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音論が来る前に僕は風呂を済ませてあるので、ひとまず音論を風呂に入れてから、僕は姉さんの部屋を物色している。はなはだ不本意ではあるが、姉さんの下着ストックでもあれば、音論の着替えになるんじゃないか、と。
そう思って姉さんの部屋を物色しているが、しかし普通の下着ストックは見当たらない。
「まあ、見つかってもサイズが微妙か……」
女性の下着サイズって、本当に男からしたら意味わかんねえもんな……太ももは音論の方が太いことはわかるけれど、ウエストで判断するならいけると思ったけれども、そもそも見当たらないからこの考えはボツである。
仮に下があっても、上もあるからなあ、女子って。
「ん……これなら」
これなら——そう思って手に取ったものは、スクール水着。
普通の姉が、新品のスクール水着を保存していたらドン引きするが、僕の姉は特殊なのでむしろ、ない方がおかしい。
少し小さい気もするが、伸ばしてみたら伸縮性が結構あるので、こういうモノだと確信した僕はこれなら上下まとめて問題が解決する——と、手に取った。
「いや……これを着替えって渡す勇気」
着替え用意したぞ、ほらスク水——って渡す勇気。
ねえよ。そんな着替えを渡して、『なにもしない』とか完全に嘘にしか聞こえないだろ。
「てかスク水があるなら普通の水着もあれよ」
なんでねえんだよ。普通の水着がなぜない!?
ちなみにスク水以外にも普通じゃない水着ならあった。隠すべき部分にご丁寧に穴がある水着。このデザインではどこのプールも海の出禁になるであろう、普通じゃない水着ならあったが、それこそ渡す勇気もなければ、装備する意味がそもそもないので、却下である。
「どうするかなあ」
買いに行くにしても、雨風が凄いから行けなくはないが行きたくない。音論を先に風呂に案内してしまったので、僕一人で買う勇気もないし。
つまり結局、スク水しか手段がないのだ。
「もう音論に選んでもらうしかねえな」
たくさん種類を提示して、どれが良い? って選んでもらおう。
だから絶対選ばれないだろう穴あき水着とスク水と数珠みたいなパンツを持って、僕はリビングで待機した。
テーブルの上に持ってきたモノを並べる。
「超変態じゃん僕」
右から、スク水、穴あき、ローション、数珠パン。
それを並べて腰を下ろす僕。どこからどう見ても超変態じゃん僕。
そしてこれのどれかを、上着を貸すとはいえ着衣させるという僕の精神力が試されているぜ。
「乾燥機があれば良かったんだが……」
ないんだよなあ乾燥機。今度姉さんにおねだりしておこう。
まあ一晩我慢してもらえば乾くだろう。夏だし。
果たして我慢するのは僕か音論か——と。そんなことを考えていると、バスルームから音論の声が聞こえた。
「は、葉集くーん、お着替えがない、どうしよう……?」
と、その声を聞いた僕は、変態グッズを持ってバスルームに向かう。
「開けて大丈夫か?」
ノックしてから、そう尋ねる。いきなり開けることはしない、さすが僕だ。
「うん、大丈夫」
声を聞いてから、僕はドアを開く。
そこにはバスタオルを巻いた音論が立っていた。
「おっふ」
思わず後ずさりしてしまった。おっふと言ってしまった。
破壊力があり過ぎた! なんだこの攻撃力!?
濡れ髪、バスタオル一枚。これを防げる装備は、完璧な目隠しくらいのもので、僕がダメージを受けるのも致し方ない。
「おっふ?」
「おっ、風呂上がったんだな、って言おうとしたんだよ。つまづいて言葉が中断されてしまったんだ」
嘘である。完全におっふはおっふで完結した言葉だった。
こんなにスラスラフォローができてしまうとは。
ふふ、僕も成長しているぜ。
「とりあえず下着の着替えを探してみたんだけど、これしかなかった……」
でも目のやり場には困るので、視線を下に向けて僕は言った。
「こ、これは……す、すさまじいね」
下を向いている僕に近づく音論。生足が僕の目に入る。
生足の破壊力もやべえ。部分的に視界に入ることで、豊かな想像力が僕を追い詰めて来やがる。
とは言え、僕に防ぐことはできないので、ここは逆にせっかくだから生足を堪能することにした。なーに、受け入れてしまえばどうってことない。
むちむちしていようが関係ない。
「この中だと、これかなあ……」
そう言ってスク水を手に取った音論。無心の僕がふと顔を上げると、スク水をバスタオルの上から合わせている。
「じ、じゃあ僕は退室するよ」
「あ、うん、本当ありがとう」
退室した。あー心臓に悪い。
※※※
受け取ったスクール水着を着用しながら、音論は小さく呟いた。
「これ、ちょっとサイズきつい」
それは決して、音論の身体が悪いのではなく、そもそも渡されたスクール水着自体が小さいのだ。
葉集の姉、葉恋がスクール水着を保存していたのは、あくまで参考資料として、である。
つまり、サイズは小さめ——もっと言えばそのスク水は小学生高学年くらいのサイズであり、高校生の音論が着用するには伸縮性があったとしても、無理があるのだ。葉集の計算が悪かったとも言えるが、一般的な男子高校生にスク水のジャストサイズを見極めることは不可能と言っても過言ではなく、葉集が悪いとも言えないだろう。
「ど、どうしよう……肩に届かない……」
伸縮性の限界により、肩まで届かない緊急事態が発生した。これ以上伸ばせば、スク水が破けてしまうかもしれない。たとえ破けなくとも、食い込みが強く身体も圧迫されて苦しい。とても着用して寝るのは、困難だと言えよう。
バスルームにある服は、スク水と葉集から事前に用意してもらったティーシャツと半ズボンジャージ。着ていた服は既に洗濯機の中でぐるぐるしている。
ティーシャツは葉集の私物であり、半ズボンジャージは姉葉恋の私服である。
葉集がティーシャツだけ自分の私服を渡したのは、姉のティーシャツはぴちぴちしたティーシャツしかなかったので、サイズを考慮した結果そうなったのだが、そのような事情を知らない音論は、そのティーシャツが思いのほか嬉しかった。
抱きしめるようにティーシャツの匂いを嗅ぐ。
「えへへ」
無自覚無意識に溢れる笑み。
そのティーシャツを、スク水を脱ぎ直接着る。
「バレ……ない。よね?」
少し猫背になり、鏡の前に立つ。胸を張ればスク水を着用していないことはバレバレだが、猫背になれば凝視されない限り、バレることはない——と判断した音論は、そのまま半ズボンジャージを穿いた。
「……よし、きっと平気平気」
ふう——と。深呼吸をして、スク水を畳んでこっそり葉恋の部屋に戻してから音論はバスルームを出て、リビングに向かった。
バレませんように——と。ドキドキしながらゆっくり歩き、同時にこうも思っていた。
バレたらバレたで——と。初のお泊まりで少し大胆な思考になった音論は、この数時間後、動物的な本能を見せるのだが、それはまだ数時間後のはなしである。
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