第15話 ニチアサ

《3章》

 日曜の朝と言えば、戦隊ヒーローが怪物と戦ったり、変身ヒロインが悪の軍団と戦ったり……控えめに言って、闘争の嵐である。

 テレビをつけると、血気盛んなバトル模様が展開される頃合い。


 睡魔の卑劣な誘惑を打ち破って、僕が布団から這い出るタイミングと重なっていた。

 ある意味、僕も彼らと一緒に世界を守っているのかもしれない。過言だね。


 若い頃は朝アニメに夢中になっていたというのに、一体いつから興味が薄れていったのだろうか。あぁ、懐かしきかな少年時代。高校1年、過去に思いを馳せる。


「間違いなく、人材派遣部が原因だ。やはり、労働は心身共に健康を害す」


 休日の早朝に仕事の支度をさせる職業は、ぜひ滅んでいただきたい。出でよ、労基!

 しかし、ブラックな業務形態じゃないと、僕みたいのは収入を得られる気がしない。


 二律背反。世界はパラドックス。5000兆円欲しい。

 ――人生とは矛盾の選択に耐え忍ぶ行為だ。存命、熊野風太郎。

 初手哲学をキメつつ、僕は嫌々身支度を整えた。


 別に、今回の依頼やクライアントに不満があるわけじゃない。

 純粋に、日曜日は何もしたくない。リアルガチで、何もしたくない人。


「プーちゃん、出かけるん? 行ってらぁ~」


 寝坊助モードの楓子が、ふらふらと見送りにやって来る。


「パジャマ脱げかけだぞ。下着、見えてる」

「きゃー、エッチ。お兄ちゃんのスケベ」

「はいはい、えろーい。刺激的」


 妹がむにゃむにゃとあくびを漏らし、僕もつられそうになった。


「今日も接待なのかにゃ? 働き者だぜ、ごくろ~さん」

「誰のせいだよ」

「誰かのせいなの?」


 何でもないと頭を振った、僕。

 わざわざ、プレミアムプランは妹の誕プレが目的などとのたまう必要はない。

 楓子に恩着せがましくするのは、流石にダサいと言わざるを得なかった。

 プライドはないけど、恥ずかしいことこの上なし。


「楓子、冷蔵庫にサンドイッチ入れといたからお食べ」

「やれやれ、プーちゃんはシスコーンですな。あんがとっ」

「疾く自立してくれ。じゃあまた」

「待って!」


 僕が玄関ドアに手をかけると、楓子は眠気を一掃した凛とした表情で。


「……私、昨日のお土産貰ってないよん。今日の合わせて、2つちょうだ――」


 瞬く間に、ガチャンと扉が開閉した。

 障壁はわずか一枚。されど、大きな隔たりである。


「今年の誕生日プレゼントは、クリスマスと正月分セットだな」


 僕は淡々と、待ち合わせ場所へチャリをこぎ始めていく。

 プレゼントなしと言わないなんて、心が広い人だと思いました。

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