STEP2 【物品にかける税・専売制】

 専売制は、物品にかける税の最初のステップだと言っていいでしょう。専『売』の名称ですが、貨幣での売買に限定しません。交換や贈与を含みます。

 贈与の場合は国の持ち出しとなるわけですが、「忠誠心」等の無形のものを購入していると考えられます。

 また『専』売となっていますが、ある場所に複数のルートでその物が流入しているような場合、国家が『専ら』その物を売れるとは限りません。

 さらに言えば、たとえば現代日本の塩が専売されていたような(平成9年廃止)、『国家がその品質と供給を保証』するような制度でもありません。

 「専売制」と書いていますが、現在の専売制よりはもっとゆるい(ゆるくせざるをえない)ものだったと思われます。

 その国にいくつか点在する生産地の全部、または一部を占領し、そこで生産されるものを独占的に使用、販売する、というもので、生産方法や販売方法は、既存の制度をそのまま利用します。(地元の労働者に加え、外部から労働者を集めて生産地に派遣し、生産量を上げることは可能な場合があります)


 その利点としては

①貨幣制度が浸透していない国家でも導入できる。

②ある物品を独占的に取り扱うことで、国家の威信を国民に誇示できる。

③国家にその実力があれば、価格統制を行える。

(生産地の大半を押さえ、小売価格を監視する必要がある。価格は、税率を上げて高値安定にしようとすると密売業者が増加し、低値安定は監視が行き届かないと転売によって中間搾取が発生する)


 その欠点としては

①その物品を独占的に扱うためには、生産地が限定的である必要がある。

②安定供給の責任が発生する。(もちろん、さまざまな事情で上手く行かないのがつねである)

ということが挙げられます。

 この仕組みを導入する利点を考えてみましょう。

 まず第一には、利潤込の価格で業者に卸すことによって、国家は確実な税収を上げられます。ただし、品物を全国に行き渡らせるには、国内の安定が不可欠です。

 次に、「現時点では内乱が発生しているような国」での、この制度の別の使い方を検討してみましょう。

 

 たとえばある地域で、武力等、総合的には優勢であるものの、絶対的な優位を確立していない勢力があると仮定します。(勢力Aとします)

 Aの絶対優位な支配地域に対する課税方法としては、当然、地租や賦役が考えられますが、つねに反抗勢力の脅威にさらされている相対優位な支配地域では地租や賦役の徴収は難しいのが正直なところでしょう。


 ここで、人間の生命維持に必須で、生産地が限定されている「物」の生産拠点を占領し、Aのみがその「物」を販売(あるいは物々交換・もしくは下賜)できるようにすると、どうなるでしょうか?

 その「物」を手に入れるためにはAに服従せねばなりませんから、Aの安定した支配地域は広がっていくと考えられます。

 Aの持つ「物」が欲しい非支配地域の住民が寝返って、Aに加勢してくれることも期待できます。

 しかし、そんな都合のよい「物」があるのでしょうか?


 じつはあります。

 「塩」です。(ほかに「鉄」も候補に挙げられます)


 実際の運用について、まず、供給面から考えます。

 塩の生産地は、海岸沿いか、岩塩が採掘できる地域に限られます。(ほかにも塩湖のように特殊な環境下で塩が採取できる場所があります)

 海岸線は細く長いですが、大規模に塩を生産するためには塩田が作れるような遠浅の海、広い砂浜が必要です。

 海水が採取できる場所なら塩田以外の他の方法でも塩は生産できますが、大量に生産するには向いていません。

 生産地が限定されていると言うことは、そこに軍隊を集中的に投入して支配権を確立しやすいと考えられます。もちろん、対抗勢力も同じことを考えますから、ここは踏ん張りどころです。

 人類は、絶対に塩を摂取しなければならず、塩を手に入れるのが困難な地域では、「家畜の血液を摂取する」「塩分を多く含む土や水を効率的に利用する」など、生命維持に必要な分だけの塩を手に入れる方法を、生活の知恵としてあみだしてきました。しかし「塩の生産」としては微量であるため、ここでは考慮しません。


 次に、需要面を考えてみます。

 我々現代人にとっては、スーパーに行けば塩はいくらでも売ってますので、あまり意識しませんが、内陸に入れば入るほど、塩は手に入れにくくなります。(ただし岩塩がある地域は別。余談ですが岩塩の生産地は日本には存在しません)

 作物の育成は、塩害等のため海沿いは不利。

 また、岩塩が存在する地域の近隣は、地盤の関係で塩害が多発する地域でもあります。

 つまり、作物の育成に適した土壌を持つ農村部は基本的に塩を自給できないと考えられます。

 都市は流通面から大河沿いか海岸線の近くに立地することが多く、そういう意味では塩の供給地に隣接していますが、人口の多さがネックになり、結局、外部から塩を大量に運んでくる必要があります。

 すなわち、「塩」は生命維持に必要不可欠な「物」であり、かつ供給地と需要地が離れている。

 その不均衡を利用しない手はありません。

 そう、おおくの国の支配者はここに目を付け、「我こそがこの国の主宰者である」ことをあまねく知らしめるために塩の供給源を確保したのです。


 さて、供給源を占領したとして、販売はどうすれば良いのでしょうか?

 古くからある「塩の道」を使います。

 「国」などという制度ができ、支配者がその頂点におさまる以前から、貨幣などというものが存在しない時代から、塩の道は存在しています。もちろん、そこを往来する商人も。

 また、塩の道は塩と交換する物の道でもあります。

 塩田は、あらゆる物資の集積地点であり、かつ海に近いため、海上交易の拠点となりうる場所なのです。

(ただし塩田に適した場所は遠浅であるため、港に適した水深の深い場所は、塩田から多少は離れた場所になるでしょう)

 勢力Aは、安全な地域へは、自分たちの支配領域で生産した塩を商人に売却し、これまでどおりに販売して貰い、内乱が起こっている地域へは、軍隊などに守らせて塩を供給することになります。

 塩をはじめ、塩田に集積する食糧を握れば、叛乱鎮圧のための軍隊の派遣は楽になります。

 それとは別に叛乱勢力が山奥に潜んでいる場合でも、塩の道をたどってゆくことでその根拠地を見つけることができる可能性があります。叛乱勢力もまた、塩を必要としているからです。

 もちろん、最終的に叛乱勢力を押さえ込む決定打は、戦闘に勝利することですが、叛乱勢力の塩道を断ち、現地住民を支持者に取り込むことを目的とした、搦め手の作戦もまた、重要なのです。

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