第4話 人材派遣部
部長は激怒した。
「おい、プー太郎っ! オメー、今月も営業成績最下位じゃねぇぇえええかっ!」
「はあ、そうですね」
「そうですね、じゃねぇぇええええぞっ!」
沸点が低いメロスでさえもう少し、怒りを抑えるだろう。
「まさか、邪知暴虐の部長。この結果を予想できなかったんですか?」
「予想してたっつーの! だから、こんなにぶち切れてんだろうがぁぁあああっ!」
流石、我らが部長。先見の明だよ。
人材派遣部<ねこのて>は、主に視聴覚室を間借りして活動している。
とはいえ、パソコンとタブレットを置けばそこが拠点である。
部員は総勢30人。しかし、僕が面識あるのは5人程度だ。
基本、やりとりはスマホで完結する。依頼の内容次第だけど、わざわざ事務所に寄らず、集合場所へ赴いて終わったら直帰する方が効率的。仕事は概ね、ソロプレイである。
否、僕に限った話かもしれない。個人もといぼっち事業主は辛いね。
他のメンバーたちは協力して、大掛かりなプロジェクトに参加してるかも。
視聴覚室に人は疎ら。というより、今は僕と部長だけ。やけに怒号が響くと思った。
唯一メンバー全員とコンタクトが取れるえらーい部長が、コホンと咳払い。
「なあ、プー太郎。俺は別に、怒ってるわけじゃないんだぜ?」
「風太郎です」
「オメーが担当するサービスは、たまに利用者が現れる隙間産業だってことは重々承知さ。<ねこのて>は幅広いリクエストに応えるのがウリだかんな。売上ノルマを課す気はさらさらねえってもんだ」
「じゃあ、」
「だがな! 流石に、オメーの働きぶりは目に余るぞ! ともだちレンタルやってんなら、もう少し稼げるだろ! 前田は3倍、後藤は4倍の売上を叩きだしてんだよ!」
声を荒げて、肩で呼吸した部長。
ホワイトボードには、個人の営業成績が貼り出されている。当然、僕が断トツで最下位。
「これがブラック部活の恫喝……部長、利益至上主義の化けの皮が剥がれてますよ」
「勘違いすんな、ただ働きはしねえだけだ。正当な対価は頂く。社会のルールだろ」
「一体、どれだけ正当な対価を頂ける人がいるんでしょうね」
世知辛い、世の中だと思いました。
部長は億劫そうに、スマホで僕のプロフィールを確認する。
「ぼっちが寂しい人に寄り添う、おひとり様デビューの支援……基本、何もしないをします、ねえ。ゆえに、働かずのプー太郎」
「いや、プー太郎の由来はくまの――って、それはいいです」
僕は頭を振って。
「単刀直入に聞きます。何度も営業成績最下位の僕はクビですか?」
「あぁ、格好がつかない。他のメンバーのためにも、やる気のない奴は辞めろッ」
「はい、分かりました! 今までちょっとだけ、お世話になりました!」
僕は一礼するや、くるりと踵を返した。戦力外通告を受けたなら仕方がない。僕はるんるんとスキップ、もといしくしくと退散するしかあるまい。
「ちょ、ちょちょちょ! 判断が早いっ。後ろ向きに向上心を発揮すんな」
部長が立ち上がり、僕を必死に制止させた。
「最近の若者は、配属ガチャ、上司ガチャで失敗したら辞めるみたいですよ」
「俺もその気持ちは分かるが、どこの会社行っても同じだろ」
まるで頭痛が痛いのか、部長はこめかみを押さえながら。
「世の中、いろんな人間がいるからな。オメーのともだちレンタルも需要ありと認めよう。ただ、売上がドベなのも事実だ。せめて、改善の意思があるアピールをしてくれ」
「がつがつ利益を求めると、何もしない人がフラットな距離感で寄り添うというコンセプトが崩れるのですが。そもそも、僕は空気キャラですし」
1人で入りにくい場所へ行ったり、ゲームの数合わせ、友達に知られたくない悩み相談など。どうでもいい奴を傍に置いて、ひとときの間気が楽になれば幸いだよ。
「大丈夫だ、問題ない。スタイルを崩さず、売上爆増必死なナイスアイディアをすでに部長様が考えてやった!」
ニヤリと笑みを漏らした、部長。
「プー太郎、俺に良い考えがある」
「退部かー、お世話になりましたー」
「ちょ~いっ!? 先輩のアドバイスをもっとありがたがれ! 存分に感謝しろやッ」
ノリが良い部長、なんでやねんとリアクション。
やはり、人望がある先輩は一味違うなと思いました。
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