第29話 奇妙な組み合わせ
誰もが恐れるドS女王マミカ。士官学校時代から、その女王っぷりは健在だった。
最強の精神系魔法使い。人を意のままに操り屈服させる女。学校に君臨する女王。目が合ったら調教される
噂が噂を呼ぶ。いつしか誰もが恐怖し、彼女のご機嫌をとり腫れ物に触るような扱いになった。しかしマミカは、幼い頃の辛い思いでのせいなのか、それとも元からの性格なのか、弱いものイジメだけはしなかったのだが。
そんな恐怖の女王マミカが、ナツキの腋ペロで屈服してしまった。今のマミカにドS女王の見る影もない。
「くぅ……まさか、舐められただけであんなになるなんて……しかも腋を……」
乱れた髪のままのマミカが呟く。まだ、イケナイところを舐められたのなら納得できるが、それが腋なのだから恥ずかしいやら屈辱やら……。
「マミカお姉様、どうかしましたか?」
出発の支度をしているナツキが、マミカに声をかけた。
「くぅぅ~っ、もうっ! もうもうもうっ! 屈辱ぅぅ~っ! このアタシが年下男子に
「えっと、何かいけなかったですか?」
「全部よっ! 全部! 誰よ、あんなエッチな技を教えたのは!?」
「
「あの女かぁぁああああああっ!」
マミカが
「フレイアさんは一晩中、夜の修行だと言ってベッドの中で色々教えてくれましたよ」
「あ、あああっ……アタシのナツキが……」
再び
しかも、実際はスキルの特訓をしただけなのに、ナツキの言い方がアレなので単に勘違いである。
「な、ナツキ……それで、どこまでやったの?」
「はい? スキルの使い方ですよね」
「は? エッチは?」
「マミカさん、エッチは結婚を前提にしてからですよ」
「じゃあじゃあ、まだ童貞なの?」
「ど、童貞です……」
女子から童貞と言われて、ナツキの顔が恥ずかしさで真っ赤になる。エッチなことをしているようでいて、やっぱりナツキは
「きゃはっ♡ ドーテーなんだぁ♡ うふふふっ、ナツキってぇ♡ そうか、童貞かぁ♡ どーてーどーてー」
「マミカさん、あんまり童貞連呼しないでくださいよ……」
「何よぉ♡ 童貞は希少価値よ♡」
貞操逆転世界のルーテシア帝国では、男性の処女性が重んじられている。つまり童貞は大人気なのだ。女性が男の初めてを貰うのは、それだけでも価値のあることだった。
そんな童貞の話で復活したマミカだが、まだ少し腫れているナツキの腕を見て表情が曇る。
「ねえ、その腕を怪我させたのって軍の収容所のヤツって言ったよね」
ナツキと話している時には見せない怖い目になって話すマミカ。
「えっ、はい……そうですが」
「よし、潰そう。そいつら」
「ちょっと待ってください」
「だってアタシのナツキを怪我させたんだし」
マミカの表情がドSな顔になっている。ナツキを殴った相手が許せないのだろう。
「これは違うんです。一対一で戦ってできた傷です。ボクが勝って終わったのだから、これ以上やったらダメなんです。それに……一兵士を倒して終わる話じゃ……」
ナツキは考えていた。末端の兵士は上官の命令で動いているだけなのだ。いくら悪さをした兵士を倒しても、根本原因である国や支配者を変えなければ問題は終わらないと。
「ナツキ……戦ったって誰と? そういえば剣から火球が出たとか言ってたわよね?」
「えーと、確かガーレンとか呼ばれてました。凄く強そうな男の人です」
ナツキの話でマミカが記憶を手繰り寄せる。士官学校時代に拳闘大会で連勝していたという男の噂を思い出す。
「ガーレン……もしかして、あの大男の……はあああっ! あのガーレンに勝ったの? めっちゃ強いわよ。男子の部では負け知らずなんだから。あっ、ロゼッタと試合して一敗してたけど」
マミカの話によると、ガーレンが唯一負けた相手はロゼッタらしい。ロゼッタは規格外としても、男子の部で連勝するほどの強者なのだ。とても戦って勝ったという話は信じられないだろう。
「ナツキ……あんた、ベッドではつよつよだけど、戦闘ではよわよわだったのに……」
「ううっ、ベッドでつよつよは余計です」
「う~ん、ナツキのスキルを詳しく調べてみた方がいいわね。昨夜の体の芯にズンズンムラムラ来る攻撃といい、ペロペロする攻撃といい」
ペロペロはスキルではない――
アイカは同じ精神系スキル持ちとして、ナツキのスキルに興味を持った。能力を解明してみたいと。ただ、すぐ後に別の人物も解明しようとするのだが。
支度が整い二人が宿屋を出たところで、思わぬ人物と遭遇してしまう。まるでナツキ達が出てくるのを待ち構えていたようなタイミングだ。
「ぐひっ、や、やあ、マミカ。久しぶりなんだナ」
ズザッ!
瞬時にマミカがナツキを守るよう前に出た。その顔は本気モードだ。いつでも攻撃を繰り出せる体勢になっている。
「お、おっと、危険なんだナ。近付かれると精神掌握されるゾ」
待ち構えていた女――ネルネルが後ろに飛んで距離をとる。
「ネルネル、あんた何しにきたの! まさか、アタシ……いや、ナツキを
「ぐひゃひゃ、そうだと言ったら?」
ぐにゃぁああぁ~ん!
ネルネルの周囲に闇のオーラが展開する。闇夜よりも暗く、冥界の魔物のようにおぞましく、青黒い触手のような暗黒物質だ。
「待って! 二人共っ!」
間に割って入った大きな女が叫ぶ。見上げるような長身で色々なところが突き出て目のやり場に困る女。そう、ロゼッタだ。
「いきなり何するんだよネルネル。マミカも下がってよ。今日は会いに来ただけなんだから」
「その女は会いに来ただけじゃないみたいだけど?」
そう言ってマミカがネルネルを睨む。
「ほら、ネルネル。その触手を引っ込めてよ。先ずは話し合おう。ナツキ君は私の結婚相手なんだからさ」
ロゼッタがネルネルの肩を掴んで持ち上げる。優しく言っているようでいて、その握力は強く一呼吸で肉を捻り潰しそうな迫力だ。
「わ、分かったんだゾ――」
「ロゼッタ! あんた、まだアタシのナツキに!」
ネルネルが触手のような暗黒物質を引っ込めたが、代わりにマミカがロゼッタに怒った。勝手にナツキを結婚相手にされているのには黙っていられない。
「そ、それは一時
マミカの恋心をロゼッタか勝手に的中させてしまう。
「はあ? 誰が好きですってぇ! はあ? はあ?」
「だって、好きなんだよね?」
「ち、違うしぃ! ぜっんぜん好きじゃないですぅー! 下僕だしぃ」
「素直じゃないなあ」
「はあ!? はあぁっ!? だだだ、誰が素直じゃないとかぁ!」
途中から大将軍とは思えない子供の喧嘩になってしまう。警戒して気を緩めなかったネルネルも、さすがにバカらしくなって戦闘態勢を解除した。
◆ ◇ ◆
アレクシアグラードの街をナツキを探して歩き回ったフレイアとシラユキだが、一向にナツキを見つけること叶わず途方に暮れていた。
実は軍の収容所にも顔を出したのだが、ちょうどナツキとすれ違いになっていたのだった。少年を逃がしたのを
ただ、ボディに一発くらったガーレンが、ぐったり横になっているのを不思議に思っただけだ。
「はああぁーっ、ナツキ……どこ行っちゃったのよ」
レストランのオープンテラス席でフレイアが伸びをしてぼやく。
朝食をとる為に店に入ったのだ。シラユキと二人で席に着いてオムレツとミルク粥を食べていた。
「弟くん……他の女に酷いことされてないか心配……」
遠い目をしたシラユキが呟く。
「実はマミカがナツキを監禁してイケナイコトしまくってたりとかね。まっ、冗談だけど」
キッ!
「ま、マミカ……許さない……」
フレイアの冗談を、シラユキが本気にしてしまう。
「冗談だって。まったく、あんたって冗談通じないわね」
「ぐっ、マミカならやりそう。非モテなのが判明したから」
「非モテ関係無いでしょ。まあ、マミカならしそうだけど」
二人でナツキの話をしていると、隣の席に団体客が現れた。席を二つくっつけて四人で座るようだ。フレイアもシラユキも
「ほら、皆座って」
四人組の中の大きな女が皆に席を勧める。ちゃっかり自分だけ好みの少年の隣を確保するように。
「ちょっと! なに隣を確保してんのよっ!」
「ぐ、偶然だよ。結婚相手なのは一先ず措いておくんだろ」
少年の奪い合いなのか、二人の女が喧嘩を始めた。朝っぱらから騒々しいことこの上ない。
四人組は、女の子みたいな少年と、やたら魅惑的で派手な女、長身ムッチリの恵体女、髪の毛ボサボサの怪しい女。変な組み合わせである。
こうして、奇妙な組み合わせの朝食が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます