縛られたクレアが、皆から羽箒はねぼうきによるくすぐり攻撃を受けていた。


「ほら、クレア。ナツキにペロペロされた腋はここか。くそっ、イヤラシイ腋をしやがって」

 フレイアが羽箒でクレアの腋をコチョコチョする。若干、私怨が入っていた。


「くっ、胸が大きいからって良い気にならないで。このっ! このっ!」

 シラユキが羽箒で際どい部分をコチョコチョする。完全に私怨が入っている。


「ああぁん♡ もう許してぇ♡ フレイアさん、腋はやめてぇ♡ し、シラユキさんも、胸は関係無いですわぁ♡」



 もうボドリエスカの街を出て街道沿いを進んでいる。にもかかわらずクレアが調教されているのには理由があった。


 マミカは変装して控えており、ナツキは解放軍リーダーを演じねばならない。馬車を動かすのに人手が足りず、クレアの部下を数人連れてきているのだ。

 信用できる部下だとクレアが言うのだが、当然、作戦が漏洩ろうえいするのを防ぐ為に真実は伝えていない。


「はぁ、はぁ、はぁ……も、もう周りに人はいませんわ。もうよろしいのでは?」

 側にいるナツキにクレアが耳打ちする。


「クレアさん、ごめんなさい。まだ部下の人にバレるわけにはいかないんです。もうちょっと我慢してください」


 そう言ってナツキまで羽箒を取り出す。

 フランシーヌ共和国で一般的に使われている棒の先にフサフサの羽が付いた逸品だ。この羽でコチョコチョすれば、どんなに我慢強い者でも一発で陥落すると言わている恐ろしい調教方法なのである。



「こ、この帝国のメス犬め、まだ我らにくみせぬと申すか! がははぁ、ボクが直々に調教してやろう……」


 大袈裟にクレアをなじるフリをするナツキ。棒読みなのはご愛敬だ。


「え、ええっ、な、ナツキさん……」


 ナツキの羽箒が、クレアの足裏へと迫る。一遍の曇りもないほと美しい完璧な足裏だ。その穢れ無き彼女の足裏が、ナツキの羽箒による侵攻を受けようとしていた。


「えいっ! こちょこちょこちょこちょ」


「うっひゃあぁぁああぁん♡ もう無理ですわぁぁ~♡」


 そこにフレイアとシラユキの攻撃も加わる。三点同時攻撃だ。

「全員同時に行くわよ!」

「ラジャー」


 こちょこちょこちょこちょこちょ――

「んっほぉおおおっ♡ わ、わひゃくしはぁ、しぇひゃいにぃ屈しませんほとよぉぉ♡ はああぁん♡」



 手綱を握るクレアの部下たちは、後方から聞こえてくる上官の色っぽい声で、形容しがたいおかしな気分になっていた。


「はあ、クレア様が敵の凌辱を……」

「い、いけないことなのに、何だかドキドキします」

「ああ、クレア様の声が私を狂わせてしまう」


 何かが目覚めようとしている部下たちだ。



「く、クレアって、意外と良い女よね」

 容赦のない動きで羽箒を滑らせるフレイアが呟く。


「くふっ、士官学校時代は苦手な陽キャだったけど、縛られているクレアは結構良いかも……」

 こちらも変な趣味が芽生えそうなシラユキだ。


「クレアさん、ごめんなさい。ここまでやるつもりじゃなかったのに。もう覚悟を決めるしかないですよね。ボクも本気出します!」

 ちょっと意味が分からないナツキだった。


「はああああぁぁああ~ん♡ 何でこうなりますのぉぉおおおおぉぉ~っ♡♡」


 クレアの災難は続く――――


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る