第11話 旅立ち
朝食をとっているナツキたち。先日と違うのは、ナツキの隣に頬を染めたシラユキが座っていることだ。
「ちょっと、シラユキさん。狭いです……」
困惑した顔のナツキが言う。
昨日までの氷の女とは全く違う、
「問題ない。ルーテシアでは皆こんな感じ」
「はっ、そういえばそうでした。腋を舐めるんですよね」
「そ、それは……ごにょごにょ……」
もちろんルーテシアでも腋ペロはしない。いや、一部の女性はさせているかもしれないが。
そんな二人を見つめたフレイアがぐぬぐぬと変な声を上げている。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ――――」
「で、でも……弟くんになら、腋……良いかも♡」
「お、弟くん? ボクのことですか?」
急に『弟くん』と呼ばれ、ナツキが聞き返す。
「そう、私の愛読書『弟くんは義弟で勇者で超シスコン!』という小説に書いてある。だから、弟くんは私を『お姉ちゃん』って呼ぶこと。あと、腋ペロもすること」
好きな小説の設定通りにエチエチ展開しようとするシラユキ。因みに彼女の性知識は、大体小説の内容だけだ。
「お、お姉ちゃん」
「くふふっ♡ 良い響き……」
何とも妖しげな目つきのシラユキが不気味な笑みを浮かべる。元々鋭い目つきなのに、そこにヤンデレっぽい表情まで加わり、更に怖くなってしまったかもしれない。
「あっ、でもマリーアタックは敵を倒す必殺技です。敵じゃない人には使えません」
ナツキが思い出したように言う。
「えぇーっ、やって欲しい。むしろ毎日でも♡」
ナツキの反対側に座っているフレイアが、腋ペロの話で遂にイライラが限界になった。
「ぐぬぐぬぐぬぐぬ…………ああああああーっ! ぎゃああああああーっ! もぉぉぉぉーっ、ヤダぁ! 何でシラユキに腋ペロしちゃうのよぉ」
フレイアがぶち切れた。
「え、ええっ、だって、フレイアさんが教えたのに」
「私が原因だったぁああああああーっ!」
完全にフレイアの自爆である。
そんな、どうでもいい腋ペロの話で盛り上がった後に、ナツキが今後の目標と決意を話し始めた。勿論、部下を下がらせて三人だけになってからだ。
「ボクは戦争を終結させたい。だから、このままルーテシア領内に進みます。他の大将軍とも戦って説得するつもりです」
「ナツキ少年、やっぱり決意は固いんだ。でも、私が一緒に行ってあげる。このフレイアお姉さんに任せなさい!」
フレイアが付いて行くと言い出した。
「フレイアは軍の指揮がある。この城を守るべき。代わりに私が行く」
そこにシラユキまで口を挟む。フレイアの代わりに自分が付いて行くと言い出した。
「シラユキ、あんたこそ軍の指揮があるでしょ!」
「私は副官に任せる。フレイアが城を守るべき」
「私も副官に任せるわよ! てか、あんた後輩なのに生意気なのよ」
「そう?」
「『そう?』じゃないわよ! やっぱりムカつくわね」
フレイアは21歳。帝国士官学校でシラユキの二年先輩だった。実力主義のルーテシアでは年齢はさほど重要ではないが、学生の間では少しだけ上下関係はある。
「もう学生ではない。フレイアと階級は同じ」
「そうだけど。そうなんだけどぉ!」
話だけ聞いていると、どっちが先輩なのか分からなくなりそうだ。ナツキと話す時は柔らかい物腰のシラユキだが、相変わらず他の人には素っ気無い態度で言葉が少ない。
そんな二人の言い合いをスルーしたナツキが主張する。
「ボクは一人で行きます。皆さんに迷惑をかけるわけにはいきません」
「「ええっ!」」
ナツキの言葉に、フレイアとシラユキが同時に驚いた。
「だって、皆さんはルーテシア帝国の大将軍ですよね。本来は敵であるボクに味方したら処罰されてしまうかもしれません。親切にしてくれた二人に迷惑をかけたくないんです」
「でもでもぉ♡」
「弟くん、一人は危険」
「お二人の気持ちは嬉しいです。敵であるボクに親切にしてくれて。きっと、帝国軍の皆さんがフレイアお姉さんやシラユキお姉ちゃんのような人だったら平和なのかもしれませんね」
「ナツキ少年……」
「弟くん……」
二人が心配そうな顔になる。慕ってもらえるのは嬉しいのだが、このままナツキを一人で行かせるのは反対なのだ。
「大丈夫です。無理はしませんから。何とかして帝都まで行き、皇帝と話をして戦争をやめてもらいます。デノア王国がルーテシア帝国と戦っても、万に一つも勝ち目がありません。だから、ボクは戦争を止めたい。何も悪いことをしていない優しい人達が傷付くのを見たくないんです」
「で、でも……キミ……」
「分かった。弟くんがそう言うのなら尊重する」
「お、おい、シラユキ!」
フレイアの発言を遮ってシラユキが前に出る。
「弟くん、このまま何も準備しないで行けば必ず失敗する。世界最大の大帝国を敵に回すというのは、そんな綺麗ごとで済むはずがない。そこは理解してる?」
「はい。ボクだって綺麗ごとや理想論だけで戦争を止められるとは思っていません」
シラユキの忠告にナツキが同意した。
「古の兵法にある。敵を知り己を知ることが大切。正攻法の作戦で向かい奇襲によって勝つ。勝算の無い戦いはしない。時には戦わずして勝つことも重要。現代に
「は、はい」
「何より情報を得ること。私が現状の帝国軍部隊の配置を教えてあげる。あと、お金も必要。十分な額を貸してあげる」
「でも……」
「あげるのではない。貸すだけ。だから、必ず生きて帰ってきて、お金を返すこと」
「はい! 分りました」
シラユキから情報とお金を受け取り出発の準備をするナツキ。ゴミスキルと言われた少年が、たった一人で大帝国に立ち向かおうというのだ。
幼年学校でのナツキしか知らない者達なら、きっと信じられないと思うだろう。数奇な運命により、敵の姉属性女と戦うことで、ナツキは大きく成長することができたのだから。
「そうだ、手紙を書こう。先生やミア達に伝えておかないと。心配しているかもしれないし。し、しているよな……?」
ナツキは手紙を書いた。祖国を遠く離れ帝都へ向かうと。そしてそれがデノア王国で大きな話題になることも知らずに。
◆ ◇ ◆
そして、旅立ちの日――――
「ほ、本当に一人で大丈夫? もう、お姉さん心配で心配で」
フレイアがナツキの体をベタベタ触りながら言う。
「大丈夫ですよ。行ってきます」
「はぁん、でもでもぉ♡」
「気をつけてね。弟くん」
フレイアとは対照的に、意外にも涼しい顔のままシラユキが言った。
「はい、シラユキお姉ちゃんも元気で」
「うきゅ……う、うん」
ナツキの声で、目つきは鋭いままのシラユキの頬が染まる。
「手紙はお願いしますね」
「んっ、もう送っておいたから安心して、弟くん」
「はい、では行ってきます」
二人はナツキの後ろ姿が小さくなるまで見守っていた。
「もぉ、何で一人で行かせたのよ! シラユキはナツキが心配じゃないの! って…………その荷物は何なのよ?」
フレイアが、シラユキの傍らに荷物がまとめてあることに気付く。
「何って、私も後を追うから」
表情一つ変えずにシラユキが言った。
「ちょちょちょっと待って! あんた最初から……」
「当然」
言葉通り、当然という顔をするシラユキ。ドヤ顔だ。
「って! あんた本当にムカつく! ちょっと待ってなさい! 私も一緒に行くから!」
「よいしょ……」
フレイアの話を聞いているのかいないのか、シラユキが荷物を持って歩き出す。
「ああああぁ~ん! 何なのよ! もうっ、何なのよぉ!」
当然、フレイアも副官に軍を引き継がせてシラユキを追いかけた。停戦を維持し待機しているようにと命じてから。
◆ ◇ ◆
デノア王国への手紙――――
拝啓、残暑の候。親愛なるマリー先生や同級生の皆。そしてデノア王国の皆さん。ボク、ナツキ・ホシミヤは元気です。
ボクは一騎打ちで炎の大将軍フレイアさんと、氷の大将軍シラユキさんと戦い勝利し、一時停戦することを約束させました。
この二つの軍は動きませんので安心してください。デノア王国も停戦の約束を守るよう、国王陛下に進言をお願いします。
そして、ボクは他の大将軍や皇帝と話し合い、この戦争をやめるよう説得するつもりです。
世界最強の軍事国家に対して挑むのですから、とても大変な険しい旅になると思います。もしかしたら、もう二度と戻れないかもしれません。
ボクは、剣も魔法も使えないゴミスキルと言われてきました。でも、こんなボクでもスキルを活かして戦えると、大将軍との戦いで分かったのです。
ボクに優しくしてくれた商店街の皆さん、戦いを望まない多くの国民の皆さん。そんな人達のためにボクは戦います。
ボクの夢は、国を守る英雄になることです。だから、例え一人でも戦い続けます。こんなボクでも戦えることを知ったから。
もう戻れないかもしれない。でも、もし勝って戻ることができたのなら。ボクはゴミじゃないと認めてください。例え弱いギフトでも、頑張れば人の役に立てるのだと。
それでは、ボクは旅立ちます。戦争が終結し平和になることを祈って。 敬具
――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
遂に帝国領内へと旅立つナツキ。どんな苦難や肉食系ヒロインが待っているのか。ご期待ください。
お姉ちゃんたちとのラブラブえちえち展開はたっぷり用意していますので、もう少しお待ちくださいませ。
もし少しでも面白そうとかお姉ちゃんキャラ大好きと思ったら、よろしければフォローや★やイイネを頂ければモチベアップになって嬉しいです。たとえ星1でも泣いて喜びます。コメントもお気軽にどうぞ。
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