第45話 くっころが似合う女

 クレア・ライトニング25歳――――

 その華々しい経歴は、誰もが羨むものだった。


 上流階級の貴族の家に生まれた彼女は、幼い頃から蝶よ花よと愛され育てられた。長らく子供に恵まれなかった両親から、やっと生まれた長女であった為か、それは大切に育てられたのだ。


 赤ん坊の頃から玉のように可愛いと噂された彼女は、成長するにしたがい益々美しさに磨きがかかり、いつしか神に愛された女性とまで言われるようになる。


 天の祝福ギフトは光魔法レベル10という最強のスキルを授かり、学業も運動も輝かしい成果を残していた。

 何をしても様になる美女。たとえ変なポーズでも、まるで天上に咲く花のように美しいと誰もが言う。


 そんな完璧美女であるならば、さぞかし性格が悪いのだろうと人は噂する。だが、実際は優しくて思いやりがある常識人ときたものだ。

 ここまで完璧だと、逆に人は近寄りがたい印象を与えてしまうようで――――



「ああああぁ~ん! 堪忍してくださいまし!」


 クレアが叫ぶが体が動かない。縛られているうえに、マミカのスキルで精神掌握されているのだ。


 何の不自由なく育ってきた完璧美女が、人生史上最大の危機を迎えていた。そう、何かよく分からないが、デノアの勇者と、その言いなりになっている女たちに襲われているのだ。


「ほら、暴れないように手足を押さえろし!」

「分かったわよ。人使いが荒いわね」

「ぐふふっ、クレア……痛いのは最初だけ」


 皆の言い方がアレなので、益々クレアの顔が恐怖で引きつってしまう。


「くっ、殺しなさい! この帝国騎士クレア・ライトニング、敵に辱められるくらいなら死を選びますわ!」


 本当に『くっころ』と言ってしまうクレア。この美しく気高い容姿や誇り高い性格。どれをとっても、くっころ・・・・が似合う女だ。



 クレアに伸ばそうとしていたナツキの手が止まる。苦しそうな彼女の顔を見たナツキが躊躇ちゅうちょしたのだろう。


「クレアさん、殺せなんて言っちゃダメです」


 真顔でナツキが言うが、この状況での言葉ではない。通常、この場合は、『いつまでその口がきけるか楽しみだぜ。ぐへへぇ』である。


「あなたに言われたくないですわ」

「生きてください。そりゃ、世の中には辛いことが多いけど……」

「その通りですけど、そうじゃないですわ」

「とりあえず今は何でも言うこと聞いてください」

「やっぱりエッチ奴隷ぃぃ~っ! 嫌ですわぁぁ~」


 そんなクレアの抵抗も空しく、ナツキの手がクレアの体に触れる。姉喰いを直に打ち込む為だ。


「行きます!」


 ずきゅぅぅぅぅーん!

「はううぅぅっ! くっ、何のこれしき」

 ずきゅぅぅぅぅーん!

「うひぃ♡ き、効きませんことよぉ♡」

 ずきゅぅぅぅぅーん!

「あひぃぃ~っ♡ く、口ほどにもないですわぁ♡」

 ずきゅぅぅぅぅーん!

「んほぉ♡ わ、わたくしはぁ♡ くっ、屈しませんことよぉ♡」


 クレアが下手に耐え続けるので、何度も何度も姉喰いスキルをくらってしまう。あの上品で気高いクレアの顔が、とても人には見せられない下品な感じになってしまった。

 ここはせめてもの情け。クレアの下品な顔は放送禁止だろう。



「えっと、ナツキ……そろそろ良いんじゃない?」


 見兼ねたマミカが口を挟むが、ナツキは半信半疑なようでいて。


「まだクレアさんは耐えているみたいです。もう少し打ち込んでみますね」


「えぇぇぇぇ……」

「ナツキって意外と鬼畜なんだから」

「くふっ、私もお願いしたい……」


 無意識に鬼畜連撃するナツキに、姉たちもたじたじだ。シラユキに至っては、自分にも同じことをして欲しがっている。


「えいっ、えいっ、えいっ、えいっ、えいっ!」

 ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん!


「うひぃ、わ、わたくしはぁ……ぜ、絶対にぃ……く、くっしません……こ、ことよぉ♡」


 ここまで来てもクレアは屈しない。

 姉喰いが効いてないはすがないのだ。一人っ子であるクレアは、常日頃から弟が欲しいと思っていた。自分好みの年下男子を想像しては、思いっ切り可愛がりたいなどと妄想しているくらいなのだから。


「凄い……クレアさんは真に忠義に厚い帝国騎士です。クレアさんに敬意を表して、ボクが考えた最強の姉喰いアタックをおみまいします」


 何を勘違いしているのか、ナツキが最強の姉喰いアタックの体勢に入る。耐え続けるクレアの姿に、真の騎士たる理想を見たのだろう。


「ま、まさか……アレをやる気?」

 マミカは何となく察した。

「アレって、アレよね?」

 フレイアも思い浮かべる。自分が伝授した技だから。

「クレアじゃなく私にするべき……」

 シラユキは自分にしろと言う。



「行きます! 姉喰いスキル合体混成技!」

 ぎゅぅぅぅぅ~っ!


 ナツキがクレアの体を強く抱きしめる。そして、さり気なく服の腋部分を開いた。

 もはや意識が朦朧もうろうとしているクレアは、されるがままだ。


「姉喰い腋ペロマリーアタック!」

 ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――――


「うっきゃああああああぁぁぁぁーっ! ヘヴンですわああああぁぁぁぁ――――♡♡」


 マリーアタックをしながら舌先から姉喰いを打ち込むという、とんでもないエグい技だった。ここに至ってナツキのスキル操作も、見違えるような上達だ。日々の努力の賜物である。


 ただ、あの美しく上品なクレアが、人生最初で最大の変顔晒して皆の前で堕とされる屈辱を受けてしまった。


 ◆ ◇ ◆




「うううっ……ううっ、こんな屈辱、も、もう、お婿をもらえませんわぁぁぁぁ~」


 皆の前で恥を晒してしまったクレアが嘆く。女性上位社会であるルーテシア帝国では、この場合『お嫁に行けない』ではなく『お婿をもらえない』である。


 彼女の名誉の為に詳しくは言えないが、変顔で失神した時に色々と粗相をしてしまったのだ。どんな粗相かはご想像にお任せする。



「あの、ごめんなさい。クレアさん」


 申し訳なさそうな顔をしたナツキが謝る。まさか、あんなことになるとは思いもしなかったのだ。


「ごめんで済むなら法律もいりませんわ! それもこれも全てあなたのせい! 絶対に許しませんことよっ! デノア勇者ナツキさん、責任とってもらいますわ!」


「責任……ですか。分かりました。ボクにできることなら」


「そうですわね。あなたには、わたくしの執事になって誠心誠意尽くしてもらいますわ! わたくしの命令には絶対服従。何でも言うこと聞いてもらいますからね!」


 何故か執事にされてしまうナツキ。きっと彼女の趣味だろう。



「ちょっと待って。ナツキはアタシのものだから。執事なら他を探しなさいよ!」


 当然マミカが反論する。ナツキと出会ってからというもの、悪夢からも解放され優しく穏やかな日々を送れているのだから当然だ。


「皆勝手なことを言わないでよ! ナツキ少年は、この私と結婚するのっ! 当然、彼女候補一号の私が。一番権限があるのだからな」


 そこに入ってきたのがフレイアだ。最初から一目惚れだったのだが、時を重ねるにつれナツキへの想いは強くなるばかりである。


「誰にも渡さない……ナツキは……弟くんは私と永遠の時を重ねるの。もしナツキが手に入らないのなら、もうこんな世界は要らないよね。世界を壊して私も死ぬ。ふふふっ、永遠に時が止まった世界で、私はナツキを愛し続けるの……」


 もはや語るまでもないが、シラユキのヤンデレ具合が進行しているようだ。ナツキにフラれた場合を想像すると危険過ぎる。



「皆さん、今はそんな場合じゃないですよ! そういうのは戦争が終わってからにしましょう。先ずは帝都に行き皇帝を救い出し、そして戦争を止めるのが先決です」


 子供みたいなお姉さんたちに正論をぶつけるナツキ。普段は凛々しく大人っぽく尊敬するお姉さんなのに、ナツキが絡むと途端に子供っぽくなるから困ったものだ。



「それは、そうなのだけど……」

「後でキッチリ決めなさいよね。ナツキ」

「私以外を選んだら……世界は……」


 無意識とはいえナツキが年上女性を溺愛させまくり、後で怖いことになりそうな予感しかない。むしろ戦争が終わってからの方が恐ろしい恋愛戦争が勃発しそうだ。


「まだ、わたくしの屈辱が。もうっ、もうっ!」


 まだクレアが怒っているが、これまでの事情をザッと説明する。このままクレアを監禁しているわけにもいかない。大将軍が消えてしまったとあらば大問題だろう。今頃、部下がクレアを探して走り回っているかもしれないのだから。




「――――と、いう訳なんです。」


 作戦の説明を聞いたクレアが考え込む。少し思うところがあるようだ。


「わかりましたわ。わたくしも、アレクサンドラ議長の横暴な振舞いには常々思うところがありましてよ」


「じゃあ……」


 クレアの話にナツキが相槌を打つ。だが、次の瞬間、クレアから出た答えは予想と違っていて――


「ですが、お断りしますわ」

 まさかの返答だった。


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