第5話 奥の手

「――サブスク解禁しろ」


 開口一番、部長は結論を述べた。


「サブスク?」

「サブスクリプションの略。いわゆる定額制サービスだな」


 部長は腕を組むや、視聴覚室の長テーブルに腰を下ろした。


「いや、人材派遣のサブスクって割に合わなくないですか? コスパ、大丈夫です?」

「あぁ、他のメンバーが現在の依頼量でサブスクしたらマズい。大幅な利益減少。<ねこのて>は、本当にボランティア部になっちまう」


 道路沿いの花壇を彩りましょう。


「優秀な部員たちと違って、プー太郎は断トツの最下位! ぶっちぎりの足手まとい! つまり、少額の報酬でも馬車馬のごとく働かせた方が断然マシだったんだよ!」

「な、ナンダッテーッ!?」


 部長の正体見たり。パワハラ先輩。これはブラック部活ですね。


「意外にも、アンケートだとオメーに感謝するコメントが多いからな、意外にも」

「不服そうな顔、やめてください」

「ぶっちゃけ、プー太郎で金儲けは諦めた。代わりに、<ねこのて>の評判上げに利用するって魂胆だ。な、妙案だろ?」


 全然、ちっとも。

 僕は、心底面倒な展開を悟った。そもそも、働きたくない人間である。

 あまりに広告塔の影が薄すぎだろう。冗談ではなく、辞めどきかな。

 しかし、脳裏には一つ懸案事項が過った。


「……誕生日プレゼント」

「あん?」


 そろそろ、親愛なる妹へ誕生日プレゼントを渡さなければならない儀式が近い。


 いい加減、誕生日プレゼントを兄にねだらないでほしいが、おそらく他の兄妹と比較すれば仲良しだと思われる。去年は自転車だった。兄が怪しいバイトでお金を稼いでいると知って、だんだんお値段がアップしていく。はて、今年は何を要求されることやら。


 僕が部長に詰め寄った姿勢で。


「サブスク解禁したら今よりギャラって増えます?」

「そりゃ、オメーの頑張り次第だろうが」

「今月は、何分物入りでして……えぇ」


 訴えかけるような僕の瞳を見て、部長は頭を掻きながら。


「ったく、しょうがねえな。初めてサブスクの試験運用するんだ。ギャラは追加しておく」

「あ、あの守銭奴の部長が!? 座右の銘は、地獄の沙汰も金次第なのにっ」

「よーし、ただ働きさせてやろうかぁぁあああっ!」


 そして、激おこである。

 名門野球部をリスペクトするような体罰を頂戴した頃合い。


「宣伝は俺が打っておいてやる。どうせ、すぐには利用者が増えないんだ。その間、手が回らない他のメンバーのオーダーを……いや、やっぱなし。素人の手は邪魔なだけか」

「冷静な判断が身に染みます」


 僕が役に立つのは限定的なシチュエーション。

 部長は、メンバーの適材適所ってやつをちゃんと俯瞰している。

 慣れた手つきでタブレットを操作しつつ、万能リーダーが顔を上げた。


「んじゃ、アプリのアプデに集中するんで解散な。プー太郎、期待してるぜ」

「僕は、サブスク解禁したくらいで何も変わらないと思いますが」


 やれやれと、肩をすくめるばかり。

 大体、ともだちレンタルは人気コンテンツじゃない。パンチ力が足りないよ。

 その中でも、熊野風太郎に指名はなかなかどうして集まらない。単純に、地味で気付かれないしね。プロフィール欄は一番下に載ってるんだよなあ。


 妹の誕生日プレゼントを買うため、とにかく期待半分で待ってみよう。

 本日、放課後の予定は一件。

 1人カラオケに付いて来てくれという依頼。


 ……1人で行かないの? そんな疑問を抱くようでは、この仕事はこなせない。

 多分、1人で店に入るのが恥ずかしいとか、タンバリン役を欲したのだろう。

 僕はそそくさとこの場を後にして、待ち合わせのターミナル駅を目指すのだった。

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