第24話 根回し

「え、六花ちゃんを遠足班に誘いたいのっ!?」

「正しくは、月冴さんに誘われるだけど」


 放課後の視聴覚室、高陽田さんにご足労かけた。

 遠足メンバーについて提案すると、わぁ~と驚かれた。

 僕の口から月冴さんの名前が出るなんて、誰も予想できないので当然のリアクション。


「高陽田さんは、月冴さんと何か交流が?」

「ううん、全然。友達になりたくて足しげく通ったけど、空振りだったなぁ~」

「そうなんだ。僕なら泣いて喜ぶけど」

「熊野くん、あたしを口説いてるのかな? ごめんね、今は恋人とか考えてないんだ」


 振られました。ざーんねん。ちくしょー。


「すごく人目を引く人だよね。4月に結構話しかけたけど、なしのつぶて……」


 高陽田さん、一瞬硬直。


「ちょっと待って」

「待ちます」

「熊野くん、まさ……もしかして、月冴さんと仲良しなの?」


 まさかと言いかけ、訂正する辺り高陽田さんはすこぶる気遣いの人だ。

 さりとて、気遣いされると逆に気になっちゃうのが僕。小心者ゆえ。


「まさか! 僕に仲良しはいない。誰1人いないよ。単純に、隣の席が理由」


 ともだちレンタル関係の内容は伏せた。

 利用者同士でも、勝手に名前を出さない。お互い、影響力が強いしね。


「ふーん、熊野くんに仲良しはいないんだ? あたし、悲しいなぁ~。どうでもいい相手に秘密を教えたりしないのにね。悲しいなぁ~」

「いや、友達申請の許可貰ってないし。自称して否定されたら、不登校になっちゃう」

「申請なんて要らないよ! ここ、げ・ん・じ・つ! SNSじゃないんだから! 熊野くんは自己評価が低すぎかな?」


 プルプル震えた、高陽田さん。


「詳しく知らないけど、友達作りには国家資格が必要では? 1年以上の研修とかは?」

「……はぁ~、重症だね。只者じゃない気配はこれだったかな?」


 高陽田さんは、ひどく渋面だった。


「僕の希薄な交友関係はさておき、月冴さんだ。彼女は孤高の存在だと評判だけど、ひょんなことからいろいろ教えてもらって――」


 カクカクシカジカっと、割愛。


「つまり、先方は馴れ合いを好まないけど4人組を作る協力を打診されたんだ」

「先方?」

「い、いつものくせで。職業柄だなあ。ハハハ」


 利用者の情報を他人にばらすな。守秘義務違反。賠償金は嫌だ。契約解除は無問題。

 絶対にタダ働きしたくない戦いがここにあるっ!


「とにかく、月冴さんは下心で近寄ってくる奴以外で組めれば構わないらしい。僕は、人畜無害枠で抜擢。それで高陽田さんと班決めするって話を出したら、乗っかりたいみたい」


 説明につぐ説明。ぼかあ、疲れたよ。


「もちろん、僕が高陽田さんと一緒はおかしいと怪しまれた。例の件は大事な部分を伏せて、納得してもらったけど」

「おかしくなんてないけどねぇ~。六花ちゃん、熊野くんの良い所知らないのかな? あたしだけ知ってるの、優越感かも」


 可愛い女子の匂わせ含ませに、冴えないボーイは弱い。ふぅ、解脱、解脱。


「月冴さんが今度、高陽田さんにお願いする運びでオーケー?」

「う~ん」


 乗り気な様子にあらず。お互い、興味があるんじゃないの?


「ほんとにあたしと組みたいのかな? 六花ちゃんは自立したイメージがあるよね」

「あります」

「多分、あたしみたいな人の顔色窺って立ち回る女子が嫌いだと思う」

「愛想が良くて気配り上手。それがキャラと自嘲するのは1人だけですが?」


 きっと、毎日こなすのは大変だろう。それでも続けられる時点で性質だ。


「フォロー、ありがとっ。でも、見抜かれちゃって相手にされなかったんだよ」

「そういうもんなの?」

「そういうもんなの。女の勘ね」


 じゃあ仕方がないと、僕は降参のポーズ。


「遠足を機に歩み寄る方向で何卒」

「どうしよっかなぁ~」

「まだご不満が? 高陽田さん、こういう時はノリで決めちゃうもんかと」

「いつもはそうかな? なんだけどさぁ~」


 高陽田さんが、クスクスと悪戯心たっぷりに笑った。


「熊野くんが鼻の下伸ばして、チラチラ見てる相手だからなぁ~。今は要注意人物。遠足の間、気が抜けなくなっちゃうかな?」

「僕の鼻の下はそんなに長く見える? 整形も視野に入れないと」


 すでに、こんな場面に遭遇したような。デジャブかな?


「じゃあ、六花ちゃんも加入かぁ~。両手に花のお気持ち、聞かせてくれる?」

「恐れ多い……っ! って、オッケー出した?」

「関わりたいのは事実だからね。君が頼むのも珍しいし、お願い承っちゃおう」

「ありがとう。高陽田さんは、人材派遣部に欲しい逸材だなあ」


 シフト製作に頭を抱えた部長の代わりに、金の卵をスカウトしたところ。


「ん~、遠慮しとくよ。あたしは熊野くんにプレミアムな接待されたいからねぇ~」

「それは残念。有能な人が入れば、僕はすぐお払い箱なのに」


 割と本気で提案したものの、断られてしまった。

 <ねこのて>新メンバー、一緒に働きませんか?

 仕事は教えないよ。面倒事押し付けるよ。長時間働いてね。

 うち、みなし残業だから。週休二日制(完全とは言ってない)。


 即戦力、募集中!

 ――ブラック部活は総じて滅べと思いました。


「そういえば、友達の仲間割れの件は解決した?」

「うん、あたしが抜ける提案したら驚かれたけどねぇ~。誰か1人を追い出す形で、グループ崩壊の危機は免れたかな? みんな、お互いを改めて知ろうって笑っちゃった」


 青春だねぇ~と照れくさそうに、頬を掻いた高陽田さん。

 へー、さっさと瓦解すれば良かったのに。高層ビルは揺らぎに弱いはず。

 などと、全然ちっともまるで思ってない。

 なんせ、至極心底超絶どうでもいい顛末なのだから。


 リア充たちのプレシャスメモリーズの一端に手を貸してしまい、僕は忸怩たる思いだ。

 断腸の思いも乗せて、彼奴らに不幸あれと呪わずにはいられなかった。

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