第8話 不法侵入
築40年の蔦に覆われた私の城。
父も母も必要ないと切り捨てたこの家は私の心の拠り所。
それなのにこの惨状は一体なんだというのだろう。
家を出るときには鍵がかかっていることを確認したはずだ。
窓もきちんと施錠していた。
それなのにどうしてこんな状況になってしまったのか。
授業を終え夕飯の買い出しをして帰宅すると室内から漏れ出る光に驚いた。
「電気を消して鍵も閉めて出たはずだよね」
不審者だろうか。
「警察呼んだほうがいいのか」
この間の台風で割れてガムテープで補修した窓から中を覗く。
ガムテープが剥がされているということもなく施錠されている。
室内にはカーテン越しでも見える人影が動いていた。
中にいる何者かに気が付かれないようにカーテンの隙間から中を覗く。
「嘘だろ」
部屋の中にはまるで我が家のようにくつろぐキヨカが見えた。
ソファに深く体を沈めてコーヒーを燻らせている。
そばに口をだらしなく開けたままの袋が見えた。
「マジかよ。あのコーヒー高いのに」
頑張ったご褒美に奮発して買ったコーヒーなのだ。
勝手に飲んだ挙句袋を開けたまま放置するなんて。
明ける楽しみを奪われただけでも悔しいのに。
酸化が進んでしまうじゃないか。
玄関まで急いで回り込み扉を乱暴に開ける。
「何してるんだ。キヨカ」
怒鳴り込むと驚いた彼女は盛大にコーヒーをぶちまけた。
息を吐き呼吸を整える。
血の気が引き倒れ込みそうになるのをどうにか堪えた。
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