第25話 想定外
機は熟した。
ついぞ、月冴さんは決戦の瞬間を迎えた。
根回しやらお膳立てを強いられた気がするものの、何もしない人の影響力は微々たるものゆえ実質ノーカンである。
いや、嘘だ。自分、慣れない行動でストレス過多につき疲労困憊。
これで追加報酬が貰えないなんて、プレミアムプラン廃止の流れを本気で企むや。
そっと、月冴さんが立ち上がった。
ほぼ同時、賑やかだった教室にはピーンと緊張の糸が張り詰めていく。
私語厳禁の号令は出てないけれど、月冴さんには厳かな雰囲気が相応しいと、クラスの合意がなせる結果かもしれない。
ランチタイムの間際、静寂がこの場を支配した。
図らずも、孤高の存在たる一挙手一投足が皆の視線を集めてしまう。
「ふん」
有象無象の関心など意に介さず、月冴さんは長い黒髪を払った。
チラリと横目で捉えるは、僕――ではなくて、その奥におわすお方。
1年2組のA級チームの主、高陽田マリィ。
月冴さんの視線に気づくと、高陽田さんは身体の向きを直した。
手筈通り、彼女は明るい表情で迎え入れる準備万端だ。
問えば、応える。たったそれだけ。
歓迎が約束された勝ち試合。俗に言うやらせである。
持たざる者には決して与えられぬ祝福を羨望すべきか。それとも――
心中、僕はがんばえーと応援していた。ほんと、頑張って……大変だったんよ。
僕の苦労は報われる。信じる者は救われるし、努力は裏切らない!
さぁ、行けぇぇえええーーっっ!
「……っ!?」
刹那、月冴さんの瞳に力強い意思が宿る!
くるりと身を翻すや、ランウェイを歩くかのごとく綺麗な脚をお披露目した。
瞬く間に、月冴さんは教室を後にするのであった。
…………
……
そして、退出である。
「……何、だと……?」
開いた口が塞がらなかった。
クールビューティーの消失に、クラスメイツは一斉に呼吸を再開した。
喧騒を喧騒を取り戻した教室のムードがたちまち弛緩する。
僕は夢遊病患者よろしく、ふらふらと廊下へ吸い寄せられていく。
もちろん、熊野風太郎の所在など誰も気付かない。高陽田さんを除いて。
努力は裏切らない?
おいおい、努力は結果を出すただの手段にすぎない。結果にコミットしろ!
過程を評価してもらえるのは義務教育まで。近頃の年寄り曰く、絶対評価は甘えだ。
この作戦に僕が費やしたプロセスなど、無きに等しいものだった。
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