第118話 王宮内での死闘……ネルベイラ攻略戦

 首都ネルベイラにあるミルアド国の王宮。


 かつては絢爛豪華で、商業国家ミルアドの富の象徴とも呼べる豪奢な宮殿がそこにあった。


 壮大で華麗な外観の王宮は、内装も洗練され、豪奢な装飾の施された様相を呈していた。


 そんな華美なミルアドの王宮も今や――


「オッラァッ!」


 ドンという破壊音。壁が崩れる音。天井が抉れ、通路には至るところに穴ができる。


 破壊、破壊、破壊……暴力の渦が王宮内に吹きすさび、洗練されたミルアドの王宮がどんどん壊れ、損滅し、毀損し、崩れていく。


 その暴力の中心。主にゼイラは次々と俺に対して攻撃を繰り出してくる。


 左手で殴る、と見せかけてフェイントをしたかと思えば俺の腹へと右の拳が来る。


「どうだ!」


「くッ!」


 腹に拳が直撃する。衝撃がくる。思わず口から空気が漏れる。


 普通の人間ならこれだけで死に値する衝撃だ。しかし俺はといえばふわりと空中を一瞬浮かぶだけで、そのまま無傷で通路へと着地する。


 そんな着地の瞬間を狙うようにして水面蹴りをするゼイラ。不安定な姿勢だったので、足元を蹴られるとその衝撃で俺は床に倒れてしまう。


「うわ」


「もらった!」


 ドンという衝撃が走る。倒れた俺の顔面に向け、ゼイラは思いっきり足の裏で踏みつけてくる。


 普通の男ならこれで顔面は潰れ、即死するだろう。


 今のゼイラの脚は常人の脚ではない。竜魔人の力によって強化され、鱗の生えた脚は何よりも硬く、強靭だ。


 しかし加護の発動中の俺にはいかなる攻撃も通じず、無傷で、まったくダメージがない。


「ふむ。良い脚だな」


「チッ!覗くんじゃねえ変態が!オラ!オラ!」


 覗くな、と言いつつも何度も俺の顔面を踏みつけるゼイラ。その度に竜魔人の力によって強化された彼女の強靭な美脚が俺に衝撃を伝える。


 その衝撃が床へと伝わり、ドンッドンッという破壊音と共に通路にヒビが入った。


 ――まずいな。このままだとルワナの実家が壊れる……仕方ない……


「もう一発くら……うわッ!」


「これ以上はやめろ。床が壊れる」


 俺は踏みつけるゼイラの足首をガシッと掴むと、そのまま立ち上がる。


 左足一本で立っている状態のまま右足を掴みあげられたので、ゼイラがyの字みたいな不自然なポーズになってしまった。


「ば、バカ!なにすんだ!恥ずかしいだろ!」


 ふむ。もっと恥ずかしいことしてた気がするが、まあ確かに恥ずかしいポーズだな。


「早く放……わ!急に放すな!たおれ…あ」


「おっと、すまんすまん。大丈夫か?」


「う、うん…ありがと…って何すんだ!」


 急に足を放したせいでゼイラが床に倒れそうになる。そんな彼女の背に手をまわして優しく抱きとめると、一瞬だけしおらしい顔をする。しかしすぐに表情を険しくし、俺の胸をドンと突いてゼイラは距離を離した。


「はあ……はあ……殴ってもダメ。蹴ってもダメ……どうなってんだ?」


「さあ?まあ確実なのは、このままだと勝てない。いい加減、諦めてくれないか?」


 でないとルワナの実家が壊れる、って言おうとしたのも束の間。ゼイラは近くの壁を裏拳で殴り、ドンと音と共に破壊する。


 ――まーた壊した。もう、何するんだよ!ルワナに怒られても知らないぞ!


「――お前に近づくのは危険だな。ならこれはどう、だッ!」


 ゼイラは瓦礫を拾うと、そのまま思いっきりこっちに投げつけてくる。


 ルワナの実家……ミルアド国はそうとう経済的に恵まれてるらしい。なにしろ壁という壁すべてに貴重な結晶岩を使用している。


 結晶岩は見栄えの良い石材なので、貴族の屋敷に使用するには最適な装飾品として重宝されている。しかし、この石材は装飾品である以上に、頑丈だ。


 そんな頑丈な結晶岩を拳一つで破壊するゼイラの力は末恐ろしいな。今のゼイラのとんでもパワーで投げられた結晶岩の瓦礫が命中などしたら普通なら死ぬぞ!


 高速で飛んでくる結晶岩。避けても良いが、そうするとまたルワナの実家が壊れかねない。


 確かにルワナは現在進行形で寝取られている。それも勝手に間男と抱かれることを決断するなど、なかなかの暴挙だ。


 しかし。それでも。彼女が国民を助けたいというその気持ちは本物だし、その気持ちは無碍にはできない。


 なによりルワナは大事な俺の女だ。俺の女の実家をこれ以上壊させるわけにもいかないか。


 ――しゃーない。受け止めるか。


 俺は両手を広げ、できるだけ自分の体に命中するようにする。そのせいで、ゼイラが投げてくる結晶岩の瓦礫がガンガンと命中してくる。


 頭。腹。右肩。左腰。股間。右太もも。左足のつま先。いたるところに命中する。ぶつかる度にかなりの衝撃が走る。しかし――


 無傷だ。


「うら!おら!どりゃ!……はぁはぁはぁ……くっそ!なんで平気なんだよ!」


 投げても投げても一向にダメージを受けないことに気付いたのか、地団太を踏んで悔しそうにするゼイラ。やめなよ、王宮が壊れるだろ。


「これが加護の力だ」


 と、俺は力説する。


 条件こそクソみたいな内容だが。俺の加護の力は本物なのだ。それだけは間違いない。……はあ。条件さえ無ければ完璧なんだけどな!


「はぁ……へへ。ならこれならどうだ!」


 ゼイラは一瞬屈むと何かを拾って握りしめる。そして、大きく振りかぶって俺に何かを投げた。


 いい加減無駄だと悟って欲しいのだが……あ??


 これは瓦礫、じゃない。もっと小さな…砂?


「ぐあ!しまった!」


「あはは!目つぶしだ!どんなに鍛えても砂が目に入ったら見えないだろ!」


 ゼイラが投げたもの。それは瓦礫ではなく、その手で握り潰して砕かれて小さくなった結晶岩の砂。


 威力はほとんどない。しかし目にゴミが入ったことで視界が奪われる。


 その隙を突かれる。


 気配が迫る。ゼイラはすぐ近くにいる。彼女は俺の顎を蹴り上げる。


「ぐは!」


 痛みはないが、悲鳴は出る。


 ドンという衝撃が顎に入る。その勢いで俺の体が空に浮かぶ。


「まだまだいくぜ!オラよッ!」


 顎を蹴られたことで俺の体が後ろに反れる。そんな俺の背中に向けてさらに下から強い衝撃が加わる。


「おらよ!」

「ぐは!」


 どうやら背中に蹴りを入れられたらしい。その衝撃でさらに上へと飛ばされ、俺の体が天井にブチ当たる。


 ドンという破壊音とともに天井が破壊され、俺はといえば上の階へと蹴り上げられた。


「どんどん行くぞ!オラ!ウラ!どりゃ!」


 ドン!ドン!ドン!ゼイラの追撃は止まらない。


 連続して衝撃が下から迫る。そのたびに上へ上へと宙を舞い、天井を破壊し、ついには王宮の屋根をぶち抜いたらしい。


 目が……目が……まわる…だがようやく見える……


 蹴りによる衝撃を受けつつも、なんとか視界を取り戻した。


 ゼイラの蹴りによって王宮の上空へと蹴り上げられた現在。うっすらと見える視界の中。王宮の屋根に穴が開き、眼下にはミルアド首都の街並みが広がっている。そして穴の中にはゼイラがいる。


 彼女は牙の生えた獰猛な口を開くと、


「業火に焼かれろ――【ドラゴンブレス】」


 まるで頬に空気を溜め込むように口の中が膨れ上がる。そしてその口がパっと明るく輝いたと思ったら、大量の炎が噴出。深紅に染まる炎の渦がこちらに迫ってきた。


 ゼイラはその口から大量の炎を吐いたのだった。


 ――あれは……あの炎は、マズイな。


 それは直観に近い思考だった。俺は両手と両足を閉じてガードを固める。空中では身動きが取れない今、あの炎を避けるのは不可能だった。


 やがて大量の炎が俺を襲う。ゼイラのドラゴンブレスが直撃した。


 熱い。とにかく熱い。灼熱の炎がまるでマグマのような粘着性をもって俺の全身を包み、焼き殺そうとする。


 ただの炎ではない。竜だけが出せるあらゆるものを焼き尽くす業火の炎。鋼鉄さえも一瞬で融解しそうな劇熱に晒される。真っ赤に染まる炎を受ければ、どんな生命も燃えカスとなってしまうことだろう。


 ――だが、それでも、耐えられる。加護があるから。


「あぁあああああああぁあああああ…………はぁ、はぁ、はぁ、……やったか?」


 たらりと全身からおびただしい汗を出すゼイラ。そして、カランと音をたてて彼女の皮膚から鱗が落ち始めた。


「チッ……力を使いすぎたか……でも今ので流石にあいつも…マジかよ?」


 ドンと着地をする。


 焼ける臭いがそこら中にする。


 黒い煙が青い空を穢す。

 

 周囲の空気が熱くなっている。


 とても人間には耐えられない灼熱の炎だった。


 しかし生きている。


 まさに地獄の業火と呼ぶに相応しい攻撃だった。


 しかし耐えれた。


 どうやら俺の加護は、本当に無敵のようだ。


「はぁ……はぁ……なあ、どうしてだ?」


 息を切らし、額に浮かぶ汗を拭い、疲れた表情を浮かべつつもゼイラは聞いてくる。


「なんで服は燃えてるのに……髪の毛は平気なんだ?」


「え?あ、よかった。ハゲてない……それだけが心配だったんだ。ふむ。パンツと髪、どっちを守るかで悩んだがパンツを選んで正解だったな。髪も体の一部ってことなのかな?」


 俺の加護は俺を無敵にはしてくれるが、服や武器まで強化してくれるわけではない。だから必死にパンツだけは燃えないように頑張って防御したわけなのだが、さすがに髪の毛までは手が足りず、ガードできなかった。


 まさに念じるような思いで髪の毛の心配をしてたのだが、ふぅ、あっぶね。俺の髪は無事だ!


「はぁ……はぁ…今の…全力だったんだけどな」


「ああ。おかげでパンツ以外は裸になっちまったよ」


 ――とんでもない攻撃だった。体とパンツは無事だが、それ以外の服はすっかり燃えカスとなって消滅してしまった。竜の炎。恐るべし。


「それより大丈夫か、ゼイラ?鱗、取れてるぞ?」


「力を使いすぎたからな……そろそろこの状態を維持できない」


 そっか。確かに強かったもんな。あれだけの力だ、そんないつまでも維持できないか。しかしその強さがあれば魔王だって勝てそうな気が……


「なあその力があれば魔王も倒せるんじゃないのか?」


「無理だぜ。だってこれ、一回しか使えないし」


 ……え?


「言っただろ?アタシはシフォンちゃんの先祖返り。シフォンちゃんの能力が使えるだけで、竜魔人の力が使えるわけじゃないんだぜ?」


 いや、うん、まあ確かにそう言ってたね。え、ってことはさ。


「あのさ。じゃあさ。これ終わったら、もう竜魔人モードになれないの?」


「あったり前だろ!力を使ったらもう無理だぜ!二度と使えないぞ!」


 あっはっはっはっと快活に笑うゼイラ。そんな彼女の楽しそうな笑いに惹かれて、俺もふふっと笑ってみた。


 ふふ、ふふふ、あはははは!


 そんな大事な能力をさ、性癖を満たすためだけに使うんじゃねえよ!


 ああああああああ!


 ゼイラがいれば、いけると思ったのに。もう俺の加護を使わなくても、魔王とか倒せるって思ったのに!


 ダメじゃん!こんなタイミングで使っちゃダメな能力じゃんそれ!


 俺がその事実に精神的なダメージを負ったその瞬間。ゼイラは近づいてくると、


「オラ!」

「うわ!」


 再び攻撃を開始してきた。右拳で殴ってくるゼイラ。それを寸でで躱す。


「まだ、だぜ!まだ終わってないぞ!」


 いや、終わりだろ。だって鱗、落ちてるぞ?


 もう無理だって。諦めろよ。完全に俺の勝利でいいじゃねえか。


 今までは全身を覆っていた竜の鱗。それがパリパリと剥がれ、その下にあるゼイラの白い美肌が露出し始めた。


 確かにゼイラは能力なしでも十分に強い。もしも加護を解けば、きっと俺はやられるだろう。


 だが、竜魔人の力が失われつつある今。ゼイラに魔王のような圧は感じない。


 徐々に失われ、弱体化し始めるゼイラ。


 そう。彼女は確実に弱くなっている。このままだと、魔族どころかその辺のおっさんにすら負けてしまいそうだ。しかし…


 ――ゼイラは負けたがっていた。


 それも全力の死闘の末の敗北だ。だから力のある限り、彼女は立ち向かってくるのかもしれない。


「おら!」


 ゼイラは拳を弱々しい拳を奮う。俺はそれを避ける。


「この!」


 ゼイラが蹴りをする。俺はすっと後ろに避ける。


 諦めない。ゼイラは決して諦めない。彼女は、全力を尽くして、そのうえで負けて、そして…自分より強い存在にわからせられるのが望みだと言っていた。


 どうする?


 どうすればいい?


 竜魔人状態のゼイラなら多少殴っても平気かもしれないが、流石に今の人間に戻りつつあるゼイラともなると下手するとその綺麗な肌に傷がついてしまうかもしれない。


 俺は昔のことを思い出す。シルフィアに「女の子は殴っちゃダメだよ」と言われたあの昔の景色を思い出す。


 当時10歳だったシルフィア。彼女との思い出は今も健在なのだ。シルフィアは人には殴るなとか言いつつ、剣の稽古の時はガンガン殴ってきたよな気もするが。いや、今はそれはよそう。


 そうだな。女の子は殴っちゃダメだよな。シルフィア。君の言葉を守ろう。


 女性は殴らない。傷つけない。ならばどうやってゼイラを無効化すればいい?


 うーん。考えてみた。


 そうだ!よし、やってみよう!


 やがて全身の竜の鱗が落ち、すっかり元の人の姿を取り戻したゼイラ。その姿は、胸や腰を隠す革鎧の他に特に何も着てないという、なんとも破廉恥で煽情的な格好だった。


 肩や腕、おへそ、太ももなどは露出し、その白い美肌は汗まみれで濡れている。


「この、これならどうだ!おら!……え、んんッ!」


 いまだ死闘を演じるゼイラが右手を繰り出す。そんな彼女の右手を優しく受け止めると、俺はそのまま引き寄せて彼女の唇にそっとキスをした。


「んんッ!…あ…あむ…ちゅ…ん…って何すんだお前!」


 突然のキスにビックリするゼイラ。数秒ほど俺にされるがままにキスをした後、急に冷静になって後ろに飛び退く。


「ああ、ゼイラが可愛くてな。つい」


「お前……可愛かったら誰とでもキスするのか?強姦魔か?」


「ははは……ゼイラほど可愛い女が他にいるのか?」


「殺し合いをしている最中に口説くとか、正気かよ?」


「俺は常に本気だ。今決めた。ゼイラ。お前を俺の女にする。さあ、かかってこい」


「くそ、変態が!絶対殺す!……んッ」


 ゼイラが右手の鋭い突きをする。それを避けると、ゼイラの顎を掴み上げてその唇を奪う。


「…ん…あん…って止めろバカ!この!」


「ゼイラ、遠慮はいらない。全力で来い!」


「お前が遠慮しろや!こっちは戦ってるんだぞ!……やん💓」


「好きだよ、ゼイラ」


「んッ…って耳元で囁くな!……あ、ダメ💓」


 ゼイラが掴みかかってきたので、その両手に優しくタッチ。恋人つなぎみたいな格好になると、目の前にゼイラの綺麗な顔があったのでそのままキスをする。


「あ……ちゅ…てふざけんな!」


 両手を振り解くと、ゼイラは俺を睨みつける。ただ頬はほんのり赤くなっていた。


 ふむ。これはいけるか?


 ゼイラは負けたがっていた。そして男にわからせたがっていた。それはつまり……ドMということで良いのだろうか?


 とにかく俺は今、その直観を信じて戦闘しながら隙あらばキスをしてみた。


「この……ちゅ」

「おら……ちゅ」

「うらあッ……ちゅ」

「………ちゅ」

「ちゅ……」

「………」

「………」

「………」

「………」

「……ちゅ……ちゅ…」

「……ん……」

「……あ……ん…」

「…」

「なあ、アタシのこと好き?」


 ゼイラと俺の戦闘はずっと続いていた。しかし攻撃をされる度に何度も優しくキスをし、愛の言葉を囁くと、ついに思いが通じたのか、ゼイラのキスの時間がだんだん長くなってきて、ついには優しい目になっていた。


 そんなゼイラは今、俺の腕の中にいる。俺の腕で抱きしめられ、まさに拘束された状態だ。しかしちょっと力を入れて暴れたらすぐにでも振り解ける程度の力しか入れていない。


 しかしゼイラはまるで無抵抗で、俺の腕の中におさまっている。彼女の赤い髪の上よりその頭を撫でれば、「ん」と甘い吐息を漏らして嬉しそうな顔をした。


 あのどんな男よりも強かったゼイラが。

 あの勝気だったゼイラが。

 あの鋭い眼差しがよく似合うゼイラの瞳がうるっと潤って蕩け始めている。


「リューク、お前、本当に強いな……アタシが全力を尽くしてもまったく勝てない。――お前だけだぜ?アタシに勝てるの」


 ――なあ、アタシのこと好きか?と再び聞いてくるゼイラ。俺は、


「ああ、好きだよ」


 と答える。


「はぁ……はぁ…やべえ。今めちゃくちゃ心がヤバくなってる…ふふ……なあリューク。アタシ…おかしくなってる。どうしてくれるんだ?」


 腕の中のゼイラの体温が上昇していることがわかる。彼女は熱っぽく、汗が増える。ただ今までの発汗とは種類が違う気がした。


 幸い。もう魔族の気配はほとんどない。どうやら今までの戦闘で近くにいた魔族は撃滅してしまったようだ。


 そしてここは王宮。俺はゼイラをお姫様抱っこするとそのまま開いている部屋へと向かった。なかなか趣味の良い部屋を見つけた。


 ……ここ、ルワナの部屋じゃないよな?


「リューク……あん……リューク、好きだぜ」


「ああ、俺もだ。愛してるぞゼイラ」


「うん、アタシも――」


 ミルアドの王族の誰かのベッドの上。


 ゼイラは革鎧を脱ぐ。床に革鎧が落ちて、ドサりと音を鳴らす。一糸まとわぬ格好となり、ゼイラの豊かな胸と腰まわりが露になる。


 汗で光沢を帯びたゼイラの体はとても色っぽく、淫らで、艶やかだ。


 その形の良い乳房はとても豊満で大きく、乳首はツンと上を向いていて、なんだかおっぱいまで勝気な印象がある。


「あ」


 蕩けるような眼差しに柔らかな唇。感情が昂っているのか、甘い吐息が漏れ、その燃えるような赤い髪からはなんだか甘い香りが漂ってきた。


 これでもう戦闘は終わりだな。ゼイラは俺の女になった。ならばもう加護は必要な……


「アタシ言ったよな」


 ぞわりと背筋に悪寒が走った。


 目の前にはもう竜魔人の力を失ったゼイラがいるだけ。誰よりも綺麗で、色気のある、まさに女の魅力を全身に纏ったような女だ。


 なんか、いつも以上に色気を放ってるような気もするが。


 ゼイラは舌なめずりをして言う。


「シフォンちゃんの力を受け継いでる――って言ったよな?」


 ゼイラの瞳が蠱惑的になる。


「シフォンちゃんは竜魔人だって殺せるほどの搾精能力の持ち主だぜ?」


 ゼイラが俺にしがみつく。その柔肌が密着し、その豊満な胸が俺の体にあたるとたわわに変形した。


 甘い、とても甘い香りが俺の鼻腔をくすぐり、頭が刺激される。ゼイラの柔らかな太腿が俺の脚に絡みつき、体と体がますます密着した。


「ぜ、ゼイラ?ま、待て…」


「アタシさ、こういう方法でも殺せるんだぜ?ふふ、大好きだぜリューク💓。最高の淫魔の力を見せてやるよ💓世界でもっとも気持ち良い腹上死だぞ?男冥利に尽きるな!」


 腕力なんてほとんどない。ゼイラの絡みつく腕と脚に余力なんてほとんどない。全力を出せば逃げれる。しかし――


『あん💓あん💓がんばってリューク!…あん💓ボクも頑張るよ!』


 遠く離れたカルゴアの王宮でもまた、ルワナは戦っている。


『ん💓……大丈夫…あ💓…だから…ボク、キスはしてないよ?…好きなのはリュークだけだよ?…やん💓』


 とても切なそうな、蕩けるような顔をするルワナの映像が脳裏に浮かぶ。


 彼女は堕ちそうだ。しかし、耐えている。そう、耐えているのだ。


 そうだ、そうだよ。ルワナは感じてはいるが、耐えている。ルワナもまた、戦っているのだ。国を、祖国を守るため、王族としての責務を果たすため、戦っているのだ!!大事な女に戦わせておいて、俺が逃げるなんて事があって良いのかッ!?ここで逃げて良いのか?!


 否!


 ――なんのために最愛の女を間男に抱かせてると思ってるんだ?逃げるためじゃないだろッ!?


 すべては勝つため。そう人類を救うという大義のため!


 俺は、逃げない!たとえ相手が淫魔だろうとも!


 ゼイラと俺との最後の戦いが始まろうとしていた。


「あは💓」


 目の前のゼイラが淫蕩な笑みを浮かべる。


「男がすっごく気持ち良くなること、してやるよ💓」


 ごくり。思わず生唾を呑み込む。


 ゼイラが紅玉の館でなぜナンバー1だったのか、その理由がようやくわかった。もしもこの戦いで負けたら、俺は死ぬかもしれない。だが――


 大丈夫、俺ならヤレる!ヤレるはずだ!これは絶対に負けられない!


「いくぞ!」

「イッたら死ぬぞ💓」

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