21話 元闇姫と現闇姫7

「狗遠のように簡単に人を殺せるのが正義だとお前は思うのか?」

「そんなことはない。けど、時には非情になることも必要でしょ。特に裏社会は」


「だったらお前は殺すのか? 狗遠も友人だったやつも」

「殺さない! だって、きっと事情があるから。2人とはまだちゃんと向き合ってない。本音を聞いてない。殺し合いで全部解決するならそれこそ憎しみ合う世界が生まれる」


「だろ? ならお前はそのままでいい。弱いと思うなら強くなればいい。話し合いをしたいとおもうなら無理矢理でも話を聞いてもらえばいい。行動する前から諦めるのは嫌なんだろ?」


 貴方はどんなときだって光をくれる。その励ましが私に何倍もの勇気をくれる。


「ありがとう壱流」

「お礼を言われるようなことはしてない。ただ、お前が自分の個性すらも否定しようとしてたから。俺はそれを肯定しただけだ」


「私ってば助けられてばかりね」

「そんなことないさ。お前は俺や幻夢を救ってる。お互いに支え合うのがお前の考える家族なんだろ?」


「それ一体どこで?」

「あー……っと、なんでもねぇ」


 壱流はバツの悪そうな顔をして私から離れた。


「ねぇ、壱流」

「なんだよ」


「こんな真面目な話をしながら私の思考を読んだの?」

「俺にはなんのことだかわかんねー」


「吸ったでしょ?」

「……」


「私の血、吸ったよね?」


 首筋にはかすかに新しい噛み跡があった。


「人が重い話をしてるときに……」

「俺には重苦しい話をただ聞くのって苦手なんだよなー」


「だからってこんな……」


 少しでも壱流のことカッコいいっておもった自分を殴りたい。


「あぁ、吸う時は吸うって言えってことか?」

「あのね、そういうことじゃなくて」


「思ってることは言葉にする。これって大事だよな」

「い、壱流?」


「俺色に染めてやりたい」


 また距離が近い…。


「これからの初めては全部俺のだから。キスも吸血だって。それと、」

「な、なに?」


「身も心も俺の。だから俺から離れるなよ、闇華」


 力強く抱きしめられる。出会った時は私よりも弱くて、身長も小さくて、どちらかといえば可愛い男の子って感じだった。それがこんなにも男らしく成長するなんて。そして、すっかり壱流のペースだ。正直くやしい。


「っ……」

「返事は?」


「聞かなくてもわかるでしょ?」

「どっちが主導権を握ってるか身体に教えこんだほうがいいか?」


「ちょ……」


 壱流がさらに近づく。キスしてしまいそうなほど近い。


「はな、れない」

「なんだって?」


「離れないって言ったの。答えなんてきかなくても知ってるくせに」

「闇華の口から聞くのがいいんだろ? そのほうが俺の事が好きなんだってわかる」


「……」


 いつから壱流はこんなイジワルになったの? 学校で話しかけたときは〝 あんた 〟呼びで、ほとんど他人同然だったくせに。


「お前のファーストキスは狗遠に奪われたが、これからのキスはぜんぶ俺とだからな」

「そういえば幻夢にも……」


 最後の別れみたいな言葉と共にキス、されたのよね。それと同時に好きだって告白もされて。幻夢と2人きりで話す時間も作らないと。返事も返さず放置するのはなんだか相手に申し訳ないし。


「また幻夢か。それで、次は幻夢になにされたんだ?」

「なにって……」


 これも言わなきゃだめなの? 私は自分の唇を触った。


「キス、されたのか?」

「!」


 しまった。バラすつもりはなかったのに。無意識の行動で気付かれるなんて。


「闇華は幻夢と過度なスキンシップとりすぎ」

「私、家族とそんなことするつもりは……」


「そのわりに幻夢とはずいぶん仲が良さそうだな」

「それはその。その場の流れというか、あれは仕方なかったというか」


「その場の流れ、ねぇ」


 ジト目で見てくる壱流。すごく疑われてる。今はいうだけ無駄な気がする。どの言葉も言い訳にしか聞こえないような、そんなかんじ。


「もう許さねぇ。今すぐここを追い出すことにする」

「それは困るわ。幻夢はまだ傷だって癒えてないのに」


「自分よりも幻夢を心配するんだな。やっぱり、俺よりもあいつのほうが大切なのか?」

「そんなこと……」


 どちらを選べなんて酷なこと、選べるわけない。私にとってはどっちも大切な存在だから。


「すこし意地悪が過ぎたな。悪かったな、闇華」

「いじめてるって自覚はあったのね」


「好きな奴をからかいたくなる気持ち、お前にはわからないか?」

「私、そこまで高度なことできないから」


「不器用だもんな」

「それ褒めてないわよね?」


 どうせ私は喧嘩しか能がないわよ。って、壱流に言ったら面倒な女だと思われる?


「褒めてるぞ。俺はどんな闇華でも愛してるから」

「そ、それは反則」


「反則ってなにが?」

「なんでもない」


「幻夢のことは答えなくていい。ただ、俺が今からすることは俺とお前だけの秘密な」


 え?


 ―――チュ。小さく聞こえるリップ音。


「んっ...///」

「お前の唇は俺のものだから好きにしてもいいよな」


「だ……壱……んんっ」


 ダメっていえない。言わせるつもりもないんだろう。


「ヤバいな。闇華の声を聞いてたら理性が飛びそうになる」

「壱、流?」


「その潤んだ目もやべぇ」

「まっ……。ちょ、壱流!」


 2人きりの夜。この秘密を知っているのは私たちを照らしてる月明かりだけなはず、だったんだけど……。


「あー!! 姉貴ってば、目を離した隙に壱流さんと何やってるんですか!」

「!?」


「チッ。いいとこで邪魔が入った」

「やはり壱流は炎帝さんの前ではカッコつけたいようだね。でも、子供がこんな遅くまで起きてたら駄目じゃないか」


「幻夢に白銀、先生」


 もしかして、いまの見られてた?


「姉貴はあんたなんかに渡しません!」

「幻夢?」


 後ろからギュッと抱きしめられた。


「闇華は俺のだ。手出しするなら容赦はしねぇぞ」

「闇華!? 姉貴のこと呼び捨てにするなんて何様のつもりですか!」


「喧嘩ならいつでもかかってこいよ。そんな身体で俺に勝てるとでも?」

「その言葉まんま狗遠じゃないですか!」


「2人とも。け、喧嘩はやめない?」

「「やめない/やめません」」


 結局、壱流と幻夢の言い争いは朝まで続いた。


 幻夢たちが来なかったら私は壱流に何をされていたんだろう? 深く考えるのはやめよう。いくら心臓があっても足りなさそうだし。

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