第2話 独白⑴

 「11月21日。本日、北海道に雪が降った」

祖父から譲り受けた万年筆が文字を記していく。

ペン先が擦れる音が静寂を破る。

「北の国から遠く離れたこの町に積雪が観測される頃には

私はこの世にいないだろう」

堪えきれずに咳をすると手のひらには血が滲んでいた。

「その時のためにここに真相を記そうと思う。罪を犯した証拠とともに」

合紙に証拠を丁寧に包み独白とともに書棚へしまう。

本の形をしているからおいそれと見つかることはないだろう。

きっと彼女ならすぐに気づいてくれるから心配はいらない。

簡素な部屋を見渡す。

ここにはいい思い出なんてひとつもなかったけれど。

彼女に会わせてくれたのだからそれだけで十分だった。

支度をして部屋を出る。

もうここに帰ることはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る