第44話 ボドリエスカの戦い

 絶体絶命に見える状況の中、クレアの魔法と同時にシラユキも魔法を発動していた。ただの痛い女ではない。これでも氷魔法レベル10の大将軍なのだから。


「地獄の最下層、永久不変の凍土より来たりて敵を討て! 極絶冷凍波ゼストガース!」

 ゴオオオオォォォォーッ!


射手の天使サキエルレイ!」

 シュバァァァァババババババババババ!


 超高出力の光線がクレアから射出される。まるで電子と陽子を粒子加速させた大出力荷電粒子砲のようだ。


 しかし、シラユキも負けてない。瞬時に展開された魔法術式により、周囲に冷気の結界を張り、青白い超低温の球体を出現させた。


 クレアの射手の天使サキエルレイがシラユキの極絶冷凍波ゼストガースの球体により向きが変わり上空高く反射される。

 収束された大出力光魔法が、絶対零度アブソリュートゼロ近くまで超低温濃縮された球体で減退し、上空へ向きを変えたのだろう。


 シュバァァァァァァァァ――――


 天高く昇って行く光線を見ながらナツキが呟く。

「す、凄い……シラユキお姉ちゃん凄い」


 これに気を良くしたのが、痛い女改め凄い女シラユキである。ナツキに良いところを見せようとポエムを詠んだりしていたが、やっと役に立つところを見せられたのだから。


「うふぇふぇ、弟くんが私を♡ くふっ、くふふっ」

 凄い女だが、微妙に笑い方が怖いシラユキだった。



「あ、あんた、いつの間に。陽キャ陽キャ言ってる女じゃなかったのね」

 ナツキを庇うように抱きしめながら、フレイアがシラユキに問いかける。


「陽キャの前では気が抜けない。だって陽キャだから」

 やっぱり『陽キャ』を嫌っているシラユキだ。もう意味が分からない。


「ちょっと、クレアっ! いきなり危ないでしょ。どこが『命までは取らないから安心なさい』よ!」

 マミカが文句を言う。


 確かに狙いは外して撃っているようだが、あの高出力攻撃では外れても爆風で吹っ飛ばされそうだ。



 ところが、クレアは顔を赤らめワナワナと震えているばかりだ。マミカの話には耳を傾けていないように見える。

 そして、とんでもないことを言い出した。


「そ、そんな……デノアの勇者に負けたフレイアさんとシラユキさんが、エッチな関係を迫られ、脅されて言いなりにされていましたのね」


「は?」

「えっ?」

「ん?」

「はい?」

 そこにいる四人同時に、頭の中に『?』が浮かんだ。


「何も仰らなくてよろしくてよ。きっと、人には言えないエッチでヘンタイな……あんなことやこんなことをされ。バラされたくなかったらエッチ奴隷になれと脅されて……」


「いや、だから違うって、クレア」

「くふっ、エッチ奴隷最高……」

「シラユキは黙ってなさい」


 フレイアが説明しようとするが、シラユキはエッチ奴隷というフレーズが気になるようだ。


 更にクレアの目がマミカを見つめる。


「まさかマミカさんまでエッチ奴隷にされていたなんて。おいたわしいですわ」


「さ、されてないし!」


「ええ、何も言わなくてよろしいのです。毎日の調教で身も心も堕とされ、何でも言うこと聞く女にされてしまいましたのね」


「それは当たってるけど……って、違うし! 何でもされてないし!」


 何でも言うこと聞かされているのは当たっている気がするマミカだが、やはり必死に否定しておく。


「ああっ、何ということなのでしょう。見た目はわたくし好みの少年なのに、三人の女を堕とすなんて恐ろしい男! 大丈夫ですわ。わたくしがこのドスケベ勇者を倒し、皆さんを解放してさしあげますことよ」


 勝手に闘志を燃え上がらせ、同僚の大将軍をエッチ奴隷から開放しようとするクレア。彼女の妄想なのだが、あながち全部間違いとは言えないのが困ったところだ。



「さあさあ、そこのエッチな少年! 年上女性をもてあそぶなど言語道断! このわたくし、光の大将軍クレア・ライトニングがお相手いたしますわ!」


「え、エッチじゃないです! そりゃ確かに最近は……って、ダメです! 結婚するまでエッチは禁止です!」


 クレアにナツキが反論する。最近は皆の添い寝攻撃でムラムラしているものの、やはり結婚しないとエッチはダメなようだ。


「け、結婚ですって! それはどうなのでしょう? 時と場合によりますわね。お互いが真剣にお相手を想っているのなら、心も体も深く繋がるのは大切ですわ」


「言われてみれば……。そうですよね、心が強く結びついている二人なら、体を重ね、より深くお互いを知るのも大切かもしれない」


「おーっほっほ、当然ですわ! 真に愛し合う二人なら、当然ありですわね! レディーを待たせるのも罪ですわ! 、ですわよ!」


「なるほど、愛ですね! クレアさん」


 ナツキがクレアの恋愛論に感化されてしまった。婚前交渉もありらしい。

 ただ、当初のエッチ奴隷から開放する話は何処に行ってしまったのやら。



「隙ありっ! 精神掌握セイズマインド!」

「きゃああっ! か、体が……」


 ナツキと意気投合して勝ち誇っていたクレアに、すかさずマミカが精神魔法で体の自由を奪う。瞬時にクレアの体は硬直し、肉体の機能を乗っ取られてしまった。


「くぅ、ひ、卑怯ですわよ。マミカさん……」

「卑怯じゃないしー、油断してる方が悪いんだしー」


 悔しがるクレアにマミカは舌を出して挑発する。ちょっと大人げない。

 これにはナツキも黙っていない。


「マミカお姉様、ボクは正々堂々とクレアさんと戦います」

「ナツキ、パーティーってのは強力し合うものでしょ」

「はっ、そう言えば……」

「仲間なら協力プレイよ」

「で、ですよね。協力プレイ大事ですよね」


 ナツキも納得した。


「ナツキ、協力プレイでクレアをぎったんぎったんにするわよ!」

「はい、お姉様!」


 動けなくなったクレアにナツキが迫る。きっとクレアから見たら、自分も毒牙にかけられてしまうのだと思っているだろう。


「クレアさん、何でも言うこと聞いてもらいます」

「や、やっぱりぃぃぃぃ~っ!」


 もう定番だが、やはり言い方がアレである。


「くうぅぅっ、わ、わたくしは絶対に屈しませんことよ」

「それでもボクはやります。強く熱いのを体に打ち込み」

「くぁああっ、たとえこの身が汚されようと、心までは……」


 唐突に、くっころ・・・・展開のようになってしまうクレア。まさに囚われの姫みたいでお似合いだ。


「行きます」

「ふえぇぇ~っ、初めてがこんななんて酷いですわぁぁ」


 マミカに体の自由を奪われたままのクレアが嘆く。本人は初体験のつもりらしい。

 そんなクレアの体の奥深くに、ナツキの姉喰いが打ち込まれた。挙式を控えた二人(マミカ談)の、初めての共同作業だったりする。


 ずきゅぅぅぅぅーん!


 ◆ ◇ ◆




 クレアが目を覚ますと、そこは古びた内装の部屋だった。あちこちの壁紙が剥がれ、床も所々痛んでいるようだ。


「こ、ここは……」


 後ろ手に縛られたクレアが、焦点の合わない瞳のまま呟いた。

 声を聞いたフレイアが近寄る。


「あっ、目が覚めたわね」

「フレイアさん……どうして」

「ここは、とある廃墟ね。監禁場所にちょうど良くて」

「監禁ですってっ!」


 フレイアの説明が物騒で、クレアのから急速に光が消える。まるでハイライトが消えたような目だ。


「クレア、起きたの?」

 会話を聞いたマミカも近寄ってきた。


「ま、マミカさん、助けでくださいまし。わたくしを解放すれば、皆さんを救ってさしあげますわ」


 縛られたクレアがグネグネと床を這う。


「まだ言ってるし。ナツキ、クレアも徹底的に堕としちゃおうか? 何発も打ち込めば大人しく言うこと聞くかもだし」


「ひぃぃぃぃいいっ! 助けてくださいまし」


 マミカまで物騒なことを言い出し、更にクレアが悲鳴を上げる。




 あの後――――

 マミカのスキルで動けなくしたクレアに、ナツキは強烈な姉喰いを打ち込んだ。予期せぬ体を揺さぶるような波動を感じたクレアは、全身にかつてないほどの快感が突き抜け失神した。

 そのままでは面倒なので、皆でクレアを運び、たまたま発見した空き家に潜伏中という訳である。



「この分だと、クレアはネルネルから何も聞かされてないみたいね」

 クレアの様子を見たフレイアが呟く。


「なな、何のことですのっ! わたくしは何も知りません。見逃してくださいまし」


 更に誤解したクレアが這いつくばって逃げようとする。


「ぐふふっ、くふっ、陽キャで皆の人気者クレアもお終い……観念してエッチ奴隷に……。くふふふふっ」


「いやあぁぁ~っ! エッチ奴隷だけはやめてぇ~っ! 初めては好きな人とベッドで花の香りに包まれながら優しくされたいのですわぁぁぁぁ~っ!」


 エッチ奴隷は関係無いはずなのに、ここぞとばかりにシラユキが話し始める。多分イタズラだろう。本気にしたクレアが泣きそうだ。


「シラユキお姉ちゃん、イタズラしたら可哀想ですよ」

「だって、こんなクレア初めてだから……」


 ちょっと悪ノリしているシラユキをナツキがたしなめる。


「ここはボクに任せてください」


 震えるクレアに迫るナツキの手。囚われのお姫様状態の彼女に、果たして救いの手は訪れるのか。


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