7


 書いている最中は平気なのに、どうして書き上げたあとに疲労はどっぷりとのしかかってくるのだろう。


 で、いつも自室の机で寝落ちする。


 で、いつも起きると背中とか痛い。


「痛いくせにめっちゃ寝てるんだよな……」


 スマホで時間を確認。お昼過ぎの二時。寝たの何時だか覚えていないけど、感覚的にめっちゃ寝た気がする。


 机で寝て、机で目覚めた僕は、スリープ画面になっている暗いパソコン画面に映った自分の顔を見る。本当に昨日美容院行ったのか、ってくらい髪ぐしゃぐしゃだぜ。


「とりあえず顔面を洗うか……」


 洗顔のことを顔面を洗うと言ってしまうくらいに、ぼけー、っとしているが、今日の予定は頭に入っている。


 洗った顔を拭きながら、呟き確認しておこう。


「今日は……仮歌やって……夜は生配信か」


 僕的には夕方くらいに生配信をしたいけれど、でもあまり早すぎると視聴者も集まらないだろうし、音論のバイトもあるし、夜七時半に生配信だ。


 仮歌制作はボカロ使うからすぐ終わるし、僕は生配信で何を喋るかを考えておくか。


 部屋に戻ると、いつもの部屋なのにいつもと違うモノが置いてあるのを思い出す。


「ギター……カッケェな」


 やっぱギターって格好良いよな。男子が好きなモノの定番と言っても過言ではあるまい。


 男子は好きだからな、デカい剣を持った少女とデカい銃を持った少女とギターは男子の大好物である。


 僕ももちろん男子なので、デカい剣を持った少女もデカい銃を持った少女もギターも大好きだ。少女が好きってわけじゃないぞ。念のため。


「生配信でギターやってみるかなあ」


 というかやりたい。ギターを弾きたい。


 ギターって、あると弾きたくなるんだよなあ。不思議。


「僕のギターか……ふふ」


 自分のギター。それがすごく嬉しくて、オマケで貰った楽器用のクロスで綺麗にしてしまうぜ。


「かわいいギターめ! このう、にくいやつめ」


「気持ち悪いくらい大事にしてくれてるじゃん」


「急に現れるなよ姉さん!」


 ノックしろよ! ノックしてよお願いだから!


「ドア開けっぱにしとくあんたが悪い。まああたしとしては、そうやって大切にしてくれると嬉しいけどねえ」


「うっ……」


 恥ずい。この恥ずかしさはなんて表現したら良いんだろうか。


「そ、そうか……普段クールな委員長が野良猫を可愛がっているところを同級生に見られて照れる気持ちって、こんな感じなんだろうな……」


「解釈の仕方がズレてんなあ。さすがあたしの弟だよ」


「もっと違うところで僕にさすが、って言ってくれよ」


 僕もだけど、姉さんも寝起きだなたぶん。


 パンイチぴちティーは、いつもの姿だけれど、寝癖すげえもん。デスメタルバンドみたいな寝癖してやがる。


「で……なんか用事か? 姉さん」


「仮歌聴きたいなー、って」


「まだできてねえよ」


「えー、そのために早起きしたのに」


「早くはねえよ」


「作家の午後二時なんて朝でしょ」


「夏休みの僕が言えた口じゃないけど、姉さんの生活リズムって終わってるよな」


「じゃあ、朝ごはん」


「朝じゃねえけど、わかったよ。なに食いたい?」


「ポテサラ。明太子のポテサラがいい」


「材料ねえじゃん。買って来ないと」


「じゃがいもならあるよ。北海道のお爺ちゃんお婆ちゃんが送ってきてくれたから」


「マジで? いつ?」


「さっき。あんたが起きるちょい前かな?」


「なあ……その格好で宅配受け取ったの……?」


「そんなまさか。あたしだってきちんと下を穿いてから出たに決まってんじゃんよ」


「じゃあ脱ぐなよ」


「弟にサービスしてあげてんじゃん。感謝しろよー」


「姉の下着はサービスにならないんだよ」


「とりまポテサラ待ちだよあたし」


「わかったよ。着替えて明太子買ってくるから……ああいや、じゃがいも茹でてから出るか。姉さん、火加減だけは注意しておいてくれ」


「あいよー」


 よし、では着替えてじゃがいも茹で始めて、明太子買ってくるか。


 ということで、明太子を買ってきた。コンビニで買えたので、五分以内に戻ってきたからじゃがいももまだ茹でが足りない。


「今のうちに仮歌やっちゃうか」


 キッチンにノートパソコンを持ち込み、火加減に注意をしながら仮歌の制作に取り掛かる。


 と言っても、歌詞をコピペして、音程を調整するだけなので、そんなに時間はかからない。


 じゃがいもが茹で上がる頃には、仮歌の制作は終わったので、じゃがいもの皮を剥く作業に移る。


 茹でたじゃがいもの皮は、火傷しないように流水を当てながら指で剥けるから楽だ。


「あとは、ボールに移して……」


 マッシャーで潰す。一緒に茹でておいたニンジンもピーラーで皮剥いて切って、薄切りにしたキュウリ、あと冷蔵庫に残ってた魚肉ソーセージをカットして、マヨネーズとあえる。


「明太子の皮をとってさらに混ぜれば」


 よし完成。我ながらいい仕事をした。グレートジョブ僕。


 オボンにポテサラを載せて、コンビニで買ってきた食パンを袋ごと持ち、リビングへ。ちなみに明太子の皮とニンジンの皮は、もったいない精神でその場で食った。


「ほら、これでいいんだろ」


「おお、わかってるなあ! 食パンって言ってなかったのによくわかってくれた!」


「明太子ポテサラはサンドイッチにするからな、我が家」


「そしてそのサンドイッチにひと工夫したかったんだよ」


「ひと工夫?」


「ジャーン! ホットサンドメーカー!」


「おお、姉さん、グレートジョブ!」


「だろだろーう。あんたのも挟んであげるよ」


「ありがとう」


 しばらく待つこと数分。


「あいよ」


「おお、ホットサンドだ」


 ホットサンドうめえ。ホットサンドうんめえ。


「ホットサンドすげえな!」


「ね! 超うまいじゃん!」


「これチーズ入れてもよかったかもなあ……くそう」


「あんた……その発想はもっと早く閃いてよ」


「チーズねえし、次だな」


「良いハムとチーズポチっちゃう?」


「最高だなそれ!」


 じゃあそのハムに合うパンを調達しないと。


「ならパンは音論のバイト先に買いに行くかな」


「そういや今日、夜来るんだっけ?」


「うん、生配信するし」


「今夜あたし、サークルメンバーと呑み明かすことになってて帰らないから、音論ちゃんのことちゃんと送ってあげるんだよ」


「わかった。あんまし呑み過ぎるなよ」


「それはあたしに聞いてもわからん」


「じゃあ誰に聞くんだよ」


「酒に聞けい!」


「決め台詞みたいに言われても響かない言葉ランキングの上位だなそれ」


 しょうもないこと言いやがって。どうせ呑み過ぎて帰ってくるから、しじみの味噌汁でも準備しておくか。


「あ、そうだ姉さん。仮歌できたぞ」


「お、マジかー。んじゃ食べたら聴く」


「キッチンにノートパソコンあるから、セルフでな」


「あいよー」


 返事した姉さんは、ホットサンドを平らげてキッチンへ向かった。


 僕はのんびりとコーヒーでも飲むか。夜までは暇だし。

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