第35話 変態大将軍改め美少女大将軍! クールな女大将軍改め痛い女大将軍!

 いまだに他の女たちが信じられないといった感じに驚いているなか、当のネルネルはナツキの隣に座り体を寄せる。


 当然、いつもの汚れた身なりではなく、入浴とエステで綺麗に整えた体だ。白くきめ細やかな肌は薔薇の花フローラルのような芳香で、サラサラの髪からは甘く蕩けるような匂いが漂う。


 使い込んで臭そうなボロい服も新調し、白く上品で可愛らしいフェミニンなワンピースだ。まさに、清楚で可憐な美少女好きな男を殺しそうな装備である。



「あの、ネルねぇ……ち、近いですよ」

「ナツキきゅん♡ ずっとこうしたかったんだゾっ♡」


 変態大将軍から美少女大将軍に完全変態メタモルフォーゼしたネルネルが、ナツキにしなだれかかる。もう完全に別人だ。



 これにはフレイアも絶叫する。


「ああぁ~ん! また新しい女がぁ! まさかネルネルまでぇ!」


 天を仰いで叫ぶフレイアに、マミカが追随する。


「だからネルネルと二人っきりにさせるんじゃなかったのよっ! ナツキったら、ちょっと目を離すと女を堕とすんだからぁ! ナツキ、悪い子!」


「ちょ、ちょっとマミカお姉様。ボク、女を堕としたりしませんから」


 悪い子扱いするマミカに反論するナツキ。だが、実際に横のネルネルは蕩けた瞳でナツキに抱きついている。

 説得力ゼロだ。


「い、いや、むしろ最初はネルネルがナツキに何かするって思ってたのよ。それが、まさかあのネルネルがこんなになっちゃうなんて……」


 マミカが言うように、誰もが警戒していたのはネルネルの方だった。彼女の性格からして、ナツキに何か如何わしいことをするのだと思うだろう。

 まさか、ナツキの姉堕殺法がネルネルの性癖より勝っているとは思うまい。



 懲りないロゼッタが再び、いや何度目か忘れたがナツキに言い寄る。満面の笑顔でグイっと身を乗り出した。


「ナツキ君っ♡ 私っ、私っ!」

「ロゼッタさんはおあずけです」

「またかよぉぉぉぉ~っ! 何で何でぇ!」

「だから、もう少しお話してから……」

「キミ、それわざとでしょ。もうもうっ!」


 ドスドスドスドス!

 駄々をこねるロゼッタの地団駄で床が抜けそうだ。


「だって、ロゼッタさんは……おっ、おっぱ……」

 ロゼッタのブルンッブルンッと揺れる爆乳をチラ見しながらナツキが呟いた。


 実際のところ、ナツキはロゼッタのことを気に入っていた。最初こそ強引に迫られ怖がっていたのだが、優しくて気さくな笑顔や性格に魅かれ始めている。


 しかし、姉たちにイチャコラされてからというもの、ナツキの中で目覚めた何かがブレーキをかけていた。

 結婚するまでエッチはダメだと思っていたのに、どうしても揺れる爆乳に目が行ってしまう。このままでは性にふしだらな男になってしまいそうで気が気ではない。



「ほら、ロゼッタまでナツキにちょっかいかけない」


 ちゃっかりナツキの隣に移動したフレイアが、ロゼッタの巨体を押し退ける。


 ぷるんっ、ぷるんっ――

 ロゼッタの爆乳が離れた代わりに、フレイアの巨乳がナツキの眼前に迫る。ザックリと大きく胸元が開いたローブから、プルプルと揺れる胸が目の毒だ。


「うぅっ……フレイアお姉さんも近すぎです」

「えっ、何でよぉ♡」

 チラッ、チラッ!

「だ、だから見えそうです」

「何がぁ?」

「フレイアさん、わざとやってますよね」


 ニマァっとイタズラな顔をしたフレイアが体を寄せる。わざと胸元を緩くしているようだ。本当にイケナイお姉さんだった。


「ナツキきゅん♡ わたしの方も見て欲しいんだゾっ♡」

 プクっと頬を膨らましたネルネルが拗ねた顔をする。プク顔が可愛い。


「ほらぁ、ナツキは大きい方が好きなんだよねっ♡」

「あぐぅっはぁ! ち、小さいおっぱいには夢が詰まっているんだゾ」


 途中から胸の話になってしまいネルネルがフレイアに対抗意識むき出しだ。ただ、胸の戦力差は如何ともしがたい。



 しかし、そんな中で存在感が消えている大将軍が一人いた。リリアナからずっとナツキに会えるのを夢にまで見ていたコミュ障の女。そう、シラユキである。


 やっと会えたナツキはマミカに色々仕込まれて、ちょっぴり帝国色に染まっていた。そして、何故かロゼッタに結婚を迫られている始末。更にネルネルまでラブラブモードに突入し、もう嫉妬やら寂しさで心が地獄の永久凍土になってしまいそうなのだ。


「な、な、ナツキ……だ、だから言ったのに……逃げてって」


 ぽつりと呟くシラユキ。その顔は完全にヤンデレ目だ。


「あ、あの、シラユキお姉ちゃん……」

 シラユキの様子がおかしいことに気付いたナツキが声をかける。


「ううっ、うううっ………うわぁぁぁぁああああぁぁ~ん! ナツキは私の弟くんなのにぃ! やっと会えたと思ったらぁ、マミカとイチャイチャしてるし、ロゼッタと結婚とか言ってるし、ネルネルもラブラブになっちゃうしぃぃぃぃ! もうヤダぁぁああっ! さみしぃぃいいっ!」


「うわああっ、シラユキお姉ちゃん」


 氷の女王のようにクールで鋭い目つきをした超美人のシラユキがガチ泣きだ。あの気品があり整った眉を歪ませて、大粒の涙がポロポロと次から次へとあふれ出す。

 これにはナツキもオロオロと困ってしまった。


「ひぐっ、ひっぐっ、えぇぇ~ん……。私にも構ってぇ」

「ごめんなさい、シラユキお姉ちゃん」


 ぎゅっ!

 年上女なのに赤ちゃんみたいなシラユキを、ナツキが優しく抱っこする。

 泣くシラユキには誰も勝てないのか、他の女も『勘弁してくれ』と言った顔で黙ったままだ。


「ぐすっ、ぐすっ……頭なでなでしてぇ♡ してくれなきゃヤダぁ♡」

 完全に甘えん坊になってしまったシラユキが言う。


「こうですか?」

 ナデナデナデ――

「ふへぇ♡ しゅあわせぇ♡」


 緩んだ顔でそう呟くシラユキ。幸せいっぱいだ。


「もっとギュッてしてぇ♡」

「こうですか? ぎゅっぎゅっ」

「ぐへぇ♡ しゅきしゅきぃ♡ ナツキぃ♡」


 もう人前だというのを忘れているのか、シラユキがデレッデレになってしまった。これにはマミカもNTR的嫉妬で文句を言わずにはいられない。


「もおおっ、アタシのナツキなのに……」

 ガシッ!

 シラユキを引っぺがそうとするマミカの肩をフレイアが掴んだ。


「やめときなさい。シラユキが暴走すると街が吹っ飛ぶから」

「それ、どんな破壊兵器よっ!」

「シラユキ自体が動く破壊兵器みたいなもんだから」


 そう言ったフレイアが、両手を広げて『やれやれだわ』とジェスチャーする。



「シラユキって、こんな性格だったんだ。知らなかったよ」

 ロゼッタが呟く。誰もがそう思うようだ。




 シラユキがナツキの抱っこで落ち着いたところで、やっとネルネルが本題に入った。本題を後回しにしたのは、お風呂に入って美容院で髪を整えた自分を見て欲しかったからだ。

 最後はシラユキに全て持っていかれて不本意なのだが。


「な、ナツキきゅんのスキルを調べるんだナ」


 可愛い喋り方のネルネルにマミカがツッコミを入れる。

「ネルネル、普通に喋ってよ。違和感あり過ぎだし」

「これが普通なんだゾっ♡」


 虹色の瞳からキラキラが飛び出しそうなネルネルだ。これにはカワイイ大将軍を自称するマミカは黙っていられない。


「なんかアタシとキャラかぶってるみたいで腹立つんですけど」


 そんなマミカの嘆きは置いておき、とりあえずナツキのスキルを調べることとなる。




「――――という訳です」


 ナツキは幼年学校入学時に天の祝福ギフトを判定した時の話をする。姉喰いスキルという、誰も知らない珍しい固有能力だったこと。戦闘に役立たないゴミスキルだとされ、スキルを伸ばす教育を受けられなかったことを。


「姉喰い……聞いたこと無いわね」

 同じ精神系スキルだと思っているマミカが呟く。


「ナツキのスキルを受けると気持ち良くなっちゃうのよね」

 そう言ったのはフレイア。少し顔を赤くして、堕とされたのを思い出しているようだ。


「うんうん、すっごく昂ってきちゃうんだよね」

 そのロゼッタには余り効いていなかったのだが、感度が高まったり体の中の何かが昂るのを感じていた。



「わたしは実際にナツキきゅんがスキルで攻撃するところを見たんだゾ。ゴロツキたちに小さな火球を発射したのをナ」


 ネルネルが街で絡まれたゴロツキをナツキが退治した話をする。


「も、もしかしたら……ナツキきゅんのスキルは精神系魔法じゃないかもしれないんだナ」


「それ、どういうことよ?」

「現にアタシはエッチな精神系攻撃を受けてるんですけど」


 フレイアとマミカが同時に質問する。


「ま、まだ仮説の話だが、姉喰いスキルは対象の人物の中に、何らかの繋がりをつくる結合魔法のようなものではないのだろうカ。その能力を持つ対象を強く思い浮かべながら敵を攻撃すると、対象と能力の結合リンクが発生し、能力の一部を引き出せるような。精神系魔法に思えるのは、そ、その副産物かもしれないんだゾ」


 姉喰いスキルの核心に触れるネルネル。体の奥深くにスキルを打ち込まれ、その対象人物と心の繋がりが発生すればリンクできるとでもいうのだろうか。



 そして実際に目の前で披露してもらうことになるのだが。エチエチ的大惨事の始まりである――――






 ――――――――――――――――

 超絶美人の仮面がはがれ、寂しがり屋で赤ちゃんみたいな顔を覗かせるシラユキ。ちょっと痛い女なところも良いですね。


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