第2話 星空
《1章》
暗闇に満ちたドーム状の天井には、満天の綺羅星が輝いている。
プラネタリウムを楽しめるラウンジの一角。
僕は、ひっそりとペアシートの端っこに腰を下ろしていた。
「綺麗ね」
隣に座る女性が呟いた。
僕は何も答えず、再び人口の星々を眺めていく。
日常の喧騒や悩みがちっぽけに感じるほど、夜空のスケールに圧倒されてしまう。
「去年、また一緒に来ようって約束したね」
「……」
「私の誕生日だからって、あなたが妙に張り切ってたのが懐かしい」
僕は、あなた、ではない。
何もしない人だ。
「プラネタリウムなんて柄にもないくせに、偶然チケットを貰ったとか、もう少しスマートに誘ってくれれば良かったのに」
女性は、星空に語りかけている。
「ほんとに……どうしてこうなっちゃったんだろう。私があなたに求めすぎたの? あなたが私に愛想を尽かしたの?」
嗚咽交じりに、俯き加減の女性が視界に入った。
詳しい事情は知らない。
別れた経緯を知りたいかと言えば、嘘になる。
僕の仕事は、ただ話を聞くだけである。
けれど。
「――さん。僕もこの景色はすごく綺麗だと感じます。一年ぶりにまた眺められて、良かったですか?」
「……」
「この夜空は色あせない美しさを誇っています。恋人との約束は叶わず、つらい記憶かもしれません。それでも――さんの心に響いたということは」
出過ぎた真似をしたと自覚しつつ。
「きっと――さんの思い出も、色あせない美しい思い出なんですよ」
「……っ!」
女性がパッと振り向いた。
「……はい……はいっ! 大事な思い出でした……っ」
暗がりであまり表情を窺えないものの、小刻みに震えていた。
「ほんとに、星が綺麗だ」
僕は天井を見上げることなく、失礼ながら女性の頬をまじまじと見つめた。
徐にキラリと瞬いた、一筋の光星を眺めていく。
「こんなに近くで流れ星が流れるなら、次は願いが叶いますよ」
「ふふ、あの人よりよっぽどロマンチストね。傷心の女をどうするつもり?」
しばらくの間、女性は笑顔のまますすり泣いていた。
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