第26話 超規格外の女

「そ、そんな……アイカさんが帝国大将軍……マミカさんなの……」


 凄まじいオーラを放つ大将軍二人を前に、呆然と立ち尽くすナツキが呟いた。

 助けてくれた長身女性ロゼッタに引き続き、旅に同行してくれたり剣術を教えてくれたアイカまで大将軍だったのだ。



 その二人はお互いに戦闘態勢をとり強力なスキルを展開している。


「ロゼッタ! 絶対に許さない。アタシのナツキを汚した罪、その身であがないなさい!」


「ぐおおおっ! こ、これは、精神掌握スキル……くっ、このまま倒されるわけにはいかないんだ。マミカ、反撃させてもらうよ!」


 ぐわぁぁああああぁぁん! ぐにゃあっ!

 ロゼッタの体から戦闘バトルオーラが立ち上がった。空間を捻じ曲げるようなそれは、周囲の景色を歪みださせる。


「ぐううっ、スキル、肉体超強化! 精神超強化!」

 バチッ! ズババババッ! バチッ! バチッ!


 ロゼッタがスキルを使った。

 格闘レベル10の地上最強戦士であるロゼッタ。その能力は身体機能を極限まで向上させ、常軌を逸したような桁違いのパワーを生み出すことができるのだ。


 ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 マミカ必殺の精神掌握セイズマインドを受けてなおロゼッタは動いている。常人ならば瞬時に身体機能が乗っ取られ、まるで操り人形のようにされてしまう恐るべきスキルだ。

 その究極のスキルを受けて、体の動きこそ鈍重になっているロゼッタだが、その足は徐々にマミカに向けて進んでいた。


「くっ、アタシの精神掌握セイズマインド抵抗レジストしているだとっ! このままではやられる。使いたくなかったけど、もう脳爆裂ブレインバーストを使うしか!」


 マミカ最強最悪スキル脳爆裂ブレインバースト、それは相手の脳のクロック周波数を一気に超加速暴走させ、瞬時に脳回路を焼き切り即死させる技だ。


 ただ、いくらナツキを寝取られ激怒しているとはいえ、同僚であるロゼッタに即死スキルを使うのには躊躇ためらいがあった。



「ああっ、もうっ! アタシが本気出す前に倒れなさいよ、バカロゼッタ!」

「ぐああああっ! だから誤解だって言ってるのに!」


 マミカの必殺必中のスキルが体勢に入り、それを防ぐためにロゼッタの剛腕が唸りを上げたその時。二人の間にナツキが飛び込んできた。


「待ってください! 喧嘩は止めて!」


 ぐわんっ! バチッ、ズバッ!

 攻撃態勢に入っていた二人が急ブレーキを踏む。危うくナツキに攻撃が当たりそうになったのだ。


「危ないじゃない、ナツキ!」

「ナツキ君、キミは下がっていて」


 熱くなる二人にもナツキは引かなかった。


「危ないのは二人の方でしょう! 何やってるんですか! 二人は仲間なんですよね。何で殺し合いみたくなってるの!」


「うっ……だってナツキが……」

「それは、そうなんだけど……」

 マミカもロゼッタも気まずそうな顔になる。


「アイカさ……じゃない、マミカさん! 理由も聞かずに襲いかかるとかダメでしょ! 反省してください!」


「うう……ごめんなさい……」

 ナツキに説教され、あのマミカがシュンとしている。


「ロゼッタさんも! デートは三回でキスをしてからって言いましたよね。初対面でセック……エッチとかダメですよ!」


「キミの言う通りだ。すまない。暴走してしまった……」

 大きな体を小さくして謝るロゼッタ。何故か正座している。


「えっ? デート三回ってなに?」

 マミカがデート三回にツッコんだ。


「マミカさん!」

「あんっ、怒らないでよナツキ」

「デートはどうでもいいです」

「良くないし」

「マミカさん!」

「ふえぇん」


 今までずっとナツキのお姉様だったのに、説教されて泣きそうなマミカ。これでは姉としての立場が無い。


 叱られてシュンとする帝国最強大将軍二人に、ナツキはこれまでの経緯を説明した――――




「つまり、ナツキの怪我はロゼッタのせいじゃなく、収容所で兵士と戦った時の傷ってわけね」

 怪我のことはマミカも納得した。


「そうです。道で力尽きて倒れていたボクを、親切なロゼッタさんが部屋まで運んでくれたんですよ」


「いやぁ、当然のことをしたまでさ。ナツキ君のような少年が道に倒れていたら、痴女や送り狼の女に襲われちゃうからね」


 正座したまま能天気な顔で話すロゼッタ。当然マミカがツッコミを入れる。


「痴女で送り狼はあんたでしょ!」

「だ、だよね……反省してます」

 再びロゼッタがシュンとする。


 とりあえずナツキの怪我はロゼッタのせいではないと分かったが、まだ寝取られ未遂の説明がついておらずマミカのロゼッタを見る目は険しいままだ。


「それで、部屋で介抱していたら、性欲が我慢できなくなって襲ったってわけね」


「ま、まさかマミカが先に手を付けてたなんて知らないからさ。しょうがないじゃないか。部屋で初心うぶな少年と二人っきりなんだよ。もう襲うのが常識というか。ナツキ君が凄く好みで……そうそう、運命の人なんだよ。もうエッチしまくるしかないよね」


 常識とは――――

 規格外の性欲を持つロゼッタの常識は、ちょっとおかしい。


 ここでエッチは『未遂』だと釈明しようとするロゼッタの話をさえぎって、思い出したようにナツキがスキル覚醒の話をし始めた。


「そうです、そういえばマミカさん! ボク、出たんです。熱くて強いほとばしりが。体がドクってなって、こう先っちょからビュッて――」


「「は?」」

 唐突に意味深な話を始めるナツキに、二人の女が固まってしまう。


「な、ななななな……ロゼッタぁ! あんたやっぱりアタシのナツキを!」

「ち、違う! 未遂だから。最後までしてないから」

「殺そう……やっぱり脳を破壊で……」

「先っちょもしてないからぁ」


 寝取られて脳が破壊NTRショックされたマミカが、寝取ったロゼッタの脳を破壊しようとする。NTRの恐ろしさ故か。


「喧嘩はやめてください!」

 再びナツキが説教する。


「だってぇ、ナツキが初エッチでビュって……」

「ナツキ君、出してないよね! むしろ私が漏らしそうだったけど」

「てか、ロゼッタは黙ってて! なに漏らそうとしてんのよ!」

「ううっ、面目ない……」


 何だかよく分からないがロゼッタが漏らす寸前だったようだ。ナツキ、ギリギリのところで助かったのかもしれない。


「も、漏らしてませんから! 二人とも何の話をしてるんですか。ボクが言ってるのはスキルの話です。剣の切先から小さな火球が出たんですよ。淫乱剣改め獄炎剣フレイアブレードです」


 これには二人の女子も呆れ顔だ。紛らわしい表現を使ったナツキが悪い。


「ナツキ、スキル覚醒して強くなったのは凄いけど……その、先っちょからビュッなんて言ったら誤解するでしょ。アレかと思うし」


 マミカの話にナツキはキョトンとした顔をする。


「マミカさん、アレって何ですか?」

「アレって言えばアレよ。その、先っちょから出る……」

「何が出るんですか?」

「うっ、し、白くて……その……」


 詳しい説明を求められてマミカの顔が赤くなる。口で説明する代わりに、指でナツキの体を指差した。


「えっ、そういえば……エッチな夢を見た時に出ちゃったことがありますけど……」


「うひっ!」

「ぶふぉ!」

 素で変な返答をするナツキに、マミカとロゼッタが同時に変な声を上げた。


「ちょちょちょ、ちょっと待って。ナツキって自分でしたことないの?」

「何をするんですか?」



 マミカに超弩級ちょうどきゅうの衝撃がクリティカルヒットした。


 ちょっと待って! ナツキって自分でシてないんだ。夢で出ちゃったとか言ってたけど。それって……きゃっはぁ♡ なになになにぃ♡ 初心うぶだと思ってたけど、ここまでとはね。


 くふふっ、ふふふふふっ♡ ロゼッタは未遂だったみたいだしぃ。やっぱ、アタシがナツキの初めてを貰うしかないわね。 無慈悲に徹底的にイケナイコトしまくってヒーヒー泣かせたぁい♡



 ロゼッタに超弩級の衝撃がクリティカルヒットした。


 ちょっと待ってくれ! ナツキ君は自分でシてないのか。夢で出たとか言ってたけど、それって……むっはぁあ♡ 昂ってきたぁぁぁぁああああーっ! やはり私が全部教えるしかないよね。きっと。


 ふっ、ふんす! ふんす! これはもう結婚するしかないよね。結婚して、おはようのエッチと、行ってきますのエッチと、ただいまのエッチと、いただきますのエッチと、ごちそうさまのエッチと、特に何もなくてもエッチするんだ。あっ、夜は別途エッチ五回はノルマかな。



 頭の中がエッチでいっぱいの年上女二人。どっちを彼女にしても大変そうだ。


「何だか、子ども扱いされている気がする」

 ナツキが拗ねた。


「ふふっ♡ そんなことないって。気のせいよナツキ」

「そうそう、むしろ好感度アップだよ。ナツキ君」


 さっきまで殺し合いになりそうな雰囲気だったのに、ナツキのエッチ事情でシンクロする二人。


 このままエッチな話題で一件落着かと思いきや、ナツキは肝心なことを思い出した。次の一言で再び嵐となる。


「そういえば、アイカさんじゃなくマミカさんだったんですね。大将軍の……」


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