第32話 ナツキ姉妹(シスターズ)

 ナツキの右側にフレイアが、左側にシラユキが、首にはマミカが抱きついている。両腕と頭に柔らかなおっぱいの感触を感じたナツキが真っ赤になってしまった。



「はぁああぁん♡ ナツキ少年、すきすき、大好きぃ♡」


 若干グヘっているフレイアが抱きついたままスリスリする。顔が緩み切っていて、とても人には見せられない。


「ぐふっ、ぐふふっ♡ 弟くんっ♡ もう離さないぞぉ♡」


 普段とは全く違う口調で話すシラユキ。ヤンデレっぽい目と緩んだ口元が変な感じだ。なまじ超絶美形なだけに、ちょっとだけ怖い。



「当たってます。胸が当たってますって。ダメです、まだ付き合ってないのに。帝国文化のお風呂と添い寝は許したけど、まだエッチはダメですから」


 必死に逃げようとするナツキだが、両側から捕まえられて動けない。

 そもそも、お風呂と添い寝とポンポンまで許したのに、それ以上がダメなど通るはずがない。このドスケベな姉たちには。


 三方向からの柔らかな感触に、ナツキはいまだかつてない感情が沸き上がり困惑していた――――


 うわああっ……お、おっぱいが……結婚するまでエッチはダメなのに。何だか体が熱くなってきちゃった。ボクはどうしちゃったんだぁぁーっ!



「ちょっと、アタシのナツキにベタベタ触らないで!」

 ぎゅぅぅ~っ!


 後ろからマミカがナツキの首を抱きしめる。格闘技の締め技みたいで苦しそうだ。


「苦しっ、ま、マミカお姉様。絞まってます。ギブ、ギブッ! 首、絞まってますから」


 腕を緩めるマミカだが、今度は胸をムニュっと押し付けてくる。誰にも渡さないというアピールだろうか。


「ちょっと、マミカ! あんた彼女候補じゃないでしょ。離れなさいよ」

 マミカの手を引っぺがしながらフレイアが言う。


「そう、無関係のマミカは触っちゃダメ」

 シラユキも続く。


「あ、アタシは特別だし! ナツキの師匠兼女王様だし!」

 あくまでナツキが好きなのを否定するマミカ。もうバレバレなのに、まだ白を切るつもりか。


「彼女じゃないなら触るの禁止」

「そうそう、禁止」

「それとも、マミカも好きなの?」

「好きなの?」


 フレイアとシラユキに核心を突いた質問をされるマミカ。認めれば楽になれるのに、まだはっきりしないようだ。


「あ、アタシは……べつに、好きとかじゃ……」


 そこにナツキがトドメを刺す一言。

「ボクはマミカお姉様のこと好きです」


「へっ、あ、あの、すす、好き……なんだ。へ、へぇ」

 ドS女王が動揺しまくっている。


「マミカさんは、時に優しく時に厳しく、ボクを導いてくれました。それに、ボクがイジメられているのを、自分のことのように本気で怒ってくれたし……。マミカさんと話していると元気が出てきます。そんなマミカお姉様が好きです」


 きゅぅぅ~ん♡ 


「あぁっ♡ そ、そうなんだ。ナツキがアタシのこと……。こ、光栄に思いなさい。あ、アタシもナツキのこと、ちょっと……いや、けっこう……す、好きなんだけどね。しょうがないわね、不本意だけど彼女候補になってあげてもいいんだけど」


 そんなこと言いながらも、マミカが真っ赤になっている。もう誰が見てもナツキが大好きなのはバレバレだ。バレてないと思っているのは本人だけだろう。

 こうして、マミカが彼女候補三号になった。



「何よ、このベタなツンデレっぽい態度は」

 呆れた顔のフレイアが呟くと、反対側のシラユキまで言い放つ。

「可愛いのが余計に腹立つ」



 そして懲りないロゼッタがナツキに言い寄る。

「ねえねえ、ナツキ君、私は?」

「だから、おあずけです」

「何でさぁぁぁぁ~っ!」



 ロゼッタがおあずけされたところでネルネルが口を開いた。


「そ、そろそろ本題に入るんだナ。その少年がデノア王国の勇者なのは理解したんだナ。次はアレクサンドラ議長が簒奪さんだつを企んでいる話なんだゾ」


「それよっ! その話が本当なら現状はアレクサンドラの計画に加担し陛下を蔑ろにしていることになる。ならは私たちが成すべきことは一つ。陛下をお救いし国を正すまで!」


 凛々しい顔と声でフレイアが言う。さっきまでグヘヘ顔だった人とは別人のようだ。


「でも、どうやってマミカは簒奪の事実を知ったの?」

 シラユキが呟いた。


「それはアレよ。ほら、マミカのスキル的な? 精神系魔法で議長の心を操作して読み取ったとか? 知らないけど」


 シラユキの疑問に答えるフレイアだが、詳しいところは分からない。マミカの方を向いて声をかける。


「どうなの、マミカ?」


「うっ、そ、それは企業秘密だしぃ。スキルの詳細は明かせないし」


 そんなことを言うマミカだが、実際は何の根拠も無い。適当に言った話がどんどん大きくなり焦っている状況だ。



 皆の疑問を払拭するようにナツキが話し始めた。


「やりましょう。ボクは今まで帝国を倒しデノア王国を救うことばかり考えていました。でも、帝国で色々な人と話をして、国民の多くは戦争なんて望んでいないことを知りました。この戦争が一部の人だけ得をして、多くの帝国市民が苦しんでいるのならばやめさせるべきです」


 ナツキの話に、目をキラキラさせて見ているロゼッタも口を開く。


「だよね。過去にルーテシアは連合国から攻め込まれる苦難の歴史はあったよ。でも、今やっているのは、一方的に隣国へ侵略し人々を苦しめているだけだよ」


「ロゼッタさんの言う通りです。ルーテシア皇帝は、まだ10歳なんですよね。きっと勝手に酷いことばかりやらされて心を痛めているかもしれません。実際に会って本心を聞いてみましょう」


 きゅん♡ きゅん♡

 話しているナツキを見るロゼッタの目がハートマークになっている。もう完全に、好き好き大好き弟君のようだ。


「ううっ、ナツキ君かっこいい♡ 一緒に陛下をお救いし国を立て直そう。そして結婚しよう」

「いえ、だから結婚もあおずけで」

「はぁふぅ♡ 断られると余計好きになっちゃうよ♡」


 おあずけされているロゼッタが、更にキュンキュンしている。じらされると余計燃え上がってしまう恋心か。



「た、確かにアレクサンドラ議長は怪しいんだゾ。お、幼いアンナ様を帝位に就けたのも彼女なんだナ。周囲からも傀儡かいらいとの声も上がったんだゾ。しかも、反対勢力は粛清しゅくせいされたり謎の死を遂げたり……」


 自分に言い聞かせるように、ネルネルが話し始めた。


「そ、そもそも前皇帝オリガ様も不慮の死を迎え……それは、不審な点がいくつもあると、まことしやかに囁かれているんだゾ」



 ネルネルの話で大将軍たちが黙ってしまう。前々から疑問に思っていることは多かったのだ。しかし、皇帝の言葉(現状では代理としてアレクサンドラが伝えているが)に異論を唱えるなど許されない。

 ナツキとマミカの話がなければ誰も口にしなかったはずだ。



「わ、わたしは調べてみる価値はあると思うんだナ」

 ネルネルの言葉に皆が賛同する。

「そうね」

「うん」

「だよねっ」

「はい」


「ただ、このことは暫く秘密にしておくんだゾ。て、帝都にはレジーナとクレアがいる。大将軍同士で戦うのだけは避けるようにナ」


「もうマミカと戦っちゃったけどね。えへへぇ」

 笑顔のロゼッタが口を滑らす。

「ちょっ、それ言うなし!」

 速攻でマミカがツッコんだ。



 計画は内密にし帝都まで行動を共にすることで同意したナツキたち。ナツキが心配で付いてきたフレイアとシラユキだが、いつの間にか反逆軍の仲間入りだ。果たして、こんなパーティで大丈夫なのだろうか。


 ◆ ◇ ◆




 フレイアとシラユキ、そしてネルネルとロゼッタまで加わり大所帯となったナツキ一行。六人になって賑やかなパーティーだが、もう一泊宿をとり準備をすることになった。


 そして、決行の前に綿密な作戦とナツキのスキル解明が先だとネルネルが言い出す。


「やるからには失敗するわけにはいかないんだゾ。も、もし陛下を救出できなければ、全員まとめて反逆罪なんだナ」

 その一言で気が引き締まる。


 ネルネルの作戦はこうだ。


「先ず作戦第一、わたしとロゼッタは先に帝都に入るんだナ。何も知らず、ふ、フランシーヌから帰還が遅れたというていにして。こ、これは、中から混乱させたり仲間を誘導したりするんだナ。あと、できるだけクレアとレジーナを仲間に引き入れるよう説得するんだゾ」


 作戦の第一段階は、帝都に潜入と混乱と誘導だ。


「作戦第二、フレイアとシラユキが陽動として、宮殿の正面で騒ぎを起こすんだナ。これはなるべく派手に。さ、騒ぎで警備を引き付ける役目なんだゾ」


 作戦第二段階は、帝都宮殿正面での陽動作戦だ。


「作戦第三、ナツキとマミカが宮殿裏口から潜入し、陛下を確保。そ、そのまま、わ、わたしたちと合流して脱出するんだゾ」


 作戦第三段階は、皇帝の救出と帝都からの脱出だ。


「最後に作戦第四、陛下がこちら側にあるのを宣言し、ちょ、勅命ちょくめいって逆賊を討つと宣言するんだナ。官軍として帝都に帰還するんだゾ!」


 作戦第四段階は、皇帝の命により帝都奪還だ。



 この作戦で最終決定し、各々が動き出すこととなる。作戦名ナツキ姉妹シスターズ。ルーテシア解放戦線だの救国軍事同盟だのという意見も出たが、名前が可愛くないと理由で却下された。


 帝都に向け出発する前に、必要な物を揃えたり準備をすることとなるメンバー。だが、その前にネルネルが重要な要件があるからと、ナツキを借りると言い出したのだが。


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