STEP3 【物品にかける税・いろいろ】

 以下に記載する課税方法は、原則(すくなくとも国内の)治安が安定している必要があります。小さな国では国内の物の消費量は多くないため、外国向けの産品を含む課税、ということになりますが、それはすなわち「外国との関係も良好である」必要があります。

 先に紹介した「専売制」を除き、基本的に物品にかける税は、最低限、国内の平和、できれば周辺地域も平和で良好な関係が保たれている国の制度だと言えるでしょう。


 《生産者に対する課税》

 比較的規模のおおきい生産者に対して課税します。

 規模がおおきくなければ、国にはその存在を認識できないと考えられます。

 課税方法としては、一定の重さや量に対して課税し、課税済みのもののみ出荷を許可します。

 あるいは生産者を束ねる問屋に対して、同様の課税をするとも考えられます。

 この場合、もし問屋的な組織が存在していなければ、国家は「問屋」を作ることを生産者に要求する場合もあります。

 そのうえで国家は問屋を通した物のみ、市場に出荷できるという法を定めるわけです。

 この課税方法の問題点は、農家が副収入目的で生産し、自分の村落での交換に使用するなど、極小規模の生産物については、国は捕捉できない点にあります。

 また、都市が一定程度の規模を持ち、「生活必需品の生産に携わらず生計を立てる民(官僚や商人など)」が人口にある程度の割合を占めるようにならないと、生産規模はおおきくならない傾向があります。

 そうです、近隣の住民同士がお互いの不足を物々交換で補い合っているレベルでは、「販売先がない」ために、たくさん作っても仕方がないのです。

 生産者に対する課税を国が行うためには、ある程度都市が発達し(大量消費地が存在する)、都市と近隣農村を結ぶ流通経路の治安が安定している必要があります。


《販売者課税》

 定期市や恒常的にその物品を扱う店舗に対して課税します。

 定期市の開催される場所にゲートを設け、そこに役人を立たせて運び込まれる販売物のうち、課税対象品を扱う商人に対して税を徴収します。(定期市を販売場所として利用する全員に対し、施設利用料として一定程度課税するため、課税対象品を扱う商人はさらに別途、物品にかかる税を課税されることになります)

 また、常設店舗においては、一定の期間ごとに販売量を確認して課税、ということになります。

 この課税方法の問題点は、生産者課税の問題点でもあった、「物々交換レベルの取引には課税できない点」、「都市が相応に発達していることが前提の点」、に加えて、「市場の入り口で計量する必要がある点」、そしてもっとも重要なのが、「常設店舗の事業主が、帳簿を付けている必要がある点(そしてそれを検証する手段を国が把握している点)」が挙げられます。

 ここで、どんな帳簿が存在し、国家がどんな情報を把握していればその正しさが(ある程度)検証できるか考えてみます。

 ①毎日の売上を記録している。

 これは必須の情報です。しかしながら、この情報だけではそれが正しいかどうか分かりません。

 ②仕入商品を記録している。

 ③だいたいの粗利益率を把握している。

 最低限、このあたりの情報が必要でしょう。

 そうです、販売者からその販売量(または額)に応じて税金を徴収する場合、簿記、単式でもよいですが、できれば複式簿記が浸透している必要があるのです。

 全体的に改竄されていれば、現地調査で実売を推定するなどを行う必要がありますが、これは現代日本でも同じですね。

 生産者課税の方が国家にとっては楽なのですが、たとえば、生産者が広範囲に存在している場合や、外国で生産されている物の国内流通品に課税する場合は「販売者課税」を選択することになります。

 課税対象の「物」は、小麦や、果物、手工業製品、織物、香辛料などを想定すると良いでしょう。

 また、「国家」のイメージとしては食料品を一定程度輸入に依存し、かつ大量消費地である都市国家などを想定します。


《消費者課税》

 古代~近代において、国家が個人に対し、ある物の消費について税金をかける、などという芸の細かいことができると考えてはいけません。

 このタイプで課税するとすれば、地租台帳や人頭税台帳に基づき、物品にかかる税を加算して徴収することになります。

 要は、ある程度信頼のおける戸籍に類する記録が整備された国、ということになります。

 国家はそれらの人々が容易にその物品を入手できるように市場を整えたり、生産を増強したり、なんてことはしません。

 たとえば塩の場合、近隣で塩を生産しておらず、家畜の血をソーセージなどにして摂取することで塩を得ているような人々にも、この税は課税されます。

 「実質的には人頭税の増額」です。加えて人頭税は成年(とくに男性)に対してかけられることが多かったのですが、物品に対する税という名目にすると子どもにも、女性にも課税できる!

 しかも徴収はもともといる人頭税を徴収する官僚にやらせれば良いし、市場や生産設備、街道の治安維持など設備投資も必要ないので、経費の増加なしに財政収入アップ!

 いいことづくし!

 ……と、まあ、そういう理不尽があったとしても、文句が言いにくい……それだけ国家権力が強力になっている状態で、徴収が可能になる方法です。


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