第47話 さすおねシラユキとくっころ要員のクレア
「敵と戦う時は、正攻法の作戦で向かい奇襲によって勝つ!」
ナツキの中で作戦が浮かび、立ち上がって言い放った。その瞳は、熱のこもった視線をシラユキに向けている。
「シラユキお姉ちゃんのおかげです。凄い、シラユキお姉ちゃんは、ボクが旅に出ると決めた時から、ずっとずっと先のことを考えていたんですね」
突然名前が出て、皆の視線がシラユキに集まる。ここでシラユキが他と違うのは、『えっ!』と戸惑うのではなく、『当然』と言った感じに落ち着いていることだ。
「そう、古の兵法ですよ。つまり作戦はこうです。ボクが帝都正面から進軍し、堂々と名乗りを上げます。アレクサンドラさんの不正を暴き、囚われの皇帝を救いに来た解放軍だと主張するのです」
「ナツキが? でも、心配……」
フレイアが呟く。
「そこで重要なのがフレイアお姉さんとシラユキお姉ちゃんです。
「えっ、私?」
「ふふっ、当然」
ここでフレイアが驚くが、シラユキは全て分かっているが如く頷いている。実際に分かっているのかいないのか。多分、分かっていないだろう。
「アレクサンドラさんが、僕たちが攻めてくると思っているのなら、逆にそれを利用するのです。敢えて正面から進み対峙する。これには帝都の正規軍に対抗できるだけの戦力が必要です。だからお二人に協力してもらいます」
二人が頷く。
「大将軍二人が敵対したと思った相手は軍を向けてくるでしょう。でも、お二人の大魔法を警戒して
「軍を引き付けるのですわね」
興味深そうな顔でクレアが聞いている。
「アレクサンドラさんは奇襲があると警戒するはずです。だって、敵がバカ正直に正面から来たのですから。そこで重要なのが、敵には正面だけと思わせておき、横から奇襲をかけます。これはネルねえかロゼッタ姉さんにお願いするつもりです」
「それには二人と落ち合うのが必要ね」
マミカが言う。
「そうです。当然先に会って作戦の変更を説明しないとなりません。ただ、この奇襲も陽動です。思い切り本気っぽく奇襲して敵を引き付けます」
「なるほど、二段階という訳ね」
マミカは理解したようだ。
「正面と側面から攻め、相手は兵力を分散して対処するはずです。その隙に第三の矢、マミカお姉様にお願いしたいのですが……。スキルでお姉様が宮殿に潜入して皇帝を救い出す。これが作戦の全容です」
ちょっとドヤ顔になって説明し終えたナツキ。心の中では『シラユキお姉ちゃん、こうですよね?』と問いかけているみたいだ。
「さすが弟くん。私が兵法を教えただけはある」
「全てシラユキお姉ちゃんのおかげです」
「くふふっ、当然」
「凄い……お姉ちゃんの目は、何処まで先を見通しているのか。まさに先見の明ですね」
「私は先を見通す女。ナツキが旅に出る時から作戦を考えていた」
全く打ち合わせもしておらず、何の根拠も無く、自分の考えた作戦でもないのにドヤるシラユキ。ちょっと意味が分からない。
「シラユキお姉ちゃん凄いです。あんな前から古の兵法を使った戦法を考えていたのですね!」
「くくっ、当然。私は全てお見通し。時の迷宮にて、出会う前から運命づけられた
何かヤバいことを言っている気がするが、シラユキとしてはナツキから自分の名前が出てご満悦ということなのだろう。
「ナツキさん、中々やりますわね。裏の裏をかき、ご自身が目立つことで敵を引き付け、第三の矢を目立たなくするとは。これなら強引に攻めることなく、市民の被害も抑えられますわ」
クレアも賛同する。ちょっとナツキを見直しているみたいだ。シラユキのことは完全スルーしているが。
ただ、ここで話は綺麗に終わらず――――
「この作戦の信憑性を高める為に、クレアさんには囚われの大将軍になってもらいます」
「えっ……囚われ……ま、まさか」
「はい、このまま素通りしたらクレアさんもグルだと思われちゃいますよね。ここはボクたちと戦って負け、捕虜のエッチ奴隷になったという設定にしましょう」
「やっぱりエッチ奴隷ですのおおおおぉぉぉぉ~っ!」
やはりクレアは囚われの
◆ ◇ ◆
大観衆が見守るボドリエスカの街に、縛られたクレアを乗せた馬車が走る。解放軍に捕まり人質にされた設定だ。
ガラガラガラガラガラ――
「はああぁ……恥ずかしいですわぁ。堪忍してくださいましぃぃ!」
クレアが本気で嫌がっている。迫真の演技……ではなく、単に嫌がっているだけだ。
マミカが「嘘だとバレないよう本格的にする」と言い出し、服を破いたり汚したりしたのだ。そこに悪乗りしたシラユキが「露出度を高めよう」と、際どい部分まで露出させてしまう。
こうして完成したのが、超恥ずかしい『くっころ奴隷クレア』の完成である。
「ボクたちは元老院議長の圧政から国民を解き放つ解放軍です。捕虜となった大将軍クレアさんが恥ずかしいことになりたくなかったら道を開けてください!」
ナツキが堂々と宣言する。
馬車は街の大通りを悠々と進み、大勢の人が見守る中を通って行く。縛られたクレアの両脇にはフレイアとシラユキが立ち、その雄姿に恐れおののいた帝国軍兵士たちは完全に手を出せない状態だ。
当然、作戦の要であるマミカは隠れて姿を消している。帝都に潜入するまで存在を悟られるわけにはいかない。
「ほらほら、皆のアイドルクレアちゃんが恥ずかしい目に遭っちゃうわよ!」
「そう、徐々に服が脱げる仕組み」
フレイアもシラユキもノリノリである。
「ちょっと待ってくださいまし! そんなの聞いてないですわよ! あれぇぇぇぇ~っ♡」
クレア迫真の演技……いや、リアルにエッチな攻めをされていた。
これには街頭の市民たちからも声が上がる。
「きゃああっ! 私たちのクレア様がぁ」
「おいたわしい姿に」
「ああっ、胸が。み、見えそうです!」
男たちからは別の声援も――
「おおっ、あの憧れのクレア様の恥ずかしい姿……」
「何て酷いことを……いいぞ、もっとやれ!」
「こいつぁ目の保養だぜ」
「ううっ、上品で気高いクレア様の破廉恥な姿。たまらん」
ナツキも頑張って声を上げる。
「今の帝国の体勢は、幼い皇帝を蔑ろにして、権益を独占する者が勝手に戦争を起こしています。一部の人が権力や富を独占し、多くの民は貧困や戦火で苦しむ。そんな社会で良いのでしょうか! ボクたちは帝都に進軍し、元老院議長を正し皇帝を救い出すつもりです」
後ろで行われているエッチな攻めとナツキの演説にギャップがあり過ぎる。しかし、インパクトは絶大で、一気に解放軍の噂は巷に駆け巡ることになった。
そして、クレアの羞恥心と共に馬車は帝都に向け走り続ける――――
◆ ◇ ◆
帝都に向け進軍する
「なんじゃと! デノア勇者と大将軍二人が堂々と進軍中と申すか!」
部下から一報を聞いたアレクサンドラが激高する。
「はっ、ボドリエスカの検問所にて大将軍クレア様を倒し、悠々と名乗りを上げながら進軍中とのことです」
「何じゃそれは! クレアはどうしたのじゃ!」
「はっ、そ、それが……クレア様は敵勇者に捕縛され……捕虜になりました。い、如何わしい行為を強要されながら、見せしめとして縛られ連れ回されていると聞いております」
「なんじゃと! あの役立たずがぁああっ!!」
ガシャーン!
飲んでいた葡萄酒の金属製グラスを投げつけながら、アレクサンドラが憤怒の表情になった。元から意地が悪そうな顔が更に怖くなり、部下が「ひぃぃ」っと小さな悲鳴を上げて後ずさる。
これ以上話せば怒りが自分に向くのは明白だと思いながらも、責任感の強い部下が最後まで報告を続ける。
「そして、その勇者は……現政権は幼い皇帝を蔑ろにし、富と権力を貪る悪政を敷いていると述べ……。自分たちは帝国に巣食う逆賊を倒し皇帝陛下をお救いする解放軍だと申しており――」
「あああああ!! もうよい! 下がらんか貴様ぁああ!!」
ガッタァァーン! ガランガラン!
「うひぃぃっ、も、申し訳ございません」
机の上にある物を払い飛ばしながら部下の女性を罵倒するアレクサンドラ。たまらず彼女は逃げるように部屋を後にした。
「おおおおのれ勇者め! くそっ! おのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇええええっ! 私を愚弄するか! 帝国に巣食う逆賊じゃと! 許さん! 絶対に許さんぞ! 勇者もフレイアもシラユキも全員捕らえて処刑じゃ!」
吼えるアレクサンドラに、クレアをエッチ調教しながら進むナツキたち。帝都決戦は近い。
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