夕陽

橙染める海辺の街

少し寂れた住宅街の塀の上

眩しそうに目を細めた三毛猫が一匹

丸く欠けた耳を掻きながら


どこにも属さない孤独な猫

子猫と呼ぶには随分大きく

誰かを待ってるようにそこから動かず

沈まぬ夕陽を飽きもせず眺めてる


昔は彼の目に映す人々が沢山居た

物珍しさに撫でて可愛がって飯にも困らず

「にゃー」と鳴けばそれだけで人気者

新聞の一面にも載ったっけ


それも今は遠く

彼を訪れる人はもう居ない

この周辺にだって猫も寄り付かない

彼がいることを知っているから


それでも彼はずっとそこを動かない

橙染める海辺の住宅街の塀の上

惜しんで別れた人を待っているから

いつか「またね」を叶える為


それが叶わぬことはきっと分かってる

だから橙を映すその瞳が潤んでいるのだ

それでもこの感情の名を彼は知らない

それを知ったらここに居られなくなるから


橙染める海辺の街

少し寂れた住宅街の名は「憧憬」

永遠に終わらない晩夏の夕暮れ

少し温いこの温度が彼は気に入っていたのだ

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