第42話 アレクサンドラ親衛隊

 三人の大将軍彼女候補と絡み合いながら一夜を過ごしたナツキは寝不足だった。あんなに魅惑的な年上女性たちと添い寝したのだから当然だ。


「はあぁ……全然眠れなかった」


 朝チュン展開のようにナツキがベッドから起き上がる。

 すぐ隣には抱きついたまま眠るお姉さんたち。右側には幸せそうな顔で眠るシラユキ。右側にはムッチリとした胸を押し付けるように眠るフレイア。何故かお腹の上にはナツキを抱き枕にしたマミカ。


 とても人には見せられない破廉恥さだ。


「お、お姉様……降りてください。そこは危険です」


 ガッチリと腹をホールドしたマミカに声をかける。このままでは体の一部がイケナイ感じになってしまいそうだ。


 ナツキの中で悶々とした感情が急速に大きくなる。


 くああっ、柔らかくて良い匂いが……。女の子の体って、こんなに柔らかいんだ。全方向から密着されて我慢できないよ。

 結婚するまでエッチはダメなのに。アレクシアグラードでは偉そうなことを言っちゃったのに。ボクは何でエッチなことばかり考えちゃうんだぁぁぁぁっ!


 ナツキがエッチなお姉さんたちに影響されて、イケナイコトしたくなってしまった。本当に悪いお姉さんたちである。



「もう、しょうがないなぁ。せめて戦争が終わるまで待ってくださいよ」


 そう言ったナツキが、愛おしそうな目をして三人の頭をナデナデする。



「ふにゃぁ、アタシのナツキぃ……誰にも渡さないからぁ……」

 寝惚けているのかマミカが寝言を言い出した。実に幸せそうな寝顔で。


「もう、マミカお姉様ったら。ベッドの中では甘えん坊なんだよな」



 そんな微笑ましい感じにクールダウンしようとしたところ、両側から激しくもエチエチな攻撃が始まる。


「ナツキのエッチぃ♡」

 ぐいっ、ぐいっ、ぐいっ!


 フレイアが大きく柔らかな部分を押し当てている。寝惚けているようにも見えるが、口元がにやけていることからわざとだろう。


「くふふぅ♡ 弟くん美味しい♡ ちゅっ、れろっ」

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ!


 シラユキがナツキの首筋をペロペロしている。寝惚けたフリをしているが、絶対にわざとだろう。


「うわあっ! ちょっと、それ絶対わざとですよね」


「バレたかぁ♡ ナツキがナデナデするから悪いんだぞっ♡」

「弟くんの愛を感じた。くふっ、くふふっ……」


 二人共、ナツキのナデナデで目が覚めたようだ。幸せな添い寝の目覚めが頭ナデナデというご褒美で、二人のテンションが爆上げしたのだろう。


 そんな甘々タイムをやっている頃、お腹の上にいるマミカがモゾモゾ動き出す。


「イケナイんだぁ、ナツキ♡ また、こんなに……」

「うわあああっ、そこは勘弁してください!」


 朝っぱらからイケナイ感じになってしまうメンバー。これから帝都に乗り込む緊張感は皆無だ。


 ◆ ◇ ◆




「もうっ、そんなに怒らないでよ。冗談だし」

「つーん」


 そっぽを向いているナツキを、必死にマミカがなだめている。ちょっとからかい過ぎたようだ。


 中間駅の街を出て、再び駅馬車の中である。


 実際のところナツキは怒っていなかった。むしろ、最近になってエッチなことばかり考えてしまう自分に怒っていた。


 だ、ダメだダメだ!

 こんなことばかり考えていたら、遊び人の悪い男になっちゃいそうだよ。我慢しないと。


 そうだっ!

 ここは、もっとポンポンやナデナデに磨きをかけ、お姉さんたちに満足してもらえるようにしよう! ボクのサービスで満足して大人しく寝てくれれば解決だよね。


 ただでさえ皆を堕としまくるポンポン攻撃を、更に極めようとするナツキ。これでは彼女候補たちが凄いことになる未来しか見えないだろう。



 ナツキが静かになってしまい、マミカが心配し始めた。


「ねえ、まだ怒ってる? だ、大丈夫だし。初めてはお姉様に任せない」


 ちょっと話が飛躍しているが、マミカなりに気遣っているようだ。


「あっ、大丈夫です。怒ってないですから」

「えっ、そうなの?」

「はい、マミカお姉様には、もっとサービスしますから」

「ん? サービス」


 ポンポンポンポンポンポン――

「んひぃ♡」


 何を思ったのか、周りに乗合の客が数人いるというのに、こっそりお腹ポンポンを始めるナツキだ。フードを被って変装しているとはいえ、若い男女がコソコソイチャイチャしていては怪し過ぎる。


「ちょ、ダメぇ♡ こんな所で……バレ……ちゃう。んあぁ♡」

「はい、頑張ります」

「ここで頑張るなしぃ♡」


 公衆の面前でマミカが堕とされてしまった。これにはドS女王も面目丸潰れだ。



「ちょっと、ナツキ。何さっきからコソコソしてんのよ。マミカばかりズルいでしょ」


 二人がイチャイチャしていると思い込んだフレイアが文句を言う。


「フレイアお姉さんにもサービスしますね」


 ポンポンでマミカを良い子にしたナツキが、次なるターゲットをフレイアにロックオンする。


「えっ? 何が……んああぁん♡」

 ポンポンポンポンポンポン――


「どうですか?」

「はぁん……ダメぇ♡ 人が見てるからぁ♡」

「もっとですね」

「もも、もっとじゃないわよ♡」


 有無を言わさずポンポンしまくりフレイアを良い子にした。そして、返す刀でシラユキにも手を伸ばす。


「シラユキお姉ちゃん」

「ん? 何かな、弟くん」

 ポンポンポンポンポンポン――

「はひぃ♡」

「頑張ります」

「んっ♡ くふぅ♡ んぁ♡ し、至福♡」


 シラユキにはご褒美だった。どうやら、お外でイチャイチャは、シラユキ的に至福の時間のようだ。


 そんなイケナイ感じに馬車で揺られ続け、ナツキ姉妹シスターズの旅は続く。


 ◆ ◇ ◆




 ボドリエスカにある砦に到着したクレアは、先ず街道を封鎖し行き来する旅人のチェックを厳重にした。

 デノアの勇者が街道を使うのなら、必ずこの検問所に通るはずである。


「これで一先ずは安心ですわね」

 一人、砦の窓から検問所を見つめるクレアが呟いた。


 大人しくアレクサンドラの命令に従ってはいるが、クレアにはに落ちない点がいくつもあった。


「本当にこれで良いのかしら……」


 彼女の見つめる先には、街道を行き来する人々が、兵士の検問を受けているのが見える。皆、荷物や身元を厳しくチェックされ迷惑そうだ。


「このところ、戦争も長引き国民の暮らしも厳しさを増しているようですわね……。帝都にいると分からないのですが、戦地に赴く途中の街では、何処も人々の表情は暗く不満が溜まっているように見えますのに……」


 クレアの疑念には皇帝に会わせてもらえないことにも原因があった。皇帝アンナは幼いからか、代理でアレクサンドラ議長がお言葉を伝える形になっているのだ。

 せめて直接皇帝からお言葉を頂ければ、全てとは言えずとも納得はできたはずなのにと。



「周辺国を併合し強大な帝国を築き上げたルーテシア。更に版図を広げ、フランシーヌ、リリアナ、そしてデノア。このままだとゲルハースラントやヤマトミコにも宣戦布告する事態になりそうですわ」


 クレアの蒼玉サファイヤの瞳に陰りがさす。


「ルーテシア帝国は世界を敵に回して、一体何処に向かっているのかしら……」


 ◆ ◇ ◆




 帝都宮殿――――


 ここ帝都ルーングラード宮殿に十二人のアレクサンドラ親衛隊が勢揃いしていた。いづれもスキルレベル7~9の猛者である。


「時は来た。遂に我ら親衛隊が表舞台に立つのだ。各員、気を引き締め事に当たれ!」

「「「おおおお――――っ!!」」」


 檀上で指揮を執っているのが、アレクサンドラ親衛隊の隊長であるユリア・クラシノフである。


 少し小柄な身長にくすんだ緑色の髪の女性。気の強そうな顔には強い決意を感じ、少しだけ融通の利かなそうなイメージをしている。

 剣技レベル9を持つ剣士であり、帝国第二の剣豪とうたわれていた。


 帝覧武闘大会では毎回決勝でレジーナに負けており、彼女に対し強烈なライバル意識を持っているようだ。



「ユリア隊長、我々十二人が揃えば、たとえ大将軍といえど楽勝ですね」


 声を上げたのが副隊長のダリア・ゼレキン。青みがかった髪の女性。特に特徴が無いのが特徴で、ぱっと見はモブに紛れそうなイメージだ。

 ただ、支援魔法レベル8という強力なバフをかける能力者であり、パーティーには欠かせない人物である。


「馬鹿者! 大将軍を甘く見るな。レベル9と10では越えられない壁があるのだ。私は嫌と言うほど思い知らされておるからな」


 武闘大会で毎年レジーナに負けているユリアが答えた。あの捉えどころのないキャラであるレジーナに負けるのが、より彼女にとっては屈辱なのだろう。


「はっ、申し訳ございません、隊長」

「うむ、決して油断はするな」

「はい!」


 ダリアが敬礼して下がる。


 他のメンバーは、それぞれ攻撃魔法レベル7のスキルを持つオリガ・ゾーリン、ニーナ・ザハロフ、マリア・バウアー。

 剣技レベル7のスキルを持つリーゼロッテ・ヘルダー、デミトリー・ボージン、ヒナタ・ササキ。

 防御系魔法レベル7のスキルを持つウルスラ・ドール、ルクレース・バイロン、ベル・フィールド、フレンダ・アトリー。


 防御系魔法を使う四人は、対マミカ用に集めたメンバーである。アレクサンドラがマミカと会う時には、常に四人態勢でマミカの精神魔法を防御しアレクサンドラを守っていた。


 その中で唯一の男であるデミトリ―が声を上げる。


「おいおいおいっ! あのフレイアを倒したら、俺が自由にして良いんだよな。あの色っぽい体……。けひっ、こりゃたまらんぜ! やる気も出るってもんだ」


 イキり出した同僚を止める為なのか、ただバカにしているのか、リーゼロッテが口を挟む。


「お前じゃ簡単に返り討ちだぞ。消し炭になるのがオチだ」

「っんだとコラっ!」

「お前じゃ勝てないと言っている」

「くそっ、なんだよ……」


 これには隊長のユリアがたしなめる。


「デミトリ―、貴様では勝てぬ。大将軍を甘く見るなと言ったであろう。男であるにもかかわらず親衛隊に入れて頂いたのだから分をわきまえろ」


「けっ! へいへい、分かりましたよ隊長」

 不貞腐れてデミトリ―が引っ込んだ。



 アレクサンドラが敷いた最強の布陣。何も知らないナツキたちは帝都へと進んでいた。果たして作戦の行方は――――


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