閑話2-3
オーガウルフが襲撃してきました。
脅威度Dで、浅層でよく見かける魔獣です。出てきたのが1匹だけだったので、クーデルさんが余裕を持って相手をしています。
すると別の茂みの方からオーガウルフがもう一匹現れ、こちらのほうに。
「・・・・・・向かってこない?」
現れたオーガウルフは、クーデルさんと戦う同族をスルーしてそのまま逃げていこうとしました。もちろんそんな無防備なところを放って置かれるはずもなく、オドルスキさんが追いすがって一刀両断にしたのですが。
「まるで、なにかから逃げているようでしたな」
血刀を振り払いながら、オドルスキさんが言います。オーガウルフが来た方向にあるのは、地図を見るまでもなく、次の目的地である魔力溜まりです。
なにかが起こっているという不安が、澱のようにまとわりつきます。その感覚は、オーガウルフを倒し、解体をすませたクーデルさんが帰ってきてもなくなりませんでした。
「このオーガウルフ、痩せているだけでなく生命石が小さすぎる気がする。エリクスさん、どう思う?」
「難しいですね。さっきのスプリンタージャッカルのように、食糧が不足していたから痩せた、というなら分かるのですが、生命石そのものに影響を与えるとなると」
生命石は、魔獣がそれまでに蓄えた生命力が凝縮したものとされています。様々な用途に用いられる需要の高いものなのですが、利用法にばかり重点が置かれ、生命石とはなにか、なぜ魔獣の体内に生成するのかといった基礎研究はどうしても後回しにされがちです。
魔獣の心臓付近には生命石が存在する。それは事実です。ですが逆に、「生命石が存在したから、これは魔獣だ」と判断してよい、その根拠を、私は知らないのです。
「───魔獣の生命力が、失われている? それを補おうとして、生命石が力を放出しているとか。でも、そんなことが可能なのだろうか」
魔獣についての通説では、生命石の大小は概ね脅威度に比例するとされています。オーレナングにきてからの経験では、さらに個体差がありますが、同じ魔獣からは、同じ様な大きさの生命石が取れることが多かったと記憶しています。今倒した個体は、確かに痩せていましたが、それなら最初に倒したスプリンタージャッカルも同様のはずです。
歩きながらまとまりなく考えていると、
「あの、エリクス様。差し出がましいようですが、気になる点があるのです」
荷物を運んでいる騎士団の方が、遠慮がちに声をかけてきました。
「なんでも言ってください。なにが解決の糸口になるか、分からないのですから」
その方の話を聞くと、解体した2匹のオーガウルフの毛皮が、いつもよりひどく土で汚れていたというのです。
オーガウルフに限らないのですが、動物は身体が汚れたままでいることを嫌います。水浴びをしたり、木にこすりつけたり、あるいは毛繕いをして身体を綺麗に保とうとします。特にウルフ種のような集団を形成する動物では、互いに毛繕いをすることで序列や連帯の確認を取ったりするため、汚れたまま放置し、さらに襲撃まで行うというのは確かに不自然に思います。
「群れを形成できないはぐれだった可能性はあるわね。でもそうだとすると、逆に2匹が同じ場所にいるものなのかしら」
今度は、ウルフ種の縄張り意識が問題となります。同じ場所に同じ獲物を狙う魔物が複数いると、獲物の取り合いとなるため、縄張り争いが起きてどちらかが追い出されます。それは同種族であっても例外ではありません。群れの縄張りにはぐれが侵入してくると、通常なら追い立てられ、殺されてしまう場合もあります。たとえはぐれ同士でも、つがいになるのでもなければ、やはり一方がもう一方を追い出してしまうのです。
「いや、そもそももっと大きな問題があるだろう」
歩きながらの思索を中断させるように、オドルスキさんが声をかけてきました。
「ここが浅層で、氾濫の後だという事実を差し引いても、魔獣が少なすぎる。ここまで森を歩いてきたのに、出会った魔物はたったの6体。しかもどちらも、本来ならもっと大きな群れで行動しているはずの種なのだ」
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次の更新は来週の木曜日になります。
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