第4話 手取り足取り腰取り修行

 ルーテシア帝国リリアナ南部城塞都市執務室。


 フレイアの敗北により、一時的休戦に応じた帝国は撤退するデノア軍への追撃を行わなかった。何でもすると約束したフレイアにナツキが命じたのは、撤退するデノア軍への追撃の中止と停戦だからである。


 ここ、城の執務室に招かれたナツキは、大きなテーブルを挟んでフレイアとお茶を飲んでいた。


「むっすぅぅぅぅーっ……」


 当然、この命令にフレイアは不満ばかりだ。てっきりナツキがエッチな命令をするものだと思っていたのに、相手にその気が全く無いのだから困ったものである。


「あ、あの、お姉さん……」

 ナツキが話しかけても、フレイアはそっぽを向いたままだ。


「あの、ボクの頼みを聞いてくれてありがとうございます」

「……まあ、約束したし」

「フレイアお姉さんって良い人ですね」

 ずきゅぅぅぅぅーん♡

「ぐっはぁ♡ それダメぇ♡」


 姉喰いスキルを使った『お姉さん』呼びで、姉属性のフレイアが再び大ダメージを受けてしまう。


「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃなーいっ! おい、少年! スキルを使うな」

「ええっ、使ってません」

「もぉっ♡ それ、無意識なの……」


 またしてもナツキの漏れ出した姉喰いスキルで屈服させられてしまうフレイア。少年大好き姉属性のフレイアであったが、女性上位社会のルーテシア帝国において、大将軍のフレイアが若い男に堕とされているのでは沽券こけんに関わる事態だ。


 帝国においては、男は女を立て三歩下がって歩くのが常識だから。



「はぁ、はぁ、はぁ……おい、少年、それ以上こっちに来るんじゃない」

 少し休んで回復したフレイアがナツキに命じる。


「はい、あ、あの、ボクってゴミスキルじゃないんですか?」

「帝国最強の私に勝った男がゴミスキルなはずがないでしょ!」

「た、確かに……」


 慎重に距離を取りながらフレイアが会話する。


「いいか、少年のスキルは精神系の能力のようだ。むやみやたらに能力を開放するんじゃない」


「で、でも……ボクはどうしたら?」


「そうね……私がキミの能力をコントロールできるように特訓してあげるわ。感謝しなさい!」


「は、はい。ありがとうございます」


 こうして、敵の女将軍にスキルの手ほどきを受けることになってしまう。しかし、これにはお互いに利益があるのだ。



 ナツキは心の中で喜んだ……

 あの軍事訓練で教わっていない夜の特訓を、敵であるフレイアが付けてくれるのだから。


 やった! これでボクも一人前に戦うことができるぞ。スキルをコントロールして強くなるんだ。ゴミスキルなんて言ってバカにしたクラスメイト達を見返してやる。



 フレイアは心の中で喜んだ……

 目の前の美味しそうな少年を、スキル訓練と称してイチャイチャし放題なのだから。


 ぐへ、ぐへへぇ♡ これで少年が私のものにぃ♡ スキルの特訓だなんて信じちゃうとかバカな子。まあ、コントロールは覚えさせて、ベッドの上でだけ気持ちよくなっちゃうけどね。



 ウィンウィンであった――――


「さっ、特訓に行くわよ、少年」

「ナツキです。ボクの名前」

「よし、今日からキミはナツキ少年だ!」

「はい、フレイアお姉さん」

「んああぁ♡ って、まだ早い」


 若干じゃっかん、危なっかしいが二人っきりでフレイアのベッドルームへと向かった。




 シャキッ!

 フレイアが自室の前まで行くと、ドアの前を守っている二人の女従者が敬礼する。


「私はこれから敵の少年を味合う。よいか、貴様らは暫くの間席を外しておれ。決して近付くでないぞ」


「「はっ、畏まりました」」


 バタンッ!

 ナツキとフレイアが部屋の中に入ってから、警備の女従者達が歩きながらコソコソ話しを始める。


「大将軍も好き者でありますね」


「ふふっ、フレイア様が負けたと聞いた時は耳を疑ったが、きっと負けたフリをして敵の勇者を味見するおつもりだったのだろう」


「確かに。きっとデノア王国の男を食いまくるのかもしれませんね」


「ははっ、豪胆ごうたんなお方だ。それでこそ女房関白にょうぼうかんぱくルーテシア乙女であるな」


 ルーテシア帝国は女房関白が基本デフォである。




 そして、ベッドルームに入った二人は――――


「大きなベッドですね。ボクのベッドの何倍もある」

「うむ、私のは特別製だからな」

「ふかふかです」

「うっ、広いベッドだが、私は毎日人肌恋しい夜を……」


 ナツキは知らないが、帝国乙女は性欲強めなのだ。その中でも特にエッチなフレイアには男がおらず、広いベッドで寂しい日々を送っていた。



「フレイアお姉さん、ありがとうございます。今まで誰もスキルの使い方を教えてくれなかったので嬉しいです」


 ナツキの話にフレイアが釈然しゃくぜんとしない顔をする。


「おい、ナツキ少年。キミはデノア王国の勇者なのに、誰にもスキルの使い方を教わらなかったのか?」


「はい……実は、ボクの天の祝福ギフトはゴミスキルだと判定されて、適正を伸ばす教育はしてこなかったんです」


「は? それは酷くないか。現に君は私を倒すほどの強者ではないか。スキルを学ばせたり適正を伸ばすのが本来の教育者であろう。若者の適正を伸ばさずして何の教育か」


「ははっ、ホクは……皆からゴミスキルとからかわれて……戦闘訓練でも、ボクだけ隅の方で自主練でした。おまえはゴミスキルだからと。だから、ボクは自分のスキルが何の役にも立たないのだと思ってました」


 フレイアの顔が曇った。幼気いたいけな少年をイジメるのは許せない。自分にとって少年は癒しなのだから。


「ううっ、可哀想……キミ、苦労したんだな」

「えへっ、やっぱりフレイアお姉さんは良い人ですね」

 ずきゅぅぅぅぅーん♡

「ぐっはぁ♡ お姉さん呼びキタァァァァーッ!」


 またしても姉喰いスキルがのった『お姉さん』で、フレイアが大ダメージになった。



「と、とにかく練習よ! 集中しなさい。頭の中でスキルを形にするような感じに思い描くの」


「サー、イエッサー」

 ナツキが、鬼軍曹のような女教官を思い出し返事をする。


「キミのは精神系スキルみたいだから、攻撃時は指向性を持たせる感じにするのよ。普段は周囲に漏れ出ているみたいだから、栓をするように内側に閉じ込めて。使う時だけ相手に向けて魔法を当てるかのように」


「サー、イエッサー」


 ナツキは頭の中でスキルの概念を思い描く。目に見えないソレを絞り、フレイアに向けて発射するかのように。


 ビビビビビ――

「はああぁぁ~ん♡ ちょっ、強っ、あっ♡ ダメぇぇ♡」


 指向性を持たせた姉喰いスキルの直撃を受けたフレイアがビクビクと痙攣けいれんする。当然、漏れ出ていたものと違い、強い力を勢いよく当てられたのだからたまらない。


「サー、イエッサー! 中に潜り込んで、おっぱいとお尻を掴む。そして滅茶苦茶に抱きしめる」


「ああぁん♡ それすっごぉい♡」


「サー、イエッサー! 手取り足取り腰取り」


「おっ、おほっ♡ お、おおっ、わ、私……ダメにされちゃうぅぅ~っ♡」


 ※注意:スキルの使い方を指導しているだけです。ナツキは決して如何いかがわしいことはしていません。




 チュン、チュン、チュン――――

 気が付けば朝を迎え、窓からやわらかな日差しが入ってきていた。


「やった! やりましたよ、フレイアお姉さん。かなり使えるようになりました」


 喜ぶナツキだが、何度も何度も姉喰いスキルの直撃を受けたフレイアは足腰が立たないほどフラフラだ。


「よ、良かったわね……そ、それ、むやみやたら人に使っちゃダメよ……」


「はい!」


 こうして、夜通し続いた特訓により、ナツキがスキルをちょっぴり制御できるようになり、また一歩救国の勇者へと近づいた。




 朝食をとるために、二人でダイニングルームへと向かう。まだ足腰がふらつくフレイアはナツキに支えられながら。

 まだ制御は不安定だが、とりあえず漏れ出していた姉喰いスキルは止まっているようだ。直接触れているフレイアも発情していない。


「おはようございます。フレイア様」

「おはようございます。大将軍」


 女従者達が挨拶をし、フレイアを席に案内する。ナツキはフレイアの指示で隣に座らされた。


「ねえ、フレイア様は一晩中お楽しみだったのかしら?」

「そりゃ、帝国が誇る大将軍だ。あの少年も気の毒にな。もう、フレイア様の玩具としてご奉仕させられるのだろう」


 そこにいる全ての従者やメイド達がコソコソ噂している。当然、フレイアが少年にイケナイコトしまくったのだと。


 ただ、フレイアは不満だらけなのだ。

「ああぁ、もう何なのよぉ……」


 この子、積極的に胸やお尻を触ったのかと思えば、そのまま何もしないし。もう、こっちは一晩中生殺し状態で欲求不満だらけよ!


 ナツキに邪心はなく、デノア軍の皆を逃がしたい一心でフレイアと戦い、スキルの制御を覚えたい一心で特訓したのだ。決してエッチな気持ちではない。


 ただただ、フレイアの欲求不満が増幅しただけの一夜なのだ。



「でもでもぉ、そんな初心うぶでピュアなとこも好きぃ♡ すっごぉく好き♡ あぁん、ちょー好きになっちゃってるぅ♡ どうしよぉ」

「えっ、フレイアお姉さん。何か言いましたか?」


 小声でブツブツ言うフレイアに、ナツキが耳を近づけてくる。そんな仕草にもドギマギさせられてしまうフレイアだった。


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