第36話 スキル解析

 皆の見ている前で実際に姉喰いスキルで攻撃することになったナツキ。拳を前に突き出した構えをとる。


 ガーレンとの戦いでは短剣の切先から火球が出た。そして、街のゴロツキの時は素手で小さな火球を出すのに成功している。原理は分からないが、とりあえず素手で出してみようという話になったのだ。



「いきます! むむむっ、獄炎剣フレイアブレード!」


 シィィィィィィ――ン

 何も起きなかった。


「あれっ? さっきは出たのに……」

 お姉さんたちの前でカッコいいところを見せようとしたナツキだが、不発に終わって恥ずかしくなってしまう。


「大丈夫よナツキ。リラックス。でも、やっぱり出たのは白いのとか?」

「マミカ、その話から離れようよ」

「白いのって何よ」

「もしかして私……」

「「「それはない」」」


 マミカがナツキをリラックスさせようとイケナイことを言い出してしまい、他の女まで盛り上がってしまった。

 白いのは置いておきネルネルが助け船を出す。


「明確な攻撃意思がないと出ないのかもしれないんだナ。次はロゼッタに向けて撃ってみたら良いんだゾ」


「ちょっと、何でさ」

 ロゼッタが声を上げる。


「街で見た感じではナツキきゅんの攻撃力は大した事ないんだゾ。ロゼッタの防御を突破できないはずなんだナ」


「そういうことなら。むしろナツキ君に撃ち込まれるのなら……ふへっ♡ 本望かな」


 ネルネルの話でロゼッタがやる気になった。ナツキの方を向いて両腕を広げる。まるで愛しい男の攻めを受け止めるように。ちょっとMっぽい。


「良いよ、ナツキ君。思う存分撃ち込んでくれ。私の物理魔法防御は、共に最強レベルだからね。そこらの剣や魔法程度では傷も付かないはずさっ」


「そ、そんな。ロゼッタさんに攻撃なんてできません。綺麗な肌に傷が付いたらどうするんですか。そ、その、ロゼッタさんは魅力的な女性なんですから」


 きゅぅぅぅぅ~ん♡

「きゅぅっ♡ そ、そんなに褒められると恥ずかしいよ♡」


 ナツキの無意識なタラシ技でロゼッタがキュンキュンし始めた。ナツキとしては本当のことを言っているだけなのだが、言われた当人は嬉しさで天にも昇る気持ちだ。


 幸せ気分でぽえぽえしているロゼッタを、とりあえずネルネル放置プレイした。


「話しが進まないんだゾ」



 仕方がないので攻撃は諦めて、ナツキから詳しく状況説明を聞くネルネル。闇の触手を聴診器のように当てているが、それは調べているのではなく、ただのお医者さんごっこだ。

 そして、顎に指を当て考え込む。


「ふぅ~む、こ、これは……話をまとめると。姉喰いスキルは、対象の女性を喰うスキルと、リンクした女性のスキルを使用し出すスキルに分れているようなんだナ。喰うのは本人から見て年頃の姉的な存在の女性を見境なく。出すのは喰われているだけでなく深い関係性を持った女性ということになるんだゾ」


「そうなんですか?」


 ナツキの顔がパアッと明るくなる。役に立たないゴミスキルと呼ばれてきたが、やっと自分のスキルの原理や効力が解明されそうなのだ。


「わ、わたしの考えが正しければ、フレイアだけでなくシラユキやマミカの能力も使えるはずなんだナ。ナツキきゅんが強く想っている女性とのスキルがリンクするのかもしれないんだゾ」


「ぼ、ボクがお姉さんたちの……」


「私っ、私っ、私も喰われたよ。一回だけど」

 グイッとロゼッタが割り込んできた。


「ナツキきゅん、試しにこのロゼッタを喰ってみるんだナ。二人の関係性でリンクが成立するかもしれないんだゾ」

「はいっ、ネルねぇ」


 ネルネルの指示でナツキがロゼッタと向かい合う。身長差があるので、ナツキの目線に爆乳が入ってしまい少し目を背けた。顔が埋もれてしまいそうで恥ずかしいのだ。


「いきます! えい! えいえいえいっ!」

 ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん!


「ぐっはぁぁ~ん♡ きたきたきたぁぁーっ! 昂るぅぅっ♡」


 前に使った時は効かなかったと思っているナツキは、いつもより多めに連射した。体の奥深くに何度も何度も打ち込みだ。


「ななななな、ナツキ君っ! 結婚しよう! いますぐ! よ、よし、エッチから始めるぞっ♡」


「うわああぁっ、だから、あおずけです。お、おすわり! 待てっ!」


「くぅ~ん、わんわんっ!」


 急に犬になったロゼッタが本当におすわりした。何度も姉喰いを打ち込まれ、姉属性本能を揺さぶられた彼女は完全にナツキの言いなりだ。


「えええ……メス犬?」

 マミカのドS心が刺激され、つい口に出してしまう。


「ロゼッタ……それ、恥ずかしくないの?」

 自分まで恥ずかしくなってしまったような顔をしたフレイアが呟く。何気に今度自分にもやって欲しいとか思っていた。


「うわぁ……しゅ、しゅごい……」

 手で顔を隠しながらも、指の隙間からバッチリ見ているシラユキ。自分も犬にされてしまうのだろうかとドキドキだ。



「う~む、わたしも試してみないと分からないんだナ。ナツキきゅん、わたしにも使ってみるんだゾ」

「サー、イエッサー! 行きます」


 ずきゅぅぅぅぅーん!

「ぐっはぁああっ!」


 予想していたより強烈な波動を感じ、ネルネルが崩れ落ちた。ロゼッタは規格外の超防御力と極大性欲と無限の精力を兼ね備えた女戦士なのだ。それと比べてはいけない。


 打たれ弱いネルネルは姉喰い一発で陥落し、足ピーン状態で失神寸前だ。


「もっとですよね。分かりました。頑張ります!」

 ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん! ずきゅぅぅぅぅーん!


「ぐっひゃぁっ! あひぃぃいいぃん!」


 何を勘違いしたのか、ナツキが陥落状態のネルネルに姉喰いを連射する。更に打ち込むのだと思い込んでいたようだ。一発で陥落していたネルネルは天国と地獄を何往復もして、遥か彼方に意識が飛んで失神してしまった。


「ぷしゅぅぅ――――」

「あれ、もしかして……ボクやっちゃいました?」


「完全にやっちゃってるし」

「やりまくりね。ナツキ少年」

「弟くん……しゅごい……」

「わんわんっ!」


 宿屋の密室で怪しい実験が行われ、失神美少女一名やワンワンプレイの恵体女などの被害者が出た。天下に轟く一騎当千の大将軍なのだ。こんな醜態、とても人には見せられない。


 ◆ ◇ ◆




 ナツキのスキル解明は中途半端に終わったが、帝都に向け出発する準備だけは整い、今夜は同じ宿屋に一泊することとなる。

 部屋は三つ借りており、二人ずつ一部屋に止まる予定だ。


 ここで大問題が巻き起こる。誰がナツキと同室になるのかだ。



「当然アタシよね。これまでずっとナツキと一緒に旅してきたんだから。これからもずっと。そうよね、ナツキ♡」


 魅惑的な瞳でナツキを見つめるマミカが言う。自分以外はあり得ないとでも言いたげだ。



「ちょっと待って。彼女候補一号は私なんだけど。最初にナツキと仲良くなって、最初にベッドで添い寝して、最初に一緒に朝を迎えたのは私。当然、私と一緒の部屋よね。そうでしょ、ナツキ♡」


 そこに待ったをかけたのがフレイアだ。ナツキとの出会いや添い寝を熱く語る。



「弟くんと同じ部屋なのは私。それは星が生まれる前から決まっていた運命。もはや二人は離すことのできない円環の理。月と太陽が導き合うように定めの記憶。くふふっ……でしょ、ナツキ♡」


 ちょっと意味不明なポエムを詠んでいるのがシラユキだ。彼女なりにナツキの気を引きたいのだろう。ナツキなら理解してくれるだろうが、他の男だったら気を引く前に違う意味で引かれそうだ。



「ナツキきゅんとはスキルの分析が残っているんだゾっ♡ この後も一晩中調教……ゲフンゲフン、スキルを調べようと思っているんだナ。そこのところ分かってるのカ。ナツキきゅん♡」


 ネルネルまで主張する。ただ、見た目は美少女に完全変態メタモルフォーゼしたネルネルだが、やはりちょっと変態趣味なのは残っているようだ。少しだけ片鱗へんりんをのぞかせる。



「ナツキくぅぅぅぅ~ん! 私っ私っ! ほら、一緒に寝てイチャイチャしようよぉ♡ もっとお互いを知るんだよね。ナツキ君の好きなワンワンプレイもしてあげるからさぁ♡」


 ロゼッタもグイグイ迫る。ここぞとばかりに距離を縮めようと躍起だ。変なプレイを覚えてしまって危険度が更に上がったかもしれない。




 五人の大将軍から迫られ絶体絶命のナツキ。誰か一人を選べと言われても選べない。全員大切な仲間なのだから。


「えっ……」

 今、ナツキの頭の中は、究極の選択を迫られていた――


 ど、どうしよう…………。

 誰か一人を選ばないとならないのかな。


 マミカお姉様は尊敬する人だし。これまでボクを導いてくれた恩もある。お姉様は大切にしたい……。


 フレイアお姉さんはスキルの特訓をしてくれた人だし。ボクのことを気にかけてくれている優しい人だ。できれば一緒にいてあげたいけど……。


 シラユキお姉ちゃんには帝国の情報を教えてもらったりお金を貸してもらった恩があるし。それに、お姉ちゃん寂しがり屋だから心配だよ。添い寝してあげないと泣いちゃいそうだし……。


 ネルねぇはボクのスキルの謎を解明しようとしてくれているし。ボクの為に頑張っているのに、無下に断るのも失礼だよな……。


 ロゼッタさんは……一先ずいておこう。



 究極の選択を迫られるナツキ。果たして彼が選ぶ彼女候補は。


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