20話 元闇姫と現闇姫6
「むしろ忘れててほしいから。貴方は今のままでいて」
「なんだよ、それ。やっぱ変な奴だなお前って」
変な人だって思われても、どんな風に見られてもいい。
「お前にとって俺は他人じゃない、か。なぁ、炎帝」
「なに?」
「お前の答えを聞くのはこの戦いが終わってからって言ったよな」
「そうだけど」
顔が近い。なに?
「やっぱり、今じゃダメか?」
「え?」
「こういうのって死亡フラグみたいでさ」
「死亡フラグって?」
「わかんないならいい。ようは大事なことは先に伝えるべきってこと」
「それならわかるけど」
「だから今聞かせろよ」
今!? 突然そんなこと言われても心の準備が。
壱流がどこまで私のこと知ってるかわからないけど、私の答えはとっくに決まってる。だって、そのために自らの血を与えて壱流を助けたんだから。なんとも思ってない人にあんな行動をするはずない。
「俺はせっかちだからな。答えを聞かないとここらへんがムズムズするつーか。早く言わないと何するかわかんねーぞ」
「私は壱流に何をされても……って」
私、とてつもなく変な事を口走ったような。
「前にお前が話してた好きな奴って俺のことなんだろ?」
「え?」
「俺だって言えよ」
「っ!」
気付けばゼロ距離。私は壁に追い詰められた。
壱流はどこまで私のことを?
壱流は知ってるんだ、もうとっくに。だからこうして全て察した上で私に聞いてる。 好きな人にこんなこと思うのは失礼かもしれないけど、今の壱流はすごく意地悪だ。
「俺が好きなんだろ? なぁ、闇華」
「!」
本人を目の前にしてそれを口にするのは恥ずかしい。けど、それよりもこの状況のほうが。
「吸血鬼ってさ、人から血をもらう時に流れ込んでくるんだよ。血を吸われて気持ちいいだの今どんなことを考えてるだの」
「だから?」
「だから今お前の血を吸えば闇華の考えてることが全部丸裸になるわけだが。俺の言ってる意味わかるよな?」
「壱流、前に話してたでしょ?」
「なにを?」
「お互いの同意の上じゃないと血は吸わないって」
「俺のことが好きなら同意してるも同然だろ?」
い、いちいち近い!
「それとも聞かせてくれるのか? 闇華が俺のことどう思ってるか」
「は、話す。壱流のことどう思ってるかいうから。だから血は吸わないで」
「そんなに嫌がると逆に吸いたくなる」
嫌がってる女の子を見ると男の人ってみんな同じような行動を取るのよね。なんでなの?
「それで?」
「それでって」
「俺は伝えたのにこれじゃフェアじゃねえよな」
「……」
さっきはそういう状況じゃないからいいっていったのに。
「す……」
「す?」
「す、好きよ」
「!」
「私は……壱流、貴方のことが好き。じゃなきゃ、貴方の前であんなに無防備な姿見せるわけないでしょ?」
羞恥心で心臓が壊れそう。恥ずかしすぎて穴があったらいますぐ入りたい。それでしばらくは出てこない。
「無防備な? って、ちなみにどれのこといってんだ?」
「っ!」
またいじめてくる。まったく、この男は。口元がニヤけてるから、からかってるのがバレバレなのよ。
「お、おんぶとかお姫様抱っことか。あと、体育館倉庫でのきゅ、吸血とか」
「最後のは俺、記憶にないんだが」
「吸血されたのよ、貴方に。暴走しかけてたから、その……」
これは秘密にするつもりだったのに。
「怪我はなかったか?」
「え、えぇ。あのあとすぐに白銀先生が来てくれたから。って、壱流?」
「あのときか。だから、か」
「?」
「しばらく喉の乾きがなかったんだ。いくら輸血パックを飲んでも満たされなかった俺があの日から少しは身体が楽で……あれは闇華のお陰だったんだな」
あの日を堺に学校には姿を見せなかったから心配してた。だけど、私の血で壱流が元気に…。
「ほんとお前には頭が上がらないな。一生かかっても恩を返しきれそうにない」
「そんな。恩なんて。私は壱流のためならなんでも……っ」
「だったらいいよな?」
「な、なにを」
「今のは鈍いお前でもわかるだろ?」
首筋に壱流の手が触れた。
「俺は苛立ってんだ」
「ごめんなさい。私、また何か怒らせるようなこと……」
「ちがう」
「え?」
「お前にじゃない」
だったら誰に?
「他の吸血鬼に吸わせただろ?」
「それはその、幻夢と友達が……」
「あの野郎……」
「まって、違うの。そうじゃなくて」
「あ?」
勘違いしないで。幻夢は何も悪くない。あれは私の弱さが原因だから。
「狗遠が私が、友人だと思ってた人を人質にとったの。それで血の取引をしたのよ。幻夢はそんな私を止めようとしただけ」
「闇華が友達だと思ってたってことはあっちは違ったのか?」
「……」
「あ、わるい」
「散々ひどい言葉を言われた。でも、私は夢愛ちゃんを憎むことが出来ない」
あれだけ幻夢を傷つけられ、仲間だって捕まってるっていうのに。
「それがお前の優しさだよ、闇華」
「私の、優しさ?」
「そうだ。あいつらには持ってないモノ、それは優しさだ」
「甘さや弱さじゃなくて?」
「なんて顔してんだよ」
頭を撫でられた。
「敵に情けをかけるってのは本当は、いや、俺達の世界でそれは命取りになる」
「うん」
知ってる。弱みにつけこむ奴らもその人は甘いんだって舐められる。
「だけどな」
「?」
「いいんじゃないか?」
「え?」
「闇華みたいなやつがいてもさ」
「でも、そのせいで仲間が……」
「憎しみからはなにも生まれないって言葉があるようにお前にはお前なりの考えがある。闇華がもし狗遠と同じならきっと今より酷い状況だったんじゃないか?」
そんなの結果論にしか過ぎない。げんに私は多くの人を巻き込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます