第27話 恋と憧れと反逆の狼煙
「ナツキ……それは……」
「お姉様は大将軍だったんですね」
ナツキが真面目な顔になる。まるで覚悟を決めたような。
「ま、待って。騙してたのは悪いと思うけど、アタシだって色々あるのよ。ゆ、有名人だし……城を抜けてきたのがバレるとマズいし……ほら、超可愛いし……」
マミカが釈明する。超可愛いは、どのような理由なのだろうか。
超可愛いとか言っているマミカの頭の中では、超高速回転でナツキを言いくるめる作戦を立てているところだった。
マズい! マズい! マズい! マズいし! アタシが大将軍なのがバレちゃった。騙し続けて信用させてから裏切る計画が台無しじゃないの! 何とかして誤魔化さないと。
裏切る……ホントにそれで良いのかな……。いや、アタシは誰も信用しない。ナツキも利用するだけ利用して捨てる。アタシの官能を刺激するような、ちょードSでちょー容赦のない初エッチで絶望の淵に叩き落してやるんだから。
ふふっ、アタシに裏切られて泣くナツキの顔を想像するとゾクゾクする……で、でも…………。
『両親も早くに他界して、ずっと一人で――』
『これまでゴミスキルとかゴミ男子と呼ばれてきましたが――』
不意にマミカの脳裏にナツキの声が流れる。
ナツキ……ち、違う! たまたまアタシと境遇が似てるから同情しているだけ。決して好きなわけじゃ……。
『はい、可愛いです』
ずきゅぅぅぅぅーん♡
今度はナツキが笑顔で可愛いと言う映像が浮かび、マミカのハートがキュンキュンしてしまう。
もう重症である。マミカは恋の病にかかっているようだ。あれだけ『アタシのナツキ』と連呼していたのに、当の本人は自分の恋心に気付いていないのだから。乙女心が不思議なのは万国共通なのかもしれない。
「ナツキ……違うの……これは……」
嫌っ、ナツキに嫌われちゃう……親切を装って近づいたけど、ホントは性格悪い女なのがバレちゃう……。
何か喋ろうとするマミカだが、言葉が出てこない。しかし、ナツキは予想外の話をし始める。
「良かった。マミカさんが大将軍だったなんて」
「えっ?」
嫌うどころか、マミカに対し憧れや尊敬の態度を見せるナツキ。
「マミカさん、やっぱり凄いです。実はボクのことを全て分かった上で試していたんですよね」
「へ?」
「最初からおかしいと思ったんですよ。だって、マミカさん凄く強いし、帝国軍にも顔が利くみたいだし。精神系魔法最強って言ってるのに、何でボクは気付かなかったんだろ」
「えっ? ナツキ……」
「本当にマミカさんは強くて優しくて凄い人です。全部分かっていたなんて。ボクが頼りないから剣の特訓までしてくれて。尊敬します」
話が見えてこないが、どうやらナツキは誤解しているようだ。ただ、ナツキの尊敬とは逆に、マミカの目から涙が溢れそうになる。
「ちがっ、違うし。アタシは尊敬なんかされる女じゃない。性格悪くて……
「そんなことありません! マミカさんは優しくて良い人です! ボクに剣を教えてくれたじゃないですか! ボクがイジメられていたことに本気で怒ってくれたじゃないですか! マミカさんは人の心の痛みが分かる人です! ボクには分かるんです。昔から人の顔色ばかり見てきたからなのかもしれないけど、その人が良い人か悪い人か分かるんです!」
「ううっ……ナツキぃ……」
きょろ、きょろ、きょろ――
ナツキとマミカが良い感じになってしまい、おいてけぼりのロゼッタが二人の間で首をきょろきょろする。
運命の人だと思っているナツキが、他の女とラブシーンに突入しそうで気が気ではない。メラメラと嫉妬の炎が燃え上がりそうな感じだ。
「マミカさん、これからはアイカお姉様じゃなく、マミカお姉様と呼びますね」
ずきゅぅぅぅぅーん♡
「ナツキぃ♡」
「それと、もうバレているので話しますが、確かにボクはデノア王国軍の兵士です。帝都に向かい戦争を止める為に――」
「ん?」
「ええっ!?」
いきなり爆弾発言のナツキに、マミカもロゼッタも意表を突かれて絶句する。
「えっ、マミカさん、全部分かっていたんですよね。ボクが帝国に潜り込んだデノアの兵士だと。本当に戦争を止めるだけの実力と覚悟があるのか試してくれていたんですよね」
「ん?」
「ええ、えええっ……」
マミカの頭に『?』が浮かび、ロゼッタは大きな体でオロオロしている。
「でも、マミカさんに教えられたり、帝国の人々や現状を見て気付きました。ボクの考えは甘かった。侵略国家であるルーテシア帝国も、人々の暮らしは厳しく苦しんでいる人も多い。きっと戦争を望んでいない人も多いはず。それに、ボク一人で戦争なんて止められるはずがない。ボク一人の力は小さいから。世界を変えるには大きな力と仲間が必要だって――」
「ちょちょ、ちょっと待ってナツキ」
マミカが話を止める。その顔は困惑していた。情報量が多くて頭が追い付かないのだ。
しかし、驚いているのはロゼッタも一緒だった。
「ななな、なんだってぇぇぇぇええええっ! デノアの勇者はキミだったのか!」
中々話に加われなかったロゼッタが大声を出す。探し求めていた調教したいデノアの勇者が目の前にいるのだ。しかも運命の人とまで思えるほどキュンキュンきた相手なのだから。
「ロゼッタさん、ボクは弱くて勇者なんて呼ぶのはおこがましいですが、フレイアさんやシラユキさんと一騎打ちしたデノア軍兵士はボクです」
「やっぱりそうなのか。ナツキ君がデノアの勇者。あの大将軍フレイアとシラユキを倒した唯一の男。た、確かに……余り強そうには見えないけど……で、でもでも、すっごく好みなんだ! エッチしたい! 結婚しよう! おなしゃす!」
突然の求婚。ロゼッタにとっては、敵の勇者という問題より超好みの男子ということの方が優先らしい。
「け、結婚はダメです、ロゼッタさん。先ず結婚を前提にお付き合いして、デート三回してからキスをして――」
「よし、今すぐ付き合おう。もろちん……じゃなかった、もちろん結婚を前提にね。よし、デートだ、エッチなデートをしよう! 今すぐ! ふんすっ!」
「ち、近い、顔が近いです。あと鼻息が荒いです」
ムッチムチの肉体美でグイグイくるロゼッタ。これにはナツキもたじたじだ。
「ナツキがデノアの勇者……」
そう呟いたマミカの脳裏には、これまでの人生や帝国の現状、政治と権力を掌握する
面白い……これは面白いことになりそうね。そう、アタシを楽しませるドキドキワクワクでちょーエキサイティングな事件が起こったのよ! ナツキの存在は、この腐敗した帝国をひっくり返す力になるかもしれない。
確かにナツキは弱い。でも最強の魔法使いフレイアとシラユキを倒したとか言ってたし。何か特別な力があるのかも。それにナツキのスキルは不思議なところが多いのよね。もしかしたら超レアな特殊スキルなのかも。しかも、さっき剣から火球が出たとか言ってたし。
アタシがナツキと組めば、この世界を革命することも可能かもしれないし!
マミカの決意が固まった。後は実行に移すだけである。
「ねえ、ナツキ。よくアタシの考えを見抜いたわね」
さっきまでの動揺を隠し、自信満々の顔でマミカが話し始めた。
「マミカお姉様……」
「そうよ、アタシが全て仕組んだの。ナツキを一人前にして、この世界を救う為に」
「やっぱり!」
「ナツキ、この戦争を止めて世界を革命するわよ!」
「はいっ、マミカお姉様」
純粋なナツキが、完全にマミカを信用している。やっぱり騙されやすかった。
「す、凄い! 戦争を止めて世界を革命……」
もう一人騙されていた。ロゼッタまで目をキラキラさせている。
面白そうなので、ついでにロゼッタにまで話をするマミカ。ノリノリである。
「ロゼッタ、あんたは今の帝国をどう思っているの?」
「えっ、どうって……」
「次々と周辺国に戦争を仕掛け、戦費で税金は上がり国民の暮らしは厳しくなるばかり」
「それは、そうだね……」
皇帝に忠誠を誓うロゼッタとしては、むやみに帝国を批判できない。しかし、戦線を拡大し続け国民の暮らしが蔑ろになっている現状は理解していた。
「それもこれも現皇帝アンナ様の政策が原因」
「ま、マミカ、陛下への批判はダメだよ……」
「でも、もしそれが陛下のご意思ではなく、何者かの謀略だとしたら?」
「ええっ!」
遂にマミカが核心に触れた。これまでも薄々感じていたことだ。
「現皇帝アンナ様は10歳。本当にご自身で政治や戦争の計画をお決めになっておられるのかしらね?」
「そ、それは……」
ロゼッタが黙る。自分でも幼い子供が戦争を拡大しているのに疑問があったのだろう。
「ルーテシア帝国の皇帝って10歳だったんですか! ボクは、もっと歳の人だと思ってました。そんな子供が隣国を侵略して国民まで苦しめているなんて思えません」
マミカの話を聞いていたナツキが発言する。
「そうよ、ナツキ。前皇帝であるアンナ様の母君が
マミカが一呼吸置く。
「全ての元凶は
「そうだったんですか!」
「そうだったのかぁーっ!」
マミカの
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