第46話 裏の裏をかけ
まさかの返答をするクレアに、他の
「ちょっとクレア! 何断ってんのよっ!」
マミカが噛みつく。
「マミカさん、あなたの作戦には穴があるのですわ」
「はあ!? 何よっ!」
「もしかしてさっきのを根に持ってるとか?」
そう思ったのはフレイアだ。
「フレイアさん、それは言わないでくださいまし」
「だって、うぷっ……」
「陽キャで人気者のクレアが、おも――」
思わず口を滑らせるシラユキ。
「シラユキさん、それ以上言ったら怒りますわよ」
「ご、ごめんなさい……」
どうやらクレアには何か気がかりがあるようで。決してナツキに堕とされて粗相したのが原因ではないようだ。多分……。
「クレアさん、訳を聞かせてください」
真っ直ぐな目でクレアを見つめるナツキが言う。
「あなた、ナツキさんでしたわよね?」
「はい」
「まだ若いのに一人で帝国に潜入し、戦争を止めようとする志は立派ですわ」
「あ、ありがとうございます」
「早く作戦の穴とやらを教えなさいよ」
マミカが口を挟む。
「ですから、マミカさんの作戦はアレクサンドラ議長を始め、帝国軍に悟られていない場合には有効ですわ。しかし、私が思うところ、議長は何か感づいている気がしますのよ」
マミカの作戦(実際はナツキが考えネルネルが計画した作戦だが)は、帝都宮殿に侵入し皇帝を救い出すというものである。しかし、それは帝国側が気付いていない場合でなければ難しいだろう。
帝国側に情報が漏れていた場合は、グッと難易度が跳ねあがるはずだから。
「アレクサンドラが私達の作戦に気付いている確証はあるの?」
「確証は無いですわね。でも、わたくしたち大将軍に帝都を防衛する命令を出していた議長が、急にバラバラの任地で警戒任務に就かせたのはおかしい……。即ち、これは計画に気付いた議長が、先手を打って大将軍を引き離したと考えるのが妥当ですわ」
「やっぱり……アレクサンドラはアタシたちの情報を掴んでいて……」
そう言ったマミカがフレイアとシラユキの方を見る。
「そ、それはしょうがないじゃない。私たちがナツキと再会するまでは、皇帝奪還計画なんて知らなかったんだから」
フレイアの言う通りだろう。だが、有名人なのに不用意に行動し過ぎなのは否めない。
「大将軍にあるまじき失態……」
シラユキが呟く。
「あんたもでしょ」
「面目ない……」
二人共シュンとなってしまった。
「しょうがないですよ。お姉さんたちは知らなかったんですから。二人を攻めないでください。これからのことを考えましょう」
ナツキが二人を擁護すると、フレイアもシラユキも嬉しさで顔が緩んでしまう。
「はぁん、だからナツキ少年好きぃ♡」
「しゅきしゅきぃ♡ 弟くぅん♡」
だらしなく緩んでしまった二人の顔に、クレアが呆れた表情を見せる。恐怖の大将軍が男に
「まったく、あなたたちは若い男に入れ込んで……。まあ、確かにナツキさんの手つきは……いえ、舌使いも……」
ゾクゾクゾクっ!
体の奥底からゾクゾクとした感覚が沸き上がり、クレアは紅潮した顔で自分で自分を抱きしめた。
「ふ、不潔ですわっ! あのようなエッチなテクで。しかも複数の帝国乙女が一人の男に。わ、わたくしは絶対にナツキさんのエッチテクなんかに堕とされませんからね! 絶対に、絶対に許しませんことよ!」
ムキになって『絶対』を連呼するクレアだが、既に顔が真っ赤で説得力が無い。あの恥ずかしい技が忘れられないのだろう。
「あっ、それは大丈夫。クレアは黙って見てれば良いから」
「そう、クレアは触っちゃダメ。弟くんは私のもの」
「ちょっと、アタシを無視するなし! てか、アタシのナツキに触るな」
フレイアとシラユキだけでなくマミカまでナツキに抱きつく。
「ううっ、あまりベタベタしないで。だから当たってますって」
「当ててるのよ!」
「目いっぱい当てている」
「当ててるんだし!」
全員わざと当てていた。
目の前でイチャイチャを見せつけられたクレアは、ブルブルと首を振って『自分だけは、このエッチな勇者に堕とされない』と固く誓った。
「わ、わ、わたくしは絶対に屈しませんことよぉぉ――!」
もう手遅れかもしれないが。
少し落ち着いたところで本題に入る。このままイチャイチャしていても
「つまり、アレクサンドラはアタシたち大将軍が反逆すると疑って、団結されないように引き離したってわけね」
一通りクレアの話を聞いたマミカが言う。
「そういうことになりますわね」
「じゃあ、先行して帝都に入ったネルネルとロゼッタはどうしたの? クレアは見かけなかった?」
「わたくしが帝都を出た時は会いませんでしたわ。きっと入れ違いになったのでしょう」
「マズいわね……完全に予定が狂ったけど」
自問自答するようにマミカが呟く。
「私やシラユキの魔法があればアレクサンドラ議長も
黙って聞いていたフレイアが発言する。一騎当千の力を誇る大将軍の魔法があれば、人数による戦力差を覆せるだろう。
ただ、マミカはアレクサンドラの性格を見抜いているようで。
「それが問題なのよ!」
「えっ?」
「相手はあのアレクサンドラよ。いざとなれば皇帝陛下を人質にとるかもしれない。市民を人間の盾として使うかもしれない。確かにフレイアやシラユキの魔法は凄いけど、
「それは……」
フレイアが黙ってしまう。これまで幾多の戦場で活躍してきたフレイアだが、それは軍と軍がぶつかり合う戦場での話だ。何の罪もない市民に向けて火炎魔法を放つなどしたら、それはただの虐殺だろう。アレクサンドラが行っている大量の粛清や処刑と変わらない。
「ボクも同感です。市民に剣や魔法を向けちゃダメです」
真剣な顔になったナツキが言った。
「ボクだって何の被害もなく戦いができるなんて思っていません。でも、どんな立派な目的で戦ったとしても、
ナツキの言うことも正論だろう。
「ナツキさん……意外と良い人なんですのね。気が合いますわ。手つきや舌使いはエッチですのに」
自分よりずっと若いのにと感心の表情になるクレア。ただ、ナツキの指や舌を思い出して顔を赤くする。
「え、エッチじゃないです。あれは帝国文化の……」
「そんな文化ありませんこと――ふがっむぅー」
何も知らないクレアが真実をバラしそうになるが、すかさずマミカとフレイアの手が彼女の口を塞いだ。
あの甘く蕩けるような添い寝サービスは、マミカたちが創った偽のエッチ帝国文化なのだから。せっかく添い寝やポンポンをしてもらっているのに、嘘がバレたら台無しだ。
そんなナツキの肩にシラユキがそっと手を置いた。
「ナツキ、偉い子」
「シラユキお姉ちゃん」
「早く戦いを終わらせて、毎日ポンポンギュッギュ」
「は、はい」
「腋ペロも」
「それは敵にしか……」
「帝国文化だよ」
「で、ですよね……」
この分では、まだ暫くは騙されたまま一晩中イチャイチャは続きそうだ。
「とにかく、帝都の市民に被害が出る可能性が高いのなら協力できませんわ。もっと、着実な方法を考えていただかないと」
シュタッ!
いつものキメポーズをするクレア。相変わらず変なポーズなのに様になっている。
「そうね、アレクサンドラ議長が外出した時に捕らえてしまうとか?」
フレイア案だ。
「それは良い案ですが、大将軍の謀反を疑っている議長が、わざわざ外出するでしょうか? 厳重な警備を付けるはずですわ」
「私の魔法を帝都上空で炸裂させる。帝都は大騒ぎ。その隙に陛下をお連れするとか?」
シラユキ案だ。
「滅茶苦茶なようでいて、意外と良い案かもしれませんわね。陽動としては使えそうですが……」
「アタシがスキル記憶操作しながら宮殿に入るわよ」
マミカ案だ。
「マミカさんのスキルは凄いですが、議長の親衛隊には精神魔法を防御するスキル持ちがいますわよ」
「ボクが正面から入って囮になります。その隙に皆さんが皇帝を連れ出してください」
ナツキ案だ。
「速攻で始末されそうですから却下ですわ。命を大切にしてくださいまし」
「そ、そうですよね……勇気と無謀をはき違えてはダメですよね」
ナツキはロゼッタと添い寝した時の話を思い出した。勇気をもって突き進んだり頑張るのは良いが、無謀に突っ込むだけでは何も成し遂げられない。
そうだ、ボクは焦るあまり無謀になっているのかも。今のボクじゃ突っ込んでも無駄死にするだけだ。もっと慎重に物事を考えないと。
アレクサンドラさんは、ボクたちが帝都を攻めると思っている。そう仮定するなら。むしろ、わざと正面から攻めて名乗りを上げるのはどうだろうか……。そうだ、わざと戦力の全てを見せるかのように。
偽装工作……そう、偽装工作だ。何かの本で読んだことがあるぞ。相手の裏の更に裏をかく為に、正面から名乗りを上げ、側面から奇襲攻撃を行う。だけど、本命は更に別にあり。
そうだ、シラユキお姉ちゃんが言っていた古の兵法だ!
ナツキが作戦を思いついた。煌く銀髪をサラサラとなびかせるシラユキの美しい顔を見ながら。ナツキの姉堕技『さすおね』再びである。
――――――――――――――――
ナツキが再び戦略戦術を張り巡らす。勝手にシラユキの考えを想像しながら。『さすおね』セカンド発動!
次々お姉ちゃんたちを良い気分にさせてしまうナツキ。そんなにデレさせたら後が怖いぞ。
もし少しでも面白いとか、恥ずかしい目に遭わされるクレアさん可愛いとか思ったら、よろしければフォローや★を頂けると嬉しいです。たとえ星1でも泣いて喜びます。コメントもお気軽にどうぞ。
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