第43話 フラグ
帝都に向け旅をしているナツキたちがボドリエスカの街に入ろうとしていた。ポンポンやナデナデで陥落させられた
「おかしい……こんなはずでは……」
そうナツキが呟くのも無理はない。ポンポンやナデナデやギュッギュで満足して大人しくなってもらおうとしたのに、余計に興奮させてエチエチになってしまったのだから。
「もぉ♡ ナツキぃ、お姉さんが食べちゃうぞぉ♡」
抱きついたフレイアがグイグイくる。まさにイケナイお姉さんだ。
「くふふぅ♡ しゅきしゅきぃ♡ 弟くぅ~ん♡ 私も食べちゃおうかなぁ♡」
益々危険な香りを漂わせるシラユキも抱きつく。彼女の場合、本当に食べそうである。
「くぅ……このアタシが、こんなになっちゃうなんて♡ く、悔しいけど責任とりなさいよねっ♡」
あれほど好きなのを認めようとしなかったマミカが、本音をポロポロ漏らしている。ライバルの猛攻に、強がってばかりいられないのだろう。
「ま、待ってください。見られてます。他の人が」
昨日とは逆に、ナツキが恥ずかしがって顔を赤くしていた。駅馬車の中で三人の女に捕まってしまい、周囲の視線を独占だ。
同乗している客からしたら、目の前でイチャラブを見せつけられて、「何だこのハーレムバカップルは!」と迷惑千万だろう。
「くふっ、くふふ……私、この戦いが終わったら弟くんと結婚するんだ♡」
シラユキが結婚宣言をする。
「ちょっとシラユキ! 変なフラグ立てないでよ」
速攻でマミカが突っ込んだ。
「マミカも心配性ね。大将軍が五人も揃っていれば楽勝でしょ。きっとネルネルがクレアとレジーナも仲間に引き入れてるはずよ」
ナツキを抱きしめる手は緩めずに、首だけマミカの方を向いたフレイアが言った。
たしかに事は順調に推移しており何も問題は無いように感じる。帝都の状況を知らないこの四人には。
「フレイア、物事ってのはね、順調に行ってる時の方が落とし穴があるのよ。いくらアタシたちが強いといっても、相手は60万もの正規軍がいる。ほんの些細なところから
用心深いマミカは安心していないようだ。ナツキの前ではデレデレだが、いざという時は本来の顔を覗かせる。
「さすがマミカお姉様です! 凄い。尊敬します」
キラッキラの目でマミカを見るナツキ。
「えへっ、アタシを尊敬するナツキの目が心地いいわね♡」
勝ち誇るマミカに、納得いかないのは二人のお姉さんだ。フレイアは文句を言い、シラユキはウンチクを語り始めた。
「わ、私だって活躍してナツキの尊敬を勝ち取ってみせるんだから。いつまでも良い気になってんじゃないわよ」
「古来より、『勝って兜の緒を締めよ』という言葉があり。戦いに勝っても油断せず、成功しても慢心せず、用心深く事に当たるのが――」
「へっへぇん、ナツキと結婚するのはアタシだしぃ! この戦争が終わったら即挙式なんですぅ♡」
フレイアには見せつけるように、シラユキのウンチクはスルーして、ナツキを独り占めするようにマミカが宣言した。自分がフラグを立てていることには気付いていないようだ。
「ぐぬぬぬぬ……」
「むうぅぅぅぅ……」
「なによぉ!」
女たちの不毛な戦いは続く。
◆ ◇ ◆
ナツキたちの乗る駅馬車がボドリエスカの街に到着した。街の入り口では検問所を設け、行き来する人々を兵士たちが厳しくチェックしている。
「マズいわね。検問所があるわよ」
馬車の窓から外を覗いているマミカが言う。
「お姉様、バレずに通過できませんか?」
「ナツキは旅の少年で通せそうだけど、アタシたちは有名人だから無理かもね」
「どうしましょう?」
「あんたの精神魔法で誤魔化せば何とかならない?」
二人の会話にフレイアが入ってきた。
「簡単に言ってくれるけどさ。これだけ多くの人の記憶を同時に操作なんかしたら、色々と不都合が出るのよ。それに、広範囲魔法なんか使ったら、アタシのナツキまで影響が出ちゃいそうだし」
マミカが説明するが、『アタシの』の部分にツッコんでしまうフレイアだ。
「恐ろしいスキルだと思ってたけど、意外と制限があるのね。あと、ナツキ少年は私のだから」
「そこはスルーしなさいよ。この緊急事態に。てか、あんたらはアタシを怖がらないのね」
「まあ、最強の精神系魔法と聞いた時には用心してたわよ。実際、何か仕掛けてきたら容赦しないって思ってたから。でも、改めて付き合ってみると、意外と面白い女だなって。ふふっ」
フレイアが笑う。シラユキの時と同じように、ナツキと絡んでからのマミカは気に入っているようだ。
「もうっ、何言ってんのよ……」
マミカの口元が少しだけ緩んだ。恐ろしいスキルを持ち幼い頃から嫌われることの多かった彼女にとって、今の心を許せる関係は居心地がいい。
「良かった。皆さんが仲良くなってくれて」
親心みたいな感じになったナツキが言う。姉妹仲良くと言っているみたいだ。
「まったく、この緊急事態なのに。あんたらって緊張感無いわね……って、ちょっと待って! もしかして、フレイアやシラユキって軍関係者に目立ってないでしょうね?」
マミカが気付いた。今にも検問が始まりそうな、こんな事態になった時に。
「どうかしましたか? お姉様」
「こいつらってデノアの勇者に負けたことになってるのよね。そんな二人が、ウロウロ街を歩いていたりしたら怪しいじゃない。まさか、軍の施設に顔を出したりしてないでしょうね?」
「あっ……」
フレイアも気付いた。
フードを被って変装はしているものの、フレイアの燃えるような赤い髪とシラユキの新雪のような銀髪は目立つのだ。
しかも軍の施設を覗きに行ったりして、二人が来訪しているのがバレているのだから。
「だ、大丈夫……たぶん」
大丈夫じゃない顔をしたシラユキが呟く。
「大丈夫じゃないし! はぁ、最悪。二人が帝都に向け移動しているのがアレクサンドラに伝わったら怪しまれるでしょ!」
マミカが喋り終わると同時に、馬車が検問所に到着した。
列を作る旅人が順にチェックを受けてゆく。すぐにナツキ達の番が回ってきそうだ。
「どうすんのよ」
「だ、大丈夫……」
「だから大丈夫じゃないし」
「ボクが何とかします」
大丈夫じゃない姉たちを気遣い、ナツキが前に出た。
「危ないよ、ナツキ」
「弟くん、下がって」
「ナツキはアタシが守るし」
姉を守ろうとするナツキと過保護な姉たちが押し合いへし合いしてしまう。傍から見たらイチャイチャしているみたいだ。
丁度その時、フレイアの視線に、よく知る人物の姿が目に入った。検問所を見回りに来たのだろう。
どこぞのお姫様のような金髪縦ロール。神に愛されているかのように美しく、全身から光でも出ているかのように派手な容姿の女。一目見たら忘れられないインパクトだ。
「あ、あれ、クレアでしょ」
フレイアがクレアを見つけて声をかけた。
「おぉぉーい! クレア!」
怪しげな集団から声をかけられ、クレアが怪訝な顔をする。
「ん? あなた方は……フレイ――ふがぁ!」
フレイアに気付いたクレアが声を上げそうになるが、横からマミカが口を押えて喋らせない。
「ふがっ、んんっ~~」
「しっ、静かにして」
「えっ、ま、マミカさん?」
「いいから来て」
クレアがコクコクと頷く。
「クレア閣下、その者達は?」
部下の兵士が心配して声をかけるが、クレアが「この者達は、わたくしが直々に取り調べますわ」と言って下がらせた。
検問所から離れ、
「な、何事ですの! 皆さんが揃って。フレイアさんとシラユキさんは、デノアの勇者に負けて行方不明と聞きましたわよ」
驚愕の表情を浮かべるクレア。驚くのも無理はない。行方不明の大将軍二人が検問所に現れ、更にマミカまで一緒なのだから。
「これには深い事情があるの」
フレイアが事情を説明しようとするが、横からシラユキが入ってくる。
「見逃して。私と弟くんの結婚がかかってるの」
ちょっと先走っているシラユキだ。
「あんたらは黙ってなさいって。アタシが説明するから」
マミカが前に出ようとするが、皆で一斉に喋っていて埒が明かない。
「わ、訳が分かりませんわ……」
クレアが途方に暮れていると、ナツキが前に出て話し始めた。
「ボクはデノア軍兵士です。帝都に行き皇帝を救い出す為に――うわっ!」
シュバァァァァアアアアァァァァーッ!
ナツキが正直に話し始めると、クレアの体から金色のオーラが立ち上った
「その方がデノアの勇者ですの!?」
真剣な顔になってクレアが訊ねる。いつでも攻撃に入れるような体勢で。
「ちょっと待ちなさいって」
「これだから陽キャは嫌い」
「陽キャ関係無いし」
いざという時に役に立たなそうな三人の姉を横目に、クレアが攻撃態勢に入ってしまった。
「光の天使よ、ユピテルの
クレアの魔法が発動した。路地を眩いばかりに輝かせながら。
――――――――――――――――
まて、それはフラグだ! 気付かぬうちにフラグを立てるお姉様。果たして、どんな運命が待ち受けているのか。
もし少しでも面白いとか、『ナツキ、ちょっとそこ代われ』とか思ったら、よろしければ――(以下略)
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