三
悪役令嬢 (かもしれない) 友だちによる、緊急女子会開催です!
何事かとお思いでしょうが、ベアトリーチェ様によりスカーレット様、マリレーナ様、ヴィオラ様に召集がかかり(クラリーチェ様はお時間が合えばいらしてくださるそうです)、議題の中心は、わたくし。
結局、隠し事のヘタなわたくしは、カタチにもならないふわふわと言うかモヤモヤというか、新たなる出会いで感じた動揺を見事にベアトリーチェ様に見抜かれ、最初から終わりまで、すべてのことを打ち明けるしかなくなったのです。
新しい恋、というには不確かな、けれど見ないフリをするにはあまりに明らかな心の変化を言葉にすると、フォーリア様に感じたものはやはり不誠実な気の迷い、という思いが大きくなったのですけれど、お姉さまは、結論を急ぐ必要はないとおっしゃってくださり、一緒に悩みましょうと励ましてくださいました。
そして本日。
巫女様の降臨によりしばらく王城でのお茶会がお休みになっていたのを、ベアトリーチェ様主催で学園の温室に連なるテラスを貸し切って再開してくださったのです。
もちろん王子殿下たち抜きの女子会ですが、あちらはあちらで王族用サロンで今も星探索の相談をなさっていらっしゃるはず。
星の災厄阻止のため懸命に動かれている皆さまの傍らで、わたくしの個人的なことのためにお茶会を開く、ということに少しの後ろめたさを感じないではないのですけれど、わたくしはいつの間にか部外者にされてしまっておりましたし、何ができるということもありませんので、お姉さまの心遣いをありがたく受け取ろうと思います。
…………が。
「は?聖国の使節の、しかも従者ですって?」
ベアトリーチェお姉さまによって本日の議題が明かされると、スカーレット様の眉間に思いきり皺が寄りました。
(そうですわね、そうなりますわよね!)
毎日不機嫌まったなしのスカーレット様には、少し刺激の強い話題でございます。
「お話になりませんわ」
けんもほろろとはこのこと。
スカーレット様は絶賛いろいろと拗らせてしまっているので、エンディミオン殿下に想いを寄せつつも、エンディミオン殿下がわたくし以外と結ばれることを許しませんし、逆もまた然りなところがあって、安易にこの話題に触れることはしばらく控えておりました。
(わたくしがスカーレット様とエンディミオン殿下の仲を応援するといってもお怒りになるし、かと言って進んでエンディミオン殿下と親しくなろうとすれば拗ねてしまうのは目に見えておりますし、どうしろとおっしゃるの)
そんな状態のスカーレット様に新たな恋の予感を示唆したところで、あっさり却下されることは目に見えておりました。
「スカーレット様、まぁお聞きしましょうよ。
ようやくルクレツィア様の心を少し動かす方がいらっしゃったのですから」
マリレーナ様は興味津々のようで、艶やかで小さな唇はにっこりと微笑み、テーブルの上に身を乗り出して両手で頬杖をついている様子は、とても魅力的な小悪魔そのものです。
「どうして貴女はそううれしそうでいらっしゃるのかしら」
「その方に出会ったのが先日のペイシ家での夜会というのですもの。
もしかしてわたくし、その瞬間に立ち会っていたのかしら?」
もちろんその直後にいらっしゃったのですから立ち合ったといっても過言ではないかもしれませんが、夜会にはグラーノ様にお仕えしているフォーリア様以外にも、聖国の使節団に従ってきた方がたくさんいらっしゃいましたから、あの時がそうとは、すぐには結びつかないのかもしれません。
いまだヘソを曲げているスカーレット様とは正反対に、マリレーナ様のいたずらに潤んだ瞳が話の続きを促します。
「バルコニーで、オリオン殿下とグラーノ様に従ってらっしゃった、……その、少しだけレオナルド様に似てらっしゃる方がおりましたでしょう?」
ベアトリーチェ様にお心遣いいただき、皆さん集まっていただいたところではぐらかしても仕方ありませんから、マリレーナ様に詰められるままわたくしは正直にお話ししました。
レオナルド様のお名前を出すのに少し言い淀んでしまいましたけれど、その名前にスカーレット様もようやく納得の顔をされました。
「グラーノ様の従者でいらっしゃったのね!
……あまり印象にないのですけれど、それほどリオーネ伯爵様に似ておりましたかしら?」
マリレーナ様はあの時のことを思い出したようですけれど、基本的に従者は付属品として見られる傾向がありますから、マリレーナ様が注視していなくても仕方がありません。
「リオーネ伯爵に似ていらっしゃる方がおりましたら、少しくらい話題になりそうなものですけれど」
スカーレット様はアフタヌーンティースタンドからカヌレをひとつとると、聞いて差し上げなくもない、というお顔で私見を述べてくださいました。
使節団の歓待の催しは、ペイシ家やスコルピオーネ家、ヴィジネー家などの聖国や諸外国と繋がりの多い家でもそれぞれ開かれております。
グラーノ様とフォーリア様と出会ったのもその一環ですけれど、さすがにお父さまもわたくしがお友だちに誘われた夜会へ行くのまではお止めになりませんでしたわね。
王家での式典には十二貴族の一員として参加し、そして各家で開かれている夜会にもスカーレット様は参加することが多かったはずですが、フォーリア様──レオナルド様に似た容姿の方に覚えはないようです。
ペイシ家での夜会はアリエーテ家の都合が合わず欠席していらっしゃいましけれど、グラーノ様は使節団の代表ですから、どこの催しにも招待されているはずで、その側にいつも控えているフォーリア様が目立たないのは少し不思議な感じがいたします。
「似ているといっても、雰囲気だけですから……」
顔立ちが似ているということではない、と説明しても、マリレーナ様にもスカーレット様にもうまく伝わらず、お二人は首を傾げてしまいました。
「……あの、
主張の強い二人の口が閉じた隙を見計らうように、ヴィオラ様が控えめな声で仰いました。
「ヴィオラ様は、ペイシ家の夜会にはいらっしゃいませんでしたわよね?」
ベアトリーチェ様が確認するとヴィオラ様は頷き、ビランチャ家の夜会でお見かけしたと、思い出すようにお話しになられました。
「夜会というよりは会議のような雰囲気でしたから、伯爵家はリオーネ家とトーロ家のみで、あとは侯爵家以上、サジッタリオ家を中心に武門が多かったように思います」
普段は引っ込み思案のヴィオラ様ですが、昔から読書が大好きで、シルヴィオ様に憧れはじめてからは少しだけその聡明な部分が表に出るようになってきました。
周囲をよく観察しているところなどは、シルヴィオ様を見習ってのことのような気がいたしますけれど。
「まあ、武家の皆さまだけで悪だくみなどされていなければ良いのですけれど」
マリレーナ様が冗談のように仰いますが、悪だくみなどとんでもなく、おそらく星の災厄について万が一の時の対応など、聖国の方も交えての軽い折衝が行われていたのではないでしょうか。
「今のは我がサジッタリオ家だけでなくビランチャ家にも無礼な発言ですから、撤回を求めすわ、マリレーナ様」
マリレーナ様の毒をすかさず制するのはやはりクラリーチェ様、ちょうどよく温室を抜けて、お茶会のテラスに颯爽と姿を見せてくださいました。
近衛の騎士服のまま現れたクラリーチェ様に思わず見惚れていると、マリレーナ様がパッと姿勢を正して、臨戦態勢に入りました。
「まあ、サジッタリオ近衛騎士隊長様、ごきげんよう。
毎日フェリックス様に会うお時間もないとお聞きしているくらいお忙しくていらっしゃるのに、ルクレツィア様のためにはお時間が取れましたのね」
最近クラリーチェ様とお顔を合わせる機会がめっきりと減り、どこかつまらなさそうにその舌鋒も鳴りを潜めていたのが、心なしかうれしそうにイキイキとマリレーナ様はクラリーチェ様をお迎えしております。
「ごきげんよう、マリレーナ様。
そうですね、先日サジッタリオ領で星の探索をお手伝いして以来、フェリックス様にはお会いしておりませんわ。
彼も国の大事にお忙しいでしょうから、どうかマリレーナ様も、学園にいる間などとくに労って差し上げてくださいね」
爪を立てた子猫があっさりいなされるようでございました。
クラリーチェ様は以前のように対抗心をむき出しにすることはなく、マリレーナ様の言葉を素直に受け止められて、さらにはマリレーナ様に助言のような、それも結果的にはフェリックス様のためになることではありますけれど、そんな言葉を穏やかに返されました。
(これが成人女性の大人の余裕でしょうか……)
先日フェリックス様にお姫様抱っこされて赤面されていたのがウソのように、第一王女付き近衛騎士隊長の名に相応しい落ち着きようです。
マリレーナ様はクラリーチェ様の態度に鼻白んだようなお顔を見せましたが、何か言い返す前にクラリーチェ様の後に付いてきた人物の声が響いて、遮られてしまいました。
「温室ってはじめて来ましたけど、すっごく広いんですね!クラリーチェさんに置いていかれたら迷子になって二度と出られないかも!」
キャッキャっと楽しそうなこのお声は間違いなく。
「セーラ様?」
キョロキョロとはじめて入ったらしい温室を眺めながらクラリーチェ様に付いてきていたようで、追いついた!とその背中からテラスに顔を覗かせたのは、星の巫女セーラ様でございます。
「ティアちゃん!
みなさんも、えっーと、ごきげんよう?」
慣れないながらもスカートの裾を摘んでご令嬢の真似事をされるセーラ様は、さすがに可憐なヒロインでございますわね。
「まあ、お上手ですわ」
わたくしは顔を綻ばせて小さく拍手をいたしまたが、正反対に、今にも舌打ちでも聞こえてきそうな、これ以上ない不機嫌顔になったのはスカーレット様です。
「ごきげんよう、巫女様。
どうしてクラリーチェ様とご一緒に?」
いちばん先に空気を読んだのはマリレーナ様です。
スカーレット様とセーラ様の間に入り、貴族令嬢らしからぬそっぽの向き方をしているスカーレット様をセーラ様の視界から隠しました。
「
「そう!
ティアちゃんを探してたら、クラリーチェさんと会って、なんで学園にいるんだろうって思ったらティアちゃんとお茶会するって言うから」
「ぜひご一緒に、と」
どうやらサジッタリオ領で親睦を深めたようで、セーラ様とクラリーチェ様はとても親しげです。
その様子に今度はなぜかマリレーナ様のご機嫌が急降下した気配が伝わってきました。なぜですの。
「セーラ様は、わたくしを探していらっしゃったのですね。何かございましたでしょうか?」
「あのね、次に星を探しに行く場所といつ行くかが決まったから、早くティアちゃんにお知らせしようと思って」
とりあえず場の空気を保たせようと今度はわたくしが前に出ると、健気なヒロイン然として、星の探索から蚊帳の外にされてしまったわたくしに心を砕いてくださっていたようです。
「公爵家にお帰りになればアンジェロ様から聞けますでしょうに、わざわざ巫女様がなさらなくても」
やはりご機嫌を損ねたらしいマリレーナ様の、上手に棘をラッピングしたイヤミが飛び出してきました。
(巫女様に!イヤミなんて!
悪役令嬢まっしぐらになってしまいますわ!)
どうして皆さま心穏やかに過ごせないものでしょうか。
波風を立てたくないわたくしを嘲笑うように、空気を悪くするのはおやめくださいませ!
「誰がお伝えしてもかまいませんでしょう?
巫女様がルクレツィア様のことを慮ってのことでございますし」
クラリーチェ様が巫女様の肩を持つ発言をすると、マリレーナ様のお顔がさらに硬くなりました。
「まあ、巫女様、お心遣い感謝いたします。
それで、今度はどちらに?」
これ以上口論にならないよう、わたくしが間に入ります。
お願いですから、皆さま、仲良く!
悪役令嬢の立場を悪くするのは、自身の行いですのよ!
「それも大事なお話なんだけど、その前に、このお茶会ってティアちゃんのためにベアトリーチェさんが開いたんでしょ?
あの、わたしが参加しても大丈夫ですか?」
何か察するところがあったのか、しおらしい様子でセーラ様はベアトリーチェ様にお伺いを立てました。
確かにクラリーチェ様に誘われたからと言って、主催のベアトリーチェ様を無視するのはマナー違反ですわね。
「えぇ、もちろんですわ、巫女様。
歓迎いたします」
同世代のご令嬢の中でいちばんの淑女であられるベアトリーチェお姉さまは、このテラスの女主人の風格でセーラ様を温かく受け入れました。
主催のベアトリーチェ様が認めれば、スカーレット様もマリレーナ様も、セーラ様の参加に文句は言えません。
(さすがですわ、リチェお姉さま)
どうぞこちらへとテーブルへ誘う所作と、さりげなく控えていた学園付きの侍女に席を用意させる手腕と、すぐにでも立派な公爵夫人になれると思いますの!
空気の悪くなったテラスを清涼な風が吹き渡ったように、お姉さまのおかげでわたくしの気持ちも穏やかに戻りました。
奇しくも、こうしてヒロインと悪役令嬢(かもしれない)メンバーが勢揃いしたのですもの、お互いにハラを割っておしゃべりすれば、きっと誰も破滅しない道が見えるはず!
そんな絶好の
さて。
前門の虎、後門の狼、とは少々異なりますが、ベアトリーチェ様の誘導にて、セーラ様はわたくしとヴィオラ様の間の席へ。
主催としてお誕生日席にいらっしゃるベアトリーチェ様を挟んで向かいにはスカーレット様、そしてマリレーナ様がお座りです。
本来、家格的にクラリーチェ様がわたくしの真向かいに座るはずが、遅参を理由にあえて末席を選ぶのがクラリーチェ様ですから、セーラ様は圧迫面接さながらに、不機嫌なマリレーナ様とあからさまにこちらを見ようとしないスカーレット様と対面することになりました。
(どんなお話をすれば皆さま打ち解けられますかしら……)
お互いに腹を割って話すなど貴族令嬢にはなかなかハードルの高いことで、前世のぼっちの記憶にはもちろんそんな経験がありませんから、気持ちとしては余計に難易度が上がっている気がいたします。
セーラ様とクラリーチェ様、それからついでに飲み干してしまったわたくしに新しい紅茶が運ばれる間、なんとなく皆さま無言。
(女子会ってもっと和やかなものではなくって……?)
気まずい空気に一人胃を痛めております。
スカーレット様とマリレーナ様はピリピリとした空気のまま、ヴィオラ様はセーラ様にまだ少し人見知り、クラリーチェ様はマリレーナ様のいつもと異なる様子に困惑して、セーラ様もそわそわと落ち着かなげ、そんな皆さまを順番に見回した後、わたくしはベアトリーチェ様にそっと視線を投げかけました。
とくに無言を意に介した様子もなく、わたくしと同じようにゆったりと全員を見渡していたお姉さまは、穏やかに微笑んだまま、最後にわたくしと目を合わせてくださいました。
わたくしを安心させるようなその雰囲気が、最近とくにお兄さまに似てきているようで、絶対の信頼を寄せてしまいます。
わたくしの期待に応えるように、ベアトリーチェお姉さまは全員のティーカップが満たされたことを確認すると、ゆっくりと口を開きました。
「では、クラリーチェ様もいらっしゃいましたし、特別なお客さまもお迎えいたしましたから、あらためまして、皆さまと素敵な時間が過ごせますよう、お茶会を再開いたしましょう」
それぞれがまったくちぐはぐな気持ちでいるのを、柔らかな水流でひとつにまとめるように、お姉さまの声がゆったりとお茶会のテーブルに行き渡りました。
ベアトリーチェ様のお茶会を台無しにしてしまうような態度をとるべきではないという空気がそれとなく広がり、スカーレット様の顔がまず真正面を向きました。
高飛車なお顔立ちは生まれつきですから、挑むような睨むような表情でセーラ様を見てしまうのはご愛嬌ですわね。
お顔を正面から合わせられただけでも、まずは第一歩です。
(やはりまずはセーラ様とスカーレット様ですわね)
ヒロイン対悪役令嬢の構図を作っている中心と言ってもいいお二人に和解をしていただければ、シナリオ後半がかなり穏やかに進むと思いますの!
ハラハラと見守っていると、先に口を開いたのはセーラ様でした。
「わたし、あの、スカーレットちゃんに嫌われているのはなんとなくわかるんだけど、でも誤解をときたくって!」
意を決したようなセーラ様は、やはりコミュ力がカンストしているようで、あんな態度をとっているスカーレット様にも「ちゃん」呼びです。
殿下にだけ「様」の敬称を使い、年上は「さん」、同じ年と年下には「ちゃん」か「君」で無意識に使い分けているのでしょうか。
「誤解?」
一瞬、苛立たしげに片方の眉尻を器用に跳ねさせたスカーレット様ですが、ぐっとガマンをしたようで、セーラ様の言葉を反復しました。
「そう!
……あのね、わたし、ちゃんともとの世界に帰りたいんだ」
セーラ様が躊躇いがちに、それでも真剣な声音で告げた言葉は、巫女様の、切実な本音をわたくしたちに突きつけました。
「お父さんもお母さんもここにはいなくて、学校で友だちにも会えなくて、スマホでおしゃべりもできないの。
ちょっといいな、て思ってたセンパイだっていたし、ドラマの続きだって気になる。
だからね、ずっとここにはいられないの。
帰るために、エンディミオン様たちのお手伝いが必要なら、わたしがんばってみんなの世界を災厄から守るよ。
でも、それが終わったら……お家に帰りたいな」
(帰りたい……そうですわよね……)
異世界から、わたくしたちの世界の災厄を止めるために召喚された巫女様。
まったく見ず知らずの、家族も友だちもいない世界に突然連れてこられれば、きっと誰もがいちばんはじめに考えること。
目を瞑って見ないふりをしていたそのことに、セーラ様は真っ直ぐに気持ちを向けていました。
「スカーレットちゃんがわたしをキライなのは、きっとエンディミオン様といっしょにいるからだよね?
でも、星の巫女のお仕事をしないとお家に帰れないなら、わたしはスカーレットちゃんにどう思われても、今できることをしたいな。
でもわたしがエンディミオン様と恋人みたいになることを心配してキライなら、それは誤解だし、絶対にそんな風にはならないって約束できるから、わたしとも仲良くしてほしい。
せっかくぜんぜん違う世界同士で出会えたんだから、いっしょに過ごせる時間は、仲良く過ごしたいよ」
訴えるようなセーラ様に、呑まれるようにスカーレット様は瞳を揺らしております。
嘘でもなんでもなく、セーラ様が自分の世界に、家族がいて生活のあった家に帰りたい気持ちは、スカーレット様にも真っ直ぐに伝わったようです。
そんな気持ちを聞いても意固地な態度をとるようなスカーレット様ではないとは思いますが、素直に改められるかと言われればそれもまた難しいことのようで……。
「どうして……どうしてそんなことが約束できますの?」
絞り出すような声は、それでも承諾しがたいことがあると、セーラ様に向けられ、
「……エンディミオン様の、何が気に入らないと仰るの?
…………どうして、エンディミオン様ではダメなのですっ」
────そうして、わたくしに向けられている言葉でした。
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