第41話 極超高速のクレア

 大至急任地に向かえとの命令で、休憩もままならないままネルネルは帝都を後にすることとなる。ロゼッタを残したまま、帝都西方のバラシコフに向け出発することになった。



「ネルネル……どうしよう。計画が……」

 ロゼッタが呟く。


「これはマズいんだナ。クレア達には会えずじまい。別行動で帝都から離されてしまう。計画が大きく狂ったんだゾ」


「だ、だよね……」


 ネルネルがロゼッタの耳元に顔を寄せようとする。しかし、身長差がありすぎて全く届かない。


「ロゼッタ、しゃがむんだナ」

「あっ、ごめん」


 ロゼッタがしゃがんでネルネルに顔を近づけると、ネルネルが小さな声で話し始めた。


「何かおかしい。議長には気を付けるんだゾ」

「えっ、そ、そうなの?」

「何かは分からないけど、嫌な予感がするんだナ」

「ええっ!」

「意図的にわたしたちを帝都から離している気がするんだゾ」


 敵の勇者が帝都に向かっているというのに、敢えて大将軍を遠ざけるのは疑惑を持つはずだ。


「それに……あの親衛隊。陛下を守るのではなく本人を守らせているようナ……」

「だ、だよね」


 少し考えてからネルネルが耳打ちする。


「ロゼッタ、わ、わたしは任地に向かうフリをして、途中で戻ってくるんだナ。それまでナツキたちの護衛とフレイアたちの手引きをお願いするんだゾ」


「わ、分かった。任せて」


「予定が狂ったが、陛下を救い出してしまえば同じことなんだゾ」


「だよね。クレア達には後から説明しようか」



 コソコソ話を終えたネルネルは、ロゼッタをその場に残し任地に向かった。

 最強の大将軍を五人も揃え完璧な布陣だったはずが、幸先の悪いスタートになってしまう。


 ◆ ◇ ◆




 少数の部下だけ連れボドリエスカに向かっていたクレアだが、街に入る手前で思いもよらぬトラブルに見舞われてしまう。クレアの乗った馬車が盗賊のような集団に襲われてしまったのだ。



「放てえっ!!」


 ボスらしき男の掛け声で一斉に矢が射かけられる。一斉射の後、剣を持った盗賊団が突っ込んできた。クレアの乗る豪華な馬車が、どこぞの金持ちのものと勘違いしたのだろう。


 ズシャズシャズシャズシャズシャズシャズシャズシャ!

「「「ウオオオオオオォォォォーッ!」」」


 盗賊共の雄叫びと従者の悲鳴、金属が打ち合わさる音が混ざり合い騒然とする。


「何事です!」

 クレアの問いに側近が答えた。

「クレア様、盗賊団です。お逃げください」


 逃げろと言われて大将軍が逃げるはずもなく――

 クレアは馬車の扉を開け、大地に降り立った。


「あなたたち、乱暴をおやめなさい! 大人しく降伏すれば命までは取りませんことよ!」


 クレアの一喝で一瞬だけ静まり返る。が、すぐに男たちの笑い声に変わった。


「がぁっはっはっは! 乱暴をやめなさいだとぉ!」

「偉そうな女だな。このアマぁ!」

「イイ女じゃねぇか。こりゃ良いところのお嬢様かぁ?」

「こいつぁ上玉だ。たまらねえ、ムラムラするぜぇ!」


 相手が一騎当千の大将軍だとも知らずに、イキった盗賊が言いたい放題だ。


「おい、良い胸してるなぁ、ネエチャン。こちとら、女性上位の帝国文化は飽き飽きなんだよ。その体、好きにさせてもらうぜ!」


 下品な笑いを浮かべた男がクレアの胸を掴もうとする。しかし、その手は彼女の芸術的な曲線を描く双丘に触れることはなかった。


「忠告はしましたわよ」

 シュバァァァァアアアアァァァァーッ!


 クレアの体から金色のオーラが放出される。眩いほどに勢いよく溢れるオーラで、男の体が吹き飛ばされた。


「うわああぁっ!」

「なな、何だコイツ!」

「こ、こんな巨大なオーラ見たことねえぞ!」


 そのままクレアは魔法の詠唱に入る。


「光の天使よ、神の雷よ、天地を開闢かいびゃくする力の根源よ、我が不滅の剣となりて敵を討て――くらいなさいまし! 光魔法レベル10の力を。雷霆の天使ラミエルレイ!」


 シュバァァァァババババババババババ! ズダダダダダダダダダダダダダァァァァーン!


 天に突きあげたクレアの腕から幾百もの光線が発射される。

 それは極超高速のレーザーとなり盗賊たちの上に降り注いだ。盗賊団は十数人なのに発射されたレーザーは数百なので、明らかに過剰攻撃だ。



 土煙が流れ視界が開けてくると、窃盗団のむくろが散らばっている――と思いきや、全員無傷で気絶しているだけだった。


「ふうっ、片付きましたわね。彼らを拘束して保安部に引き渡しなさいな」


 シュタッ! ビシッ!

 オヤクソクのキメポーズ。


 一仕事終えたクレアが、キラキラと煌く縦ロールの髪をなびかせた。周囲の側近や兵士の誰もが目を奪われ心酔しているようだ。


 クレアが本気を出せば盗賊団は塵一つ残さず死体も消滅していただろう。それほどの力の差があるのだから。

 ただ、無益な殺生をしたくないクレアが手加減して、わざと狙いを外したから全員生きているだけなのだ。



 クレアが馬車に戻ると、うっとりした顔の女兵士たちが噂し合う。


「はぁぁ、さすがクレア様。素敵ぃ♡」

「相変わらず、お美しいわぁ♡」

「美しいだけでなく、お強いだなんて最高ぉ♡」

「クレア様ほどのお方が男の噂が皆無なのは謎ですよね♡」

「きっと、世界最高の男でないとクレア様は納得しないのよ♡」

「「「きゃああああぁっ!」」」


 周りが勝手に盛り上がっているが、クレアは別に世界最高の男を求めているわけではない。周囲の噂が過熱して勝手にハードルが上がってしまっただけなのだ。


 本当は彼氏が超欲しいのに、男が怖気づいて誰も近づかないだけである。度を越えた美人というものは、逆にモテなくなる運命さだめなのだろう。



「はあぁ、何処かにわたくし好みの男性はいないのかしら。周りが勝手に盛り上がって迷惑ですわ。もう25歳になってしまいましたのに……。大将軍の中で最年長彼氏無しとか示しがつきませんわ」


 ブツブツと独り言を呟きながら馬車に揺られるクレア。当然、後にある男に堕とされて、前後不覚になるほどドロデレするのは知らないままだ。


 ◆ ◇ ◆




 一方、何も知らないまま帝都へと向かっているナツキと三人の彼女候補といえば――――


 超積極的で愛に飢えた女たちに、ナツキが食われそうになっていた。



「ちょっと待って! こんなのおかしいです!」


「ああぁ♡ ナツキ少年の匂いだぁ♡ くんかくんか」

「弟くん……もう離さない♡」

「ちょっと狭いって! ナツキはアタシのだから」


 何故か一つのベッドに四人が寝ていた。



 アレクシアグラードを出て、街道沿いを帝都ルーングラードへと向かっている四人は、順調に歩を進めていた。あとは一直線だ。

 街道沿いを往復する駅馬車に乗り先を急ぐ。七頭の馬で牽く本格的な大きな馬車で、乗り心地も上々である。


 中間駅で日が暮れてきた為、宿屋で一泊することになった。大方の予想通り、三人の彼女候補は添い寝を希望し、このような状況になった次第である。



「はああっ、当たってます。色々なところが」


 もうここまでくると初心うぶで純粋なナツキでも我慢の限界だ。こんなエッチなお姉さんたち三人と添い寝など理性がもたない。


「ナツキぃ。これは帝国の伝統文化、回転添い寝なんだしぃ♡」

 マミカが適当な作り話をしている。またしても騙してイケナイコトさせようとするつもりだ。


「さすがにそれはない」

「はぁ? アタシの言うこと信じられないの?」

「そ、それは……」

「悲しいな。ナツキがアタシを信じてくれないなんて」

「ち、違います。信じます。尊敬するマミカお姉様を」

「ちょろっ♡」

「えっ、何か言いましたか?」

「なんでもぉ♡」


 またしても簡単に騙されるナツキ。もうマミカのやりたい放題だ。

 攻められるとよわよわになって堕とされまくるマミカだが、攻めている分にはつよつよだった。


「ふっ」

 マミカがフレイアとシラユキに目で合図する。


「ぐっ」

「んっ」

 二人がアイコンタクトを取り合い同意した。


 マミカにやられているのは不本意だが、ここは彼女の作戦に乗ってナツキとの距離を縮めるのが最優先なのだろう。


「そうよナツキ少年。私たちの誰かと付き合うのなら帝国文化を尊重しないと」


 そう言いながらフレイアが、より深く手足を絡ませる。ナツキの脚の間に自らの脚を入れグイグイと。


「くうぅ……が、頑張りますぅ」

 必死に耐えるナツキがフレイアの脚を受け入れた。


「そうそう、弟くんも回転木馬を覚えないとね♡ あと腋ペロも♡」


 シラユキが名前を間違えている。回転木馬ではなく回転添い寝だ。マミカが適当に作った名称なので仕方がないが。

 ついでに腋ペロさせようとナツキの頭を腕枕するように腕を巻きつけた。


「ああぁ、シラユキお姉ちゃん……」

「ふああぁ♡ くすぐったい」


 ナツキの吐息が腋にかかり、シラユキがモゾモゾする。さり気なくしているようでいて、完全に変態お姉さんである。



 これから訪れる過酷な運命も知らず、四人のエチエチタイムは続くのだった。






 ――――――――――――――――

 待ち受ける極超高速の女。気高く気品があるクレアが堕とされるとどうなるのか……ゲフンゲフン、果たしてどんな戦いが繰り広げられるのか?


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