第37話 共寝の誓い

 究極の選択を迫られるナツキ。迫りくるエッチなお姉さんたちに、ナツキの選んだ女性は。


「ほら、ナツキ少年♡ 一緒に寝るわよ」

 フレイアが手を伸ばす。


「永遠が支配する時の迷宮にて、共に夢の世界に」

 ポエマーのシラユキが手を伸ばす。


「ナツキ、アタシの手を取りなさい」

 マミカも手を伸ばす。


「ナツキきゅん♡ 一緒にベッドで話すんだナっ」

 細く華奢な手を伸ばすネルネル。


「むっはぁ♡ 一緒にエッチ……じゃなかった、寝ようよ」

 前屈みにグイグイ出るロゼッタも手を伸ばす。



 五本の手を前に、誰の手を掴もうかナツキは迷っていた――


 どうしよう……誰か一人を選ばなきゃならないのか。全員大切な人なんだから選べないよ。

 こんな時どうしたら……。

 そうだっ! そういえば、前に幼年学校でミアが言っていたぞ。



 ナツキはミアの言葉を思い出した――


『いいっ、ナツキ! 今度の林間学校の班決めは、絶対にあたしを選びなさい!』

 胸にパシッと手を当てミアが言い放つ。


『何でさ。ミアと同じ班だとコキ使われそうだよ』


『何言ってるのナツキ! 逃げちゃダメよ。男なら、敢えて苦難の道を進みなさい! 凡庸ぼんようなクラスの女子じゃなく、高嶺の花のあたしを狙うくらいしなさいよ』


『ちょっと意味が分からない……』


『い、意味なんてどうでも良いのよっ! と、とにかく、無理だなんて思わないで、当たって砕けろの精神で挑んでみなさいって言ってんのよ!』



 ――――――――そうかっ! 逃げちゃダメだっ!

 ミアが言ってたのは、そういうことだったのか。

 もう仲良くなっている優しいお姉さんじゃなく、一番問題が多くて困ったお姉さんを選べってことなんだよね。


 ナツキが盛大に誤解した。



「お願いします。ロゼッタさん!」

 シュタッ!

「「「ええええええええっ!!」」」


 まさかのまさか、ナツキがロゼッタの手を取り、部屋に女たちの絶叫が響く。自分が選ばれると信じて疑わなかったフレイアたちは力なく崩れ落ちた。



「えへへぇ♡ やっと私の想いを受け入れてくれたんだね。嬉しい♡ 今夜は熱い夜になりそうだよ。ノルマは15回かな」


 勝ち誇るロゼッタ。顔がにやけっぱなしだ。


「あああぁ、聞きたくない」

「絶……望……」

「ナツキ、その女に襲われたのよ!?」

「ぐへぇ……人生甘くないんだナ……」


 負けヒロインになった四人にナツキは声をかける。


「皆さんは必ず今度添い寝しますから安心してください。今回は訳あってロゼッタさんにしただけですから。それに、戦争が終わったら、いくらでも添い寝できますからね」


 ナツキの言葉で少し元気を取り戻した四人。無意識に言ったはずのナツキの言葉により、皆の戦争終結への闘志を燃やしてしまう。



「それに、ロゼッタさんは一度問題を起こして反省しています。そうですよねロゼッタさん」


「う、うん……そうだね」

 ロゼッタが頷く。


「また同じ失敗はしないはずです。誇りある帝国騎士なんですから。騎士の名誉に誓って、無理やり襲ったりなんてしませんよね」


「ええっ、あっ、その……そうだね。とほほぉ……」


 やる気満々だったロゼッタが泣きそうだ。ナツキをベッドに連れ込んだら、ちょっと強引に迫ろうとしていたのに、そんなことを言われたら悪さはできない。


「ほら、安心してください。一緒に寝るだけですから。男女の営みは性欲だけじゃダメなんですよね。愛し合う気持ち。相手を思いやり大切にする気持ちが大事なんです。性欲だけで行為をするなんてダメです! それは愛じゃないです!」


 ガアアアアァァァァーン!

 性欲が先走りしていた大将軍たちがショックを受けた。そんな当たり前のことを年下男子に教えられるなんて恥ずかし過ぎる。


「ぐはぁ……な、なんか、エッチなことばかり考えていた自分が恥ずかしいよ……」


 青ざめた顔のロゼッタがブツブツ呟いている。ナツキは、そんなロゼッタの手を引いて部屋を出て行った。


「では、おやすみなさい。明日から皆で協力して帝都を目指しましょう」


 バタンッ!



 シィィィィィィーン――

 二人が出て行ってから、部屋に沈黙の時が流れる。



「ま、まあ、これなら安心でしょ」

 フレイアが口火を切った。

「でも、羨ましい……」

 シラユキは納得していないようだ。

「次はアタシを選んでもらうんだから」

 マミカが呟く。

「わ、わわ、わたし、彼女候補にしてもらってないんだナ」

 ネルネルが今頃気付いた。




 一方、同室になったナツキとロゼッタだが――


 エッチが禁止されションボリしていたロゼッタがベッドに入ると、その横にナツキまで潜り込んできて驚く。まさか添い寝してもらえるとは思っていなかったのだ。


「えっ、ナツキ君……」

「こ、これが帝国の文化なんですよね?」

「えっ?」


 マミカに仕込まれた帝国流女性の扱い方を実践するナツキ。まだ騙されているのに気付いていないようだ。


「ううっ、ロゼッタさんは魅力的なので恥ずかしいのですが、ちゃんとサービスできるように頑張ります」


 ぎゅぅぅ~っ!

「はううぅ~ん♡ ななな、ナツキ君♡」


 ナツキに抱きつかれて天にも昇りそうなロゼッタ。ただ、エッチは禁止されているので生殺し状態だ。


「で、では、寝ましょう」

「う、うん。そうだね」


 童貞のナツキと、ある意味童貞みたいなロゼッタの同衾どうきんだ。初々しい感じに二人とも緊張している。



 ロゼッタは、ドロドロと燃え上がるような感情を押し殺して考えていた――――


 うわああああっ! 襲っちゃダメだ! 襲っちゃダメだ! 襲っちゃダメだ!

 これも愛なんだ。ナツキ君を想っているなら、相手を尊重しないと。我慢、我慢だよ。でも、おあずけはツラいよぉぉ~っ♡



 ナツキは、ムズムズと立ち昇ってくる感情を押し殺し考えていた――――


 うわああああっ! 触っちゃダメだ! 触っちゃダメだ! 触っちゃダメだ!

 愛が大切なんだ。ロゼッタさんのおっぱいが大きいからって触ったりしたらダメだ。女性は大切にしないと。我慢、我慢だぞ。でも、気になるぅぅ~っ!



 似たようなことを考えていた。



「そ、そうだ、ロゼッタさん、ありがとうございます。協力してくれて」


 大きなおっぱいから意識を逸らそうと、ナツキがロゼッタに話しかけた。


「えっ、そんなの当然だよ。我々帝国騎士は、本来国民を守るのが仕事だからね。陛下の権力が利用され国民が苦しんでいるのなら、それを正す為に矢面に立って戦うのが私の役目さ」


 今までエッチなことばかりだったロゼッタが、帝国騎士の顔になって話し始める。それは優しくて力持ちの女戦士の顔だ。


「ロゼッタさん……騎士が全てロゼッタさんみたいな人なら、きっと素晴らしい国になりそうですよね」


「そ、そんな大したものじゃないよ。私は、ごく当たり前のことをしているだけだよ。えへへぇ♡ ナツキ君に褒められると照れちゃうな」


「そんなことありません。ロゼッタさんは素晴らしい人です。ここに来るまで色々な騎士や兵士を見ました。市民をイジメている人や、賄賂を要求する人……。人は誰しも悪い心を持っているのかもしれません。でも、ロゼッタさんのような人がいれば、きっと良い国になるはずです」


「うへっ、うへへぇ♡ そんなの言われたら、もっと好きになっちゃうよ♡ て、照れるねぇ♡」


 ナツキに揉められて、ロゼッタがデレッデレになってしまう。もう顔が緩みっぱなしだ。



「ボクも頑張ります。帝都に入ったら皇帝を助け出して――」


 目を輝かせて話すナツキを見ながら、ロゼッタの胸に込み上げる思いがあった。


「ナツキ君、いいかい。頑張るのは良いけど、命を粗末にしちゃダメだよ。もうダメだと思ったら、一旦退いて命を大切にするのも大事なんだから」


「えっ?」


「私は多くの青少年兵士が死ぬのを見てきたんだ。徴兵され最前線に投入された男性兵士は戦死者が多い。その多くは貧困層や辺境に住む民族などの若い男性だった。皆、夢や希望があったはずなのに。人生これからだったのに……」


「ロゼッタさん……」



 破竹の勢いで領土を拡大する帝国だが、その実、戦争における兵士の扱いは劣悪だった。最前線に投入される若者は地方から集められたレベル1や2のスキルしか持たない貧困層で、ろくに武器も与えられず最初に突撃を行うのだ。

 前から扱いが良かったとは言えないが、アレクサンドラ議長が権力を握ってからは戦死者が激増している現状である。



「私は大将軍なんて大それた地位にいるけど、命令に従って戦っているだけで……。無謀な戦争で死んでゆく若者を救うことさえできないんだ。だからナツキ君。キミは死なないで。絶対に……」


 ぎゅっ!

 辛そうな顔になるロゼッタを、ナツキが優しく抱きしめた。


「大丈夫です。ボクは死にません。戦争を終わらせて若者が夢や希望を持てる国にするんですよね。もう誰も戦地に向かわなくて済むように。一緒に頑張りましょう」


「うん、うん」


 ロゼッタの心に温かい光が灯る。優しい力持ち少女が受けた心の傷を癒すように。



 ナツキは誓いを新たに帝都に進む決意をした――


 そうだ、早く戦争を終わらせないと。こうしている内にも戦地で亡くなる人がいるんだ。


 人の心に良いところも悪いところもあるのなら、決して戦争や犯罪は無くならないのかもしれない。それでも、この無益な戦いで苦しむ人を少しでも減らせるのなら。ボクは進む。ボクは、世界を救う勇者になるんだ!



 せっかく勇者らしい誓いを立てたのに、ここでナツキは余計なことまで考えてしまう。そう、帝国文化の添い寝マナー(マミカ式)である。


「ロゼッタさん。今夜は、いっぱいサービスしますからね」


 ポンポンポンポンポン――

 欲求不満と興奮で我慢限界のロゼッタに、ナツキのお腹ポンポン攻撃がクリティカルヒットする。夢にまで見たナツキとのイチャイチャだが、エッチを禁止されているのでたまらない。


「うひぃ♡ おっ♡ おっ♡ おほっ、んっほぉぉーっ♡」

「はい、頑張ります!」

 ポンポンポンポンポンポンポン――


 ナツキの無意識な手つきでロゼッタが陥落した。変な声を上げながら夢の中に沈んでゆく。もう絶対逃れられないナツキのエチエチテクに溺れながら。






 ――――――――――――――――

 戦争で無残に散る若い命。ナツキは決意を新たに勇者への道を進む。

 ただ、ちょっと無意識にしては堕とし過ぎな気も……


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