第11話 天才と凡人
「まずはこぼしたコーヒーの片付けからしてほしいな」
学校のマドンナに顎で指示を出す。
絨毯のコーヒーの染み抜きにカップの洗浄。
キヨカの制服は洗濯に出した。
まだ暗くなるまでは時間があるから帰る頃には乾くだろう。
「服まで借りてしまって申し訳ありませんでした」
正座をして謝るキヨカが泣き落としにきているが。
その程度では奮発したコーヒーとお気に入りの絨毯を失った私には効かない。
「きちんと罪は償ってもらうから大丈夫」
「何よこの体が目当てだったのね」
しおらしく顔に手を当て跪くキヨカ。
「被害者づらしないの」
「はい。すみませんでした」
潔く謝ってはいるがなんだか腑に落ちない気がする。
気にしていてもしょうがない。
元よりキヨカが何を考えているのかなんてわからないのだから。
姿勢を正し問いかける。
「それでは。まずは不法侵入の件から伺おうかな」
「話したくなって。家にいなかったから開けました」
「キヨカさんは道徳の授業を聞いていなかったのかな」
「入学以来満点以外は取ったことないです」
「勉強でできるのときちんと身に染みているのは別の話でしょう」
「テストの時だけ覚えていれば良いやと思っていたから」
考え事をするように虚空を見つめ顎に手を当てている。
深慮する姿も様になるな。
見目麗しいと得だなとしみじみと感じて悲しくなる。
「それで毎回満点か」
「教科書暗記すれば良いだけだから簡単だし」
「簡単なのか」
「授業を聞いていれば大体は覚えちゃうよね」
同意を求めるような表情に賛同したい気持ちは山々だが。
天才と同じ土俵に立てる器は私にはなさそうだ。
話をしているだけで根底から揺らぐような気がする。
白百合の狩人 齊藤 涼(saito ryo) @saitoryo
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