3話 入学式3
「姉貴だって十分可愛いですよ? 中学の頃は女の子らしい顔をしてましたけど、高校生になった姉貴は可愛いというより大人びて美人になりましたよね!」
「そう? 幻夢って冗談が上手いのね」
「冗談でこんなこと言いませんって」
「一つ聞いてもいい?」
「なんですか? 僕に答えられる範囲であればなんでも」
「どうして私が闇姫だってわかったの?」
髪型も髪色だって違うのに。
「そりゃあ出会った時と同じような目をしていたからです。いかにも人を何人も殺してますみたいな冷たい瞳。僕的にはゾクッとトリハダが立つような…」
「それ褒めてるの?」
「めっちゃ褒めてます!」
聞いた私が馬鹿だった。
軽い殺気を出しながら冷たい目で相手を睨みつけるだけでも、弱い者はそれだけで怖がって脱兎の如く逃げていた。
幻夢はそんな私が怖くないのだろうか。それとも、幻夢が他の人とは違って変わっているから?
「それと……」
「どうしたんですか?」
「私のことは姉貴じゃなくて名前で呼んで。もし、クラスが離れても暴れないこと。……わかった?」
「了解しました!」
ビシッと敬礼のポーズ。ほんとにわかってるのかしら。
「闇華姉さんって呼べば問題ないってことですよね!?」
「…もう好きにして」
今から不安。呼び方をいきなり直すのは難しいのかしら。
私も短気なところは気をつけないと。もし、相手から喧嘩を売られても買うのはやめておこう。そもそも普通の女の子は喧嘩なんてしないだろうし……。
「人を殴る癖もなおしたほうがいいですよ?」
「……心を読まないで」
「人間の僕にそんな力はないです。姉貴の顔に書いてあったんです」
「……」
「ほんとですよ? それに学校で1人になることはないので安心してください」
「なんで?」
「僕がついてますから」
自身を指さして主張する。
「それがかえって不安」
「なんでですか!?」
「なんでも。そんなことよりクラス見に行きましょう」
「はい! って、僕の話を流さないでくださいよー!」
掲示板に張られたクラス表を見に足を進める。学校に着くまでの桜並木がとても綺麗だった。ここが私が通う高校。何事もなく、ただ平和に過ごしたい。だが、この時の私の願いは神様には届かなかった。
再び闇姫として裏社会を騒がせるのは少し先のお話。
「ぎゃー!」
「どうしたの?」
幻夢がいきなり大声を出すからビックリした。掲示板を見ながらアワアワと口を開けている。
「姉貴とクラスが離れるとか陰謀です! これは、先生が僕に対するいじめをしてるに違いない!!」
「いじめって……」
適当に、とはいかないだろうけどクラスを決めるときはある程度バランスを均等にするようにって聞いたことがある。でも、詳しい事情は教師の間でしかわからない。
「やはり教師とタイマンするしか」
「入学早々退学になりたいの?」
「それは嫌です。せっかく姉貴と一緒の学校に入れたんですから!」
「だったら現実から目をそらさない」
「姉貴って基本的に冷めてますよね」
「冷めてない」
「アネキ? あの二人ってどういう関係?」
「姉弟にしては似てないよねー」
「……幻夢」
「す、すみません!」
呼ばないでって先に釘打っておいたのに。
「や、闇華とクラス離れるとか寂しいです。中学の頃は同クラだったのにー!」
わざとらしい。というか棒読みすぎて演技としてもどうなの、それは。
「あの二人同クラだったらしいよ」
「同中で高校も同じとか羨ましすぎ」
……良かった。
「隣のクラスですし、途中まで一緒に行きましょう? 闇華」
「そ、そうね」
今まで姉貴呼びだった幻夢が私の名前をナチュラルに呼ぶとかちょっとドキッとする。名前で呼んでって言ったのは私だけど、これは意外と心臓に悪い。
「「「キャー!」」」
「今度はなに?」
近くで女の子の黄色い声が聞こえる。
「あの二人、超カッコよくないー!?」
「わかる~!1人は制服着てるし、同級生かな?」
「でも、身長高いし年上じゃない?」
「隣にいる人は先生だよね!? もしかして新任!?」
「担任の先生とかになったらどうしよう!?」
ふと視界に入る。ここから見ても身長が高いのがはっきりとわかる。
「闇華。早く教室に行かないと先生来ちゃいますよ?」
「わかってる。今行くから」
「あの二人が吸血鬼だったら私、思わず血あげちゃいそう~」
「ウチも同じ! あんなイケメンで、ただの人間とかありえないよー」
「……」
今の時代、吸血鬼という存在は珍しくない。一昔前は都市伝説やら架空の生き物として本に載ってるくらいだったけど。
私も一度だけ吸血されたことがある。あの屈辱は昨日のことのように覚えている。次に会ったら絶対後ろをとらせない。
それと同時に、私が血を与えた男の子はどうしてるだろうかと気になった。壱流は私の初恋の人。小さい頃に何度か遊んだ。まさか、あの街にいるなんて最初見た時は驚いた。
敵のテリトリーに入ったから殴られるのは当たり前だけど、あまりに一方的すぎてつい手が出てしまった。だけど、壱流は昔のことを覚えていなかった。無理もないか。あれは小学3年生くらいのときだし。
「龍幻、なにやってんだ? 早く職員室に行かないと職員会議? ってのに遅れるぞ」
「龍幻〝 先生〟だろ?」
「その呼び方は慣れるまで時間がかかりそうだ」
「二人のときは構わないが、教室ではせめて呼んでくれよ」
「まぁ考えとくわ。俺、先行くから」
「あぁ。……っと、すまない」
「いえ……」
女の子たちが騒いでいた二人組の内の一人にぶつかった。1人は先に教室に向かったようだけど。白衣姿にメガネ。なんで白衣を着てるんだろう?
「その目は本物かい?」
「偽物に見えますか?」
悪態をついてしまった……。
生意気な生徒だって思われた?
「気に触ったなら謝るよ。ただ、オレと同じに見えたから」
「同じって」
長い前髪を手でかきあげると、そこには赤い瞳があった。たしかに私と同じ。髪は銀色。そして赤い目。この見た目はまるで……。
「オレと同じ色の目をした女の子に会ったのは初めてかもしれない」
「私も初めてです」
だからか、私の目を見てなにも言わないのは。教師だったら開口一番に「カラコンなら外せ」というはずなのに。
「君は綺麗な目をしているね」
「え?」
触れられそうになったそのとき、
「姉貴ってば、まだここにいたんですか?」
「幻夢。だからその呼び方は……」
「そろそろ行かないとマジで入学式遅刻しちゃいますよ」
「え、えぇ」
私は幻夢に手を引かれるまま、教室に足を進めた。
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