第6話 プレミアムプラン

「喜べ、プー太郎! プレミアムプラン2名様、ご案内だ!」


 パーンッと、クラッカーが鳴らされた。


「え、昨日の今日で!? 急展開すぎるっ」


 視聴覚室に火薬臭さが充満して、僕は鼻をひくひくさせた。


「クックック、俺がプロモーションかけりゃあ~、どんな落ちこぼれも救ってみせる。これがプロデューサーの手腕ってやつよ」


 懐から取り出した扇子を扇いでみせた、部長。

 僕は、スマホで人材派遣部のアプリを立ち上げる。


 サブスクの広告バナーがトップ画面を飾っていた。期間限定なる常套句な謳い文句だ。

 部員の専用ページを開くと、確かにプレミアム会員の登録通知が入っていた。


「こんなテキトーな煽りにつられる人がいるなんて、心配になってきた」

「ふん、世の中には物好きな連中がいる。その相手をするのが、オメーの役目だ」

「実際手を挙げた人がいるなら対応しますよ」

「何もしないけどな」


 返す言葉もなかった。

 ちなみに、プレミアムプランって何?


「簡単に説明すると、1カ月間プー太郎使い放題。存分にパシってください。もう一度言うが、世の中には奇特な奴らがいるもんだ」

「い、1カ月っ!?」

「どうせ暇だし、問題ないだろ」


 あっけらかんと部長が嘯いた。


「いや、1カ月は長すぎでしょう。僕にも予定が、」

「オメーに、ともだちレンタル以外の予定なんかねえ!」


 決めつけられた。大体、合ってる。


「平日は夕方5時以降~夜10時まで。休日を含めて、5連勤まで。事前に依頼内容を申請してもらう。うちは健全な活動を心がけている。当然だろ?」


 果たして、部活動と称した営利目的の団体は健全か? うーん、アウト。


「業務内容は一応ホワイトか」


 とりあえず、未経験歓迎、アットホームな職場だと思いました。


「昨日言ったがな、今回のサブスクはあくまでお試しだ。上手くいけば、他の部員も参入させる。つまるところ、依頼人候補は絞って選択した」

「どゆこと?」

「サブスクの広告は、本校の生徒、もしくは<ねこのて>のリピーターだけに表示設定しておいた。問題が起きた時、対処がしやすいからな」

「部長、まるで有能です!」

「有能なんだよ、バカタレがっ」


 肘で小突かれる僕。ぐふ。みぞクリティカル。これ、労災おりるかな。

 部長が椅子にもたれかかり、嗜虐的な笑みを漏らした。


「偶然か、はたまた必然か。喜べ、プー太郎。クラスメイトからのご指名だ。しかも両方、俺の耳にも評判が届く名前だな」

「ごほごほっ」


 むせ返ってしまい、今はそれどころじゃない。


「依頼人の名前は、高陽田マリィ。それに――月冴六花」

「ゴッホッ!?」


 別に、浮世絵が大好きな画家はお呼びじゃない。

 今はそれどころじゃない、むせ返ってる場合か!


「……え、何だって?」


 別に、ラブコメ主人公の空耳アピールじゃない。

 すみませんが、もう一度確認したいです。


「ともだちレンタル・プレミアムプラン、この学校の綺麗どころがこぞって指名とは! モテる男は辛いなぁ~。くれぐれも上客には失礼なく丁重に扱ってくれ、プー太郎」


 なぜ、どうして、ほわい?

 不思議、不可思議、摩訶不思議。

 なぜ、彼女たちがわざわざ僕を指名した? 皆目見当が付かなかった。


 この難問は、僕では解き明かせない。本人たちに解答を尋ねる他ない。

 さりとて、1つだけ断言できた。

 曰く。


「誰が相手でも、僕はいつも通りですよ」


 何もしない人は、何もしないをします。

 期待も不安も抑えつけ、僕はただそこにいるだけだ。

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