第31話 皇帝奪還計画! ついでにエッチな伝統文化

 一触即発の大将軍三人を良い子にしたナツキが席に戻る。フレイアもシラユキもマミカも、とても人には見せられない蕩けた顔で甘い恍惚こうこつの世界に行ってしまったようだ。


 ただ、ポンポンギュッギュしてもらえないロゼッタだけが、太ももをスリスリして欲求不満でムズムズしているのだが。



「おい、そろそろ本題に入るんだナ。その少年は何者だ。こ、事と次第によっては、帝国に仇なす賊として反逆罪に問われかねないんだゾ」


 呆れて見ていたネルネルだが、口を開いて詳しい説明を要求する。後半部分は小声になって凄味を利かせながら。


「そうそう、その話をしにきたんだよね」

 ネルネルの話にロゼッタが同意した。


「あぁ♡ ぐっ……そ、そうよ。何でネルネルまでいるのよ。あんた達はフランシーヌ方面軍に参加中では?」


 少し正気を取り戻したフレイアが、アヘって垂らしたよだれを拭きながらそう言う。



「お前たち……何も知らないんだナ。今、帝都は大混乱なんだゾ。デノアの勇者が大将軍を打ち破って帝国領内に進攻中と。わ、わたしたちを帝都に呼び戻す命令が出るくらいにナ」


 ネルネルが答える。


「ええ……それ私たちのせい……」

 焦った顔のフレイアがそう言って隣のシラユキを見た。


「私は関係無い……」

 と、シラユキは惚ける気満々だ。

「あんたねぇ……まったく」


 そんなシラユキとフレイアをスルーして、ネルネルが話を進める。


「今朝、ロゼッタが言っていたのも気になるんだナ。か、革命とか……この国でその発言は命取りになるんだゾ」


 ルーテシア帝国のような専制主義国家で『革命』などと言えば、思想犯や反逆罪で逮捕されるのが常である。


 しかし、一度火の付いたロゼッタは突き進んでしまう。


「違うよ、ネルネル。これは皇帝陛下に反逆するんじゃないんだよ。陛下を蔑ろにする逆賊を討ち滅ぼす正義の戦いなんだよ! ふんす! ふっ、ふがっ」


「声が大きい」

 ネルネルがテーブルの上のパンをロゼッタの口に詰める。


「そうです、ロゼッタさんの言う通りです」

 それにナツキが続く。ロゼッタと同じように、目をキラキラさせながら話し始めた。


「今の皇帝は10歳とのことで、叔母のアレ、アレ……クサ……」

「アレクサンドラ、もぐもぐ……」

 口に詰められたパンを食べながら、ロゼッタが助け船を出す。

「そう、それです! ロゼッタさん」


 昨日会ったばかりで襲われかけたのに、いつの間にかナツキとロゼッタが意気投合しているようだ。きっと、単純で騙されやすく正義感が強いという性格が似ているからだろう。


「叔母のアレクサンドラさんが実権を握っているそうですよね。皇帝が幼いのをいいことに、勝手に戦争を拡大しているとか。ボクは戦争を止めたい。皇帝に会って戦争をやめるように言うつもりでした。でも、マミカお姉様は、そんなボクの考えなんて全てお見通しだったんです!」


 ナツキがマミカを見る。尊敬の眼差しで。

 そして、ロゼッタ以外の大将軍は、半信半疑な顔でマミカの方を向いた。


「マミカお姉様の計画はこうです。幼い皇帝を傀儡かいらいにして暴虐の限りを尽くしているのがアレクサンドラさん。だから、囚われている皇帝の女の子を救い出して、こちら側に連れてくるのです。そうすればボクたちの方が官軍になります。そうですよね、お姉様!」


「そ、そうね……」

 ナツキに話を振られて頷くマミカ。


「皇帝さえコチラに付けば、この国の兵士たちも味方になってくれるはずです。そうすれば、戦争を終わらせて平和にすることができます。そして、一部の人だけ富を得て贅沢するのではなく、平民の人たちも平等に御飯が食べられる国にするんですよ! ですよね?」


「そ、そうそう……」

 話を振られたマミカの目が泳ぐ。


「マミカお姉様は、ボクがデノアの兵士だと分かったうえで試したんです。ボクの覚悟と実力を見極める為に。そして剣の稽古をして現実の厳しさも教えてくれた。だから分かったんです。世界を変えるのには仲間が必要だって。ボク一人の力は小さいけど、皆が集まれば大きくなれる。そうですよね?」


「うっ、そ、そんな感じかしら……」

 勝手に話が進んで行き戸惑うマミカ。


「ボクは勘違いしていた。人に頼んだら迷惑をかけてしまうのだと。でも、それは違った。他にもこの国を変えたいとか戦争を止めたいと思っている人は多いんですよね。そういう人たちの声を結集し力を合わせるのも時には必要なんです」


「う、うんうん……」

 ちょっとやけくそ気味にマミカが頷く。


「マミカお姉様だけじゃない。フレイアお姉さんもシラユキお姉ちゃんも一緒に行くって言ってくれた。大将軍の中にも国を変えたいって思う人がいたんです。つまり、ここにいる皆が力を合わせて作戦を成功させ、平和で国民が飢えず笑って暮らせる国造りをするんです! そこまで考えていたなんて、さすがマミカお姉様!」


 ナツキの演説が終わる。もはやマミカの作戦ではなく、ナツキが勝手に作っているような気もするが。

 とにかく、さすがお姉様。通称『さすおね』である。



「マミカ、それ、本当なのかナ……」


 ネルネルに問われマミカが動揺した。作戦など何も考えていないのだから。


「そ、そうね。だいたい合ってるわ。ナツキ、やるじゃない。アタシの真意を理解するなんて」


 そんなことを言うマミカだが、内心は焦りまくっていた。


 えっ、ええっ! アタシ、作戦なんて何も考えてないんですけど! 帝都に潜入してアンナ様を連れ出すですって!? なんかアタシの知らないうちに大事になってるんですけどぉぉぉぉ!


 で、でも、このままあのババアアレクサンドラに従っていても、嫌われているアタシは辺境に飛ばされたままだし。その内、極東も戦場になり、ヤマトミコ神風突撃乙女隊との激戦で……。ここはナツキの作戦に乗ってみるのも……。


 そうね、悪くない。ロゼッタはナツキの言うこと聞きそうだし、なんかフレイアとシラユキもされるがままだし。大将軍が協力すれば可能かも。

 まさか、ナツキはそこまで考えて…………。ナツキ、恐ろしい子!


 マミカがナツキの作戦に乗ることを決意する。ついでにマミカの中でナツキの株が上がった。ガーレンに勝った件といい、本気で帝都に攻め込む計画といい、これまでの弱くて頼りないイメージから、頼りになるベッドでつよつよの男子に評価アップだ。



「それでこそアタシのナツキね。毎晩ベッドで熱く官能的な夜を過ごし、一から仕込んでやった甲斐かいがあったわ」


 つい、マミカが余計なことまで口走ってしまった。当然他の女は黙っていられるはずもなく――


「誰がアタシのナツキよっ! ナツキ少年は私のだから! な、なな、ナツキをベッドで、な、何したですってっ! 彼女第一候補なんだからね! 実質私が彼女みたいなものなんだけど!」


 烈火の如き勢いでフレイアが反論する。最初に目を付けたのは自分だと。彼女候補一号だと。


「あ、あああ……やっぱりろう……私の弟くんが寝取られた……もうマミカも世の中も全部破壊し、私とナツキだけの清らかな世界にして……永遠の契りを……くふっ。くふふっ」


 地獄の永久凍土のように寒いヤンデレになってしまうシラユキ。本気で破壊しそうで危険な女だ。


「ちょおおおおっとぉぉぉぉーっ! マミカばかりずるいよ! 私だってナツキ君とイチャイチャエチエチしたいのに。もうムラムラが抑えられないよぉ!」

 ドスドスドスドス!


 何かもう欲求不満が爆発しそうなロゼッタが地団駄を踏み出した。ドスドスと大きな音を立てて店の床を破壊しそうだ。



 こんな時、物語のハーレム主人公ならヒロインを落ち着かせ何事も無かったかのように弁解するところだが、この無意識に姉属性女のハートを刺激するナツキはちょっと違う。


「はい、マミカお姉様に仕込まれました。お風呂は男女一緒に入って体の隅々まで洗いっ子。夜は裸で抱き合い一緒に寝る。男性は女性が満足するまでサービスを欠かさない。ですよね、お姉様!」


 ちょっとドヤ顔のナツキが言い放つ。前は無知だったけど、今は帝国の文化に精通していますよとでも言いたげだ。

 ただ、ピュアな心に変な話を信じ込まされて、ちょっと悪い子になっている気がする。


「ええっと……そうだったかしら?」


 さすがにマミカも言いよどむ。ナツキに嘘を吹き込んだのは自分なのに。激怒するフレイアたちに囲まれて絶体絶命だ。


「マミカ、ナツキに何教えてんのよ!」

「NTRの罪でマミカ被告に極刑を言い渡す」

「マミカぁ、私も洗いっ子したいよぉ」


「ちょっ、冗談だし。まだ手を出してないしぃ!」


 ヤバい女に囲まれるマミカ。まさか、ロゼッタにナツキを寝取られ激怒した事態が、今度は自分の身に降りかかるとは思ってもみなかっただろう。



「喧嘩はやめてください! 分かりました。ホントは結婚しないとダメだけど……それが帝国の文化なら尊重しないとですよね。彼女候補の人には帝国の文化に合わせたサービスをします」


 ナツキが爆弾発言した。今まで頑なに結婚を前提としなければエッチはダメだと言い張っていたのに、彼女候補ならイチャラブOKになったのだ。完全にマミカに毒されている。


「な、ナツキ! わ、私は彼女候補よね? 第一候補だし」

 ぎゅっ!

 ナツキの腕に抱きついたフレイアが言う。


「はい、フレイアお姉さんは彼女候補です。一緒に寝ましょう」

「うっきゃぁぁ~ん♡ ナツキ、大好きっ♡」


 フレイアが大喜びだ。



「弟くん……私もだよね?」

 恐る恐るシラユキがナツキに聞いてみた。


「はい、シラユキお姉ちゃんも彼女候補です」

「じゃ、じゃあ、腋ペロも?」

「そ、それは……」

「腋ペロは帝国の伝統文化。文化は尊重」

「で、ですよね……少し考えさせてください」

「うっへぇ♡ くふっ、ぐふふっ♡ ナツキ、すきぃ♡」


 妖しい笑みを浮かべるシラユキが楽しそうだ。強引に変なプレイを正当化しそうで怖い。



「当然私もだよね。ナツキ君っ♡」

 ちゃっかりロゼッタも混ざっている。


「あの、ロゼッタさんは、おあずけで」

「だから何でさぁぁぁぁああああ~っ!」

「えっ、だって、まだ知り合ったばかりですし」

「これから知れば良いじゃないかぁ。エッチからおなしゃす!」

「ええええ…………」


 益々ロゼッタの欲求不満が溜まる結果になった。



 そんなアホな光景を眺めながら、ネルネルはボサボサの髪の中からナツキを見極めていた。この少年が帝国を揺るがす災いになるのか。それとも本来あるべき姿に正す救世主なのかを。






 ――――――――――――――――

 マミカの嘘を信じて実践しようとするナツキ。最強の姉キラーかもしれない。


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