閑話2 後日談

「エリクスさん! 見て! あなたが持ってきてくれた素材でこれを作ったの!」

 後日、イリナさんを訪ねると、アリスさんとイリナさんが自慢げな顔でこちらを見てきました。


 今回の調査で大量に手に入った魔獣素材、コートスパイダーシルクは、一部が家来衆に分配されることになりました。服飾担当のイリナさんが喜んで、それを使ったレースを編んだのです。

「うわあ・・・・・・すごく、繊細で綺麗ですね。これを身につけた花嫁さんを迎えられる人は、幸せ者ですね」

 イリナさんがフィルミーさんと良い空気になっていることは、家来衆の間では周知の事実でした。


「も、もう! これは、奥方様に差し上げようと思って作ったの!」

 上品に透けるレースの長肘手袋は、アクセントとして編み込まれた模様と相まって芸術品のような仕上がりになっていました。素材がコートスパイダーシルクなので、魔術師の使う呪物としても一級品です。


 奥方様なら、きっとフィルミーさんとイリナさんの結婚式に、何か借りたものサムシングフォーとして貸してくれるでしょう。


「あと、あなたに頼まれていた分も終わらせておいたわ。これね」

 そう言って、小さな布を複数枚、渡されました。

 薄い布に、ごく一般的な魔術シンボルを縫い込んだ増幅器。

 しかし実体は、人の目では目視できないほど細いクイーンコートスパイダーの糸を縫い込んで作られた、護呪符に組み込むための安全装置です。イリナさんの技術がなければ、決して作れなかったでしょう。


「ありがとうございます。これで自分の研究も進みます」

「お役に立てたなら良かったわ」

 ご機嫌なイリナさんにお礼を言って、研究に使っている部屋へと戻りました。


 あの後、疫病予防の観点から森で倒れていた魔獣は全て焼却処分され、一時的に浅層に平穏が訪れていました。自分も隙を見て騎士団の方々と森に入り、植物由来の素材や鉱石を採取したり、魔力溜まりを見回ったりしていましたが、小型の魔獣が復活の兆しを見せ始めており、もはや次の段階へと進むときが来たようです。

「さあ、素材は十分だ。研究を一気に進めよう」

 自分の、戦場が始まります。


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木曜日に更新の予定でしたが、公開を早めました。申し訳ありません。

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家臣に恵まれた転生貴族の幸せな日常。/休日の出来事 日和 @hiyorin-0018

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