2話 入学式2
「あねーき。姉貴ってば、聞こえてないんですか?」
「……」
「なんと今日から闇姫が高校デビュー! これはビックニュースですよ。しかも、そんな闇姫と同じ学校に通える僕って、なんて幸運なんでしょう。夢みたいなことですけど、これは正真正銘現実なんですよね!?」
「……」
「って、僕の話聞いてます? 裏社会を騒がせた元不良少女の闇姫さ~ん」
「聞こえてる」
「それなら安心しましたけど。だったらなんでシカトしてたんですか?」
「貴方がウザいから」
辛辣な言葉を目の前にいる男の子に言っている私は
そんな私は今日から高校生。入学式を機に心機一転しようと決意した数日前、当時舎弟で私に一番懐いていた
「ウザいってひどくないですか!? 昔はあんなに僕を可愛がってくれたのに。愛妻弁当だって毎日のように作ってきてくれたのに~」
「それも昔の話。それに愛妻弁当を作った覚えはない」
最初は単なる家出のつもりだった。中学生になったばかりの私はまわりに馴染めなくて…。
「愛妻じゃないなら彼女弁当ですか? 実は僕限定に作っていたとか!?」
「あれはロクなモノを食べていなかったみんなに作ってたの」
組に入っていない、ただの不良の幻夢は他の不良たちとよく溜まり場(倉庫のようなところ)に集まっていた。そこは私の居場所でもあった。
「懐かしいですね。姉貴がいなかったら、あの場所はゴミに埋まってましたよ。あのままいくと、僕や仲間は生き埋めになって……って想像するだけで冷や汗出てきました」
幻夢の言う通り、最初はゴミ溜めのように汚いところで彼らはまともなご飯を口にしていなかった。だから、私が頻繁に家でお弁当を作ってそれを彼らに渡していた。そのたびに「姉貴、ありがとうございます!」って嬉し泣きして、美味しそうにご飯を食べてくれたっけ。
彼らは闇姫としてじゃなく、仲間として私を向かい入れてくれた。私にとっては家族と同じくらい大事な人たち。闇姫を卒業してから彼らのことは知らない。ちゃんとご飯食べてるかな……。
幻夢に聞けばすぐに答えてくれるんだろうけど、そうすると私が闇姫としてあの場所に戻らないといけない気がして安易に聞けずにいた。
「それにしても、そんなナリじゃ僕以外は闇姫って気付かないですよ?」
「だからこの格好なのよ」
こんな見た目だから安心してた。だけど、幻夢には速攻で気づかれた。
「大体あの綺麗だった金髪はどこにいったんですか!?」
「前にも話したでしょ? あれは染めてたの」
そう、今の私は黒髪ロング。あの当時は舐められるのが嫌で、あえて金髪にしていた。ちなみに、あれから切ってないから今ではお尻まである。伸ばしっぱなしの髪だから枝毛もあるし荒れてるんだけど。
切ろうと思えばいつでも切れたはず。だけど、いつまでも切らないのは彼らとの思い出を忘れたくないから。短くしたからといって思い出がなくなるわけじゃないけど、これは私なりの願掛けのようなもの。
彼らが、幻夢たちがいつも元気でいられますようにっていう、そんな願いを込めてたりする。
「じゃあその目もカラコンだったり? 学校にカラコンとか教師に怒られますよ?」
「これは……」
紅い瞳だけは本物。生粋の日本人で、外国の血は混じっていない。だから余計目立つ。血の色みたいで気持ち悪いって言われたこともあるせいで、私はこの目が嫌い。
あとは間違われたりするのよね。
なにって? ……吸血鬼に。
「でも変わらないところもありますよね」
「……なに?」
「例えばペッタンコのむ……ガハッ!」
「それ以上言ったら殴るから」
「殴ったあとに言っても説得力の欠片もないですよ」
気にしてるのに……。私だって、できることなら大きな胸がよかった。
「でも、どんな姿でも姉貴は姉貴ですから。その髪型、ツーサイドアップっていいましたっけ? 昔してたツインテールも可愛くて好きでしたけど、今の髪型も似合ってますよ」
「…ありがと」
幻夢はなにかとストレート。嘘をつかないっていうのかな?
「同じクラスになれるといいですよね! もし同クラになれなかったら先生に抗議します。まわりが知らない人だらけとか僕、耐えられません!!」
「やめて。まわりから変な誤解を受けるから」
抱きつかれて胸のあたりでスリスリしてくる。中学生の頃からこうだったから、私はすっかり慣れてしまった。
幻夢はいわゆるワンコ系男子。多分、その表現が一番合ってると思う。身長が高校生男子の平均くらいだからそう見えるのかも。
本人は低いからコンプレックスだっていってたけど、身長150以下の私からしたら幻夢の身長でも十分高いと思う。
この状況をはたから見たらどうだろう? 大して可愛くもない私にカッコ可愛い男の子がハグしていたら。幻夢がまわりから噂されて嫌な思いをするんじゃ……。
「安心するんです。この断崖絶壁に母性を感じるっていうか……」
「誰が断崖絶壁よ」
―――バシッ。幻夢の頭を叩く。
「姉貴、痛いです。こんな乱暴じゃ、友達出来ないですよ?」
「うるさい。それに学校では普通の女の子でいるつもりだし」
「普通の女の子って姉貴が!? プッ……ムリですよ、そんなの絶対に無理です!」
そこまで笑わなくても……。
「無理じゃない。私は普通の女の子として高校生活を楽しむの。女の子の友人とかほしいし」
「そういえば、姉貴は可愛い女の子をストーキングするのが趣味でしたっけ?」
「違う。ただ、可愛い女の子が好きなだけ」
私には無いものを持ってるから。可愛い顔だったり、仕草だったり。あとは甘い匂いとかしそう。マカロンとかケーキとかそういうの。
当時の私は毎日喧嘩の日々だったから、服に血の匂いが染みついていたと思う。誰も口に出さなかったけど、そう思われても仕方ないってくらいには不良やヤクザと戦っていた。
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