第38話 作戦開始

 一晩中甘い夜を過ごしたロゼッタが部屋を出て皆の前に顔を出した。少し気怠そうなイケナイコトした後の余韻を残すような顔で。


「ふぅ♡ 皆、おはよう。んぁ♡ ナツキ君てば、意外と強引で激しいんだね。熱くて逞しく……何度も何度も……」


 ※注意:ナツキはエッチなことをしていません。お腹ポンポンしただけです。


 まるで事後のようなロゼッタのセリフに、他の女は黙っていられない。



「ななっ、ナツキ」


 さっそくマミカが詰め寄る。ロゼッタと引き離すようにナツキを確保してしまった。

 そしてフレイアとシラユキはロゼッタに問いただしている。


「ちょっと、何したのよロゼッタ!」

「ぐぐっ、ロゼッタ……極刑?」


「ちょ、ちょっと、何もしてないよ」

 と言うロゼッタだが、やっぱり火照った体と照れた顔が怪しい。



「ロゼッタ姉さんは何もしてませんよ。ちゃんと約束を守ってくれました」


 再びロゼッタの隣に立ったナツキが言う。その顔は真顔だ。ただ、呼び方が『姉さん』となっていて二人の親密ぶりを表している。


「えへへ、当然だよナツキ君。帝国騎士だからね」

「ロゼッタ姉さん。凄いです。ただのエッチなお姉さんじゃなかったんですね」

「うへへ、エッチなのは否定しないんだ」


 明らかに二人の距離が縮まっている。前日までは『おあずけ』状態だったのに、今は仲良く笑顔で話をしていた。 

 マミカが「本当に何もされてないの?」と聞くが、ナツキは「はい」と首を縦に振っているだけだ。



「ロゼッタ姉さんとは帝国の現状や今後について話をしたんです。仲間になったのだから、ロゼッタさんのご要望通り、『姉さん』と呼ぶことにしました。姉さんは騎士の鏡ですよね。尊敬します」


「うへへぇ♡ 照れるねぇ。困っちゃうな♡」


 ナツキの目がキラキラしている。明らかにロゼッタに対して好意を持っているように。それに対しロゼッタもデレデレになって応えている。




 このナツキの変化で、不安を覚えた姉が二人。そう、フレイアとシラユキだ。


 フレイアの心の声が叫ぶ――――


 ちょちょ、ちょっと待って!

 ナツキってば、マミカも尊敬してるし、ネルネルも尊敬してるみたいだし、ロゼッタまで尊敬しちゃってるじゃない! も、もしかして私って、ただの淫乱なお姉さんになってない?


 マズいわね! このままだとナツキが他の女のところに。どうにかして私の株を上げないと。良いところを見せてナツキに凄いって思ってもらおうかしら――



 シラユキの心の声が叫ぶ――――


 えっ、えええっ! 待って待って!

 私の弟くん、マミカやネルネルやロゼッタを尊敬しちゃってるんですけど。わ、わわ、私のことは? も、もしかして私って、ただのムッツリでコミュ障で痛い女だと思われてない?


 マズいマズいマズい! このままだとナツキが他の女のところに。どうにかして私は変な女じゃないよって分かってもらわないと。コミュ力は壊滅的だけど、ポエムとか小説の話で凄いって思ってもらおうかな――



 二人共必死だった。ナツキに気に入られようと。



 フレイア(淫乱なお姉さん)が凛とした表情になって言う。


「こほん、ナツキ少年。この先は厳しい戦いになるだろう。だが安心してくれ。私がいれば千人力だ。見事、作戦を成功させてみせよう」


「フレイアお姉さん。ありがとうございます。頼もしいです」



 シラユキ(痛い女)も凛とした表情になってポエムを語り始めた。


「こほん、弟くん。この寒風吹きすさぶ世間の荒波。一縷いちるともしびの胸のぬくもりか。あゝ私の心は舞い上がる。まるで片翼になった海鳥のように。つがいとなる、あの人の翼を求めて――」


「シラユキお姉ちゃん、何かよく分からないけど凄いです」


 シラユキは外しまくっていた。だが、それが良い。



 シラユキのポエムで場が寒くなってから本題に入る。遂に作戦決行である。


 ◆ ◇ ◆




「では、わたしたちは先に行くんだゾ。あまり帰りが遅くなると怪しまれるからナ」


 ロゼッタの背中に乗ったネルネルが言う。

 宿を出て街の城門のところまで来ていた。


 ネルネルとロゼッタは先行し、先にクレアたちと合流する予定だ。元々クレアと三人で帝都に戻るはずだったのを、偵察と称してここアレクシアグラードに来ていたのだから。


 あまり帰りが遅くなればアレクサンドラ議長に怪しまれてしまうだろう。



「ネルねぇ、ロゼッタ姉さん、帝都のことは頼みます」

 心配そうな顔をしたナツキが声をかける。


「任せるんだナ。できるだけクレアとレジーナも仲間になるよう声をかけてみるんだヨ」


 その時、ネルネルを背負っているロゼッタがモジモジし出した。何か言い忘れたことがあるようだ。

 その態度を見たネルネルも何を言わんとしているか察し、恐る恐る話し始めた。


「な、ナツキきゅん。そ、その……」

「何ですかネルねぇ」

「うっ……か、かの……じょ……ごにょごにょ」

「えっ、良く聞こえなかったです」


 ネルネルの声は途中で小さくなってしまう。

 代わりにロゼッタが話し始めた。


「なな、ナツキ君!」

「は、はい?」


 ロゼッタがネルネルの顔を見て頷き合う。意を決して口を開いた。


「ナツキ君。今まで、け、結婚とかエッチとか言って困らせちゃったけど、ほ、本気でナツキ君と付き合いたいんだ。私たちも彼女候補にしてください。おなしゃす!」


 そう言って真っ赤な顔で手をナツキに伸ばす。



「彼女候補……」

 ナツキは考えていた。これ以上彼女候補を増やして良いのかを。


 彼女候補って何人もいて良いのかな? 結婚できるのは一人なんだよね。そんなに何人もつくるのは遊び人の悪い男になっちゃいそうだし……。


 あっ、でも、帝国の文化だと何人いても良いのかもしれない。何処かでそんなことを聞いたような。候補なら良いのかな?

 それに、ネルねぇもロゼッタ姉さんも大切な仲間だし。平等に接しないとダメだよね。


 ナツキが彼女たちを平等に扱うのを決めてしまった。もう戻れない修羅のハーレムルートへ突入だ。血の雨が降らないよう祈るばかりである。



 少し考え込んでいたナツキが口を開く。


「分かりました。ネルねぇもロゼッタ姉さんもボクの大切な人です。彼女候補にします」


 ナツキが二人を彼女候補にしてしまった。ネルネルが彼女候補四号、ロゼッタが彼女候補五号だ。


「や、やったぁぁーっ! 彼女だ彼女だぁ♡」

「ぐへへぇ♡ 彼女になったんだナ♡」


「ま、待ってください。候補ですよ、候補」


「彼女になったんならこっちのもんだよねっ♡ エッチも解禁かな」

「ぐひゃぁ♡ 今度は、徹底的に愛の触手プレイなんだナっ♡」


 聞いちゃあいない。実質彼女みたいなものだと思っているようだ。


「くぅううっ、何でライバルが増えてくのよっ!」

 益々ライバルが増えて、ご機嫌斜めなマミカが言う。


 そして、ライバルたちの追随に、フレイアは作戦での活躍を誓い、シラユキはナツキを想う歌を作曲しようと思った。




「じゃあ、先に帝都に入って待ってるね。スキル、肉体超強化! 神速超跳躍走法ホリズンドライブ!」


 ズドドドドドドドドドッ!

 ビュゥゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥ――――

「ぎゃああああぁぁぁぁ――――」


 張りきったロゼッタが超スピードで加速する。ネルネルの悲鳴と共に。凄まじい勢いで走り去り、地平線の彼方に消えてしまった。


 ◆ ◇ ◆




 帝都、宮殿大広間――――


 先に帝都に着いたフランシーヌ方面軍司令官クレア・ライトニングは、アレクサンドラ元老院議長の叱責を受けているところだった。


「どういうことじゃ! 勅命ちょくめいを以って大将軍を呼び寄せたはずじゃが。命令に従い帰還したのがそなただけとは?」


 イライラした表情のアレクサンドラが言い放つ。皇帝の命で呼びつけたはずなのに、やってきたのが一人だけでは納得がいかないのだろう。


「恐れながら、議長。ネルネルとロゼッタの二名は、勇者の情報収集を行ってから帝都に向かうと申しまして……。情報を集めたのち、すぐ帰還する算段でございますわ」


「勝手なことをを申すな! それを監督するのが司令官たるそなたの役目であろう! もうよい! 下がれ! すぐレジーナと帝都の防備に努めよ!」


「はっ!」

 恭しく礼をしてクレアが下がって行く。




 宮殿を出て、近くにあるルーテシア帝国軍事省の建物に入ったクレアが不満をぶちまける。


「もうっ、もうもうもうっ! やっぱりわたくしが怒られましたわ。あの自由人の同僚たちのせいで。だから言いましたのに」


 キラキラと煌く金髪縦ロールをなびかせながら怒るクレア。怒っている様も美しく華麗で、他者を魅了してやまない。しかも、怒っているのに、その姿は怖くも嫌味も無く見惚れてしまいそうに愛らしい。



「ふあっはっは。クレア殿、災難でありましたな」


 剣の大将軍レジーナが出迎える。能天気そうに笑いながら。


 いつ見ても王子様系女子のようにスラっとした長身でスタイル抜群の体。白を基調とした騎士服に身を包み、パンツスタイルの足は、より煽情的な脚や尻のラインを強調している。


「レジーナさん、笑い事じゃありませんわ。デノア王国の勇者が帝都に向け進撃中とのことですのに、同僚の大将軍ときたら男にうつつを抜かしてばかりで」


 クレアが答える。


 この二人、並んで立つとより一層美しさが際立つ。お姫様のように美しいクレアに、男装王子様女子のように美形なレジーナ。まるで夢物語のように見る者を惚れ惚れさせてしまう。


 単純で能天気なレジーナだが、意外と聞き上手でクレアの話し相手になっているのだった。


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