第112話 ネルベイラ攻略戦…前夜
――一体なぜこんなことに?
次の目的地であるネルベイラに向けて現在、人類軍は北へと行軍している。
兵士たちの士気はとても高い。なにしろ人類軍は今のところあの魔族軍に対して連戦連勝なのだ。
次々と土地を奪還することに成功し、確実に祖国の土地を取り戻すことができている。
まさに快挙。滅亡寸前まで追い詰められていた人類にとってこの上ない偉業である。
そんな偉業の渦中にいるのだ。誰だって意気揚々。士気は高揚し、次なる戦場への期待も高まるというものだ。
――なのになぜこんなことに?
縦列になって北へと進軍する兵士たちの顔はみな明るい。もちろん、まだまだ戦いは続く。厳しい戦いになるやもしれない。それだけに中には浮かれるなと部下を叱咤する隊長もいる。しかしそんな叱りつける隊長の顔もまた明るく、そこには希望がある。
きっと期待しているのだろう。彼らの故郷を魔族から取り戻し、再び祖国の土を踏める将来への希望を胸に抱いるのだろう。
そんな兵士からすれば、僕という存在はまさに希望の象徴なのかもしれない。
騎乗し、馬を北へと歩かせている最中。チラチラと行軍する兵士たちの視線がこちらに集まる。
その視線には畏怖の感情もあるが、それ以上に尊敬の感情が強い気がする。
僕の加護を使えば、あの無敵のような強さを誇っていた魔王すら蹂躙できる。その圧倒的な強さを目にした彼らだからこそ、その尊敬の眼差しが眩しい。
――こんな加護、もう発動しなければ良いのに、なんてとても言えないよな。
そう、期待されているのだ。僕の加護を使用することを人類が皆期待しているのだ。
――つまり寝取られろ、ってことか?
なんてことだ。今や全人類が僕に加護を使用することを期待している。これもう人類公認の寝取られではないのだろうか?
一体どうなってんだこの世界はさ?
もちろん、僕とて人類に滅んで欲しいとは思っていない。人類を救うためならどんな犠牲だって払う覚悟はある。
そう、覚悟を決めるのは僕だけで良いのだ。
――ルワナ、なぜ君まで覚悟を決めてしまうのだ?
ルワナ…正確にはルワナ・オード・リッシュナー。
ミルアド国の王女様。女の子にしてはやや低音だけど、なかなか耳心地の良い声を発するお姫様。
柔らかいショートカットの金髪が良く似合う美少女だ。
王室育ちのせいか、あまり他人のことを疑うことがなく、ピュアな性格をしており、天真爛漫な笑顔がとても魅力的で愛らしい。
そんな彼女を夜にベッドに誘えば、恥ずかしそうに顔を赤らめつつも、それでも僕のことを好きだといって甘えてくる。
僕の腕の中で抱かれ、恥じらいつつも感じる彼女の姿がとても愛おしく、大好きだったりする。
そんな彼女が、ルワナが…決断してしまった。
――次、寝取られる、と。
なぜに?
やらないって言ったじゃないか。
他の男に抱かれるのは嫌だって言ったじゃないか。
っていうか予告寝取られって…キツイんだけど。
できることなら説得したい。
無理はしなくていい。嫌なら断っていい。そう説得したい。
しかし今は軍事作戦の最中。とても説得に割く時間がない。というか説得するための通信手段がない。
通信石を使用した暗号通信は短文を送るには最適だが、長文はとても送れない。というか本当に覚悟をした人間を説得しようと思ったら、やはり直接交渉するしかない。
通信石ではダメだ。説得はできない。
ルワナは、ショートのブロンドがよく似合う、笑顔が愛らしい女の子だ。無邪気で愛らしくて、実は甘えん坊で、好きだと耳元で囁くと嬉しそうな顔をする女の子だ。
同時に、責任感が強く、王族としての責務を果たすことに囚われてもいた。
自国の兵士たちが命をかけてまで祖国を取り戻そうとしている時、王族である自分が何もしていないことに対して責任を感じてしまったのだろうか?
罪悪感からなのか、それとも負い目か、自責の念からなのか…
だとしたら――何も言えないじゃないか。
強い決意と覚悟を固めるお姫様に、無理をするな、なんて言えるのだろうか?
だいたい前々から思っていたことではないか。
自国さえ守れない王なんて無能なのではないのか、と。
そういう意味では、ミルアドを守れなかったルワナたち王族は国家という視点で見れば無能な王族なのかもしれない。
――もう確定なのか?
ルワナが次に寝取られるのはもう決まっていることなのだろうか?
いや、違う。
僕は思い出す。
そうだ。次の戦場ではミルアドの銃兵部隊が自力で首都を奪還するって言ってたじゃないか。
そうだ、そうだよ。あいつらが自力で奪還できるなら、そもそも加護を使用する必要もない。そうすれば、ルワナが寝取られる心配もないじゃないか。
ははは、なーんだ!あるじゃないか、寝取られない可能性が。
もちろん、奴らが自力で首都を奪還できた場合、ルワナを故郷に戻すという約束ではある。しかしそれは本人が同意した場合の話だ。
ルワナ本人がその話を聞いて帰りたいというのであれば、僕としてはその意思は尊重したい。
僕は確かにルワナは好きだが、彼女の意思までは曲げられない。
だがそうでなく、帰国よりも僕と一緒にいてくれることを選んでもらえたら、その時は最後まで彼女の幸せに全力を尽くす所存だ。
――現状で考える限り、それが理想か?
ミルアド軍が自力で首都を奪還する。そうすればルワナが寝取られることはない。さらにルワナが祖国ではなく僕を選んでくれればその後も一緒にいてくれる。
これが実現すれば最高だな。ははは!
「…はあ」
まあ無理だろうな。
確かにミルアドの銃兵部隊は強かった。一般の魔族兵ならば小銃部隊でも圧倒できるだろう。
だが敵にいるのは一般兵だけではない。中には小銃が通じない特殊個体もいる。奴らとてそれぐらいわかっているだろうに。
――勝算はあるのだろうか?
もしも勝算が無かったとしたら、みすみす兵を犠牲にするだけだぞ?
たとえ兵が犠牲になったとしても、それでも王女を、ルワナを取り戻したいということなのだろうか?
だとしたら――ルワナは少なくとも国民からは愛されていたのかもな。
そんな国民に愛されていた王女様が寝取られるというのだから、奴らからしたらたまったものではないかもな。
「リューク、村に到着したみたいだぞ。今夜はここで野営だな」
「うん?そうか、わかった。ゼイラ、準備してくれ」
「おう!…お前ら、作業を始めろ!」
気が付けば、人類軍の行軍はだいぶ進み、今夜の野営ポイントまで到着していた。
そこはかつては多くの村人が住んでいた村なのだろう。平原にぽつんと浮かぶように柵で囲いを作っている集落だった。
といっても既に人は住んでいない。魔族軍の進軍に合わせて避難したか、それとも魔族軍に捕まったか…いずれにしろ生きている人間はいなかった。
流石にこの規模の集落に3万の兵に分け与えられる食料の備蓄があるとは思えなかったが、まあ井戸があるだけマシか。なにより屋根付きの民家があるのは有り難い。
兵と馬を休ませるべく、着々と野営の準備が進められる。
人類軍が村の民家を接収すると、そのうちの一つを僕に割り当ててもらえた。人類軍における僕の地位は中隊長でそれほど高位の地位ではないのだが、まあ特別待遇である。
「リュークは家があるのか…いいな。アタシも泊まっていいか?」
「うん?なんだ、一緒に寝たいのか?」
僕が村の民家に向かおうとすると、ゼイラがなんだか羨ましそうに声をかけてくる。
ゼイラは僕の副官だが、特別高い地位を得ているわけではない。だから民家が割り当てられなかったわけだが、まあ僕と同じ家を使うっていうなら問題ないかもな。
「おう!いいぜ!……っていうかリュークはアタシを身請けしたんだからな!いつでも抱いていいんだぜ?な、ニーナ!」
快活に笑ってそう答えると、ゼイラはポンと隣にいたエルフのニーナにも声をかける。
「ふぇ?え、あー、そうですね。ふふ、どうされます💓、伯爵様?私も別に構いませんことよ?」
「え?」
…どうしよう?突然の美女二人の誘惑。
いや、別におかしくはないのか。そもそも二人は紅玉の館で働いていた元娼婦なのだ。
現在は人類軍の一軍人として活躍してもらっているわけなのだが、もともとは娼館から身請けされた立場だ。
身請けされた時以来、彼女たち自身はそのつもりで僕と一緒に行動をしている。そう、彼女たちは抱かれる覚悟はとっくにできているのだ。
僕は改めてゼイラとニーナを見やる
燃えるような赤い髪を持つ元S級冒険者のゼイラ。
輝くような新緑色の髪を持つエルフのニーナ。
一方はワイルドな色気のある、男心を誘うような肉感的で官能的な身体つきの美女。メリハリのある身体はとてもいやらしく、男の視線を誘う。
もう一人は清楚でたおやかな雰囲気のある、スレンダーな美女。こんな神聖な雰囲気のある美女が実は元娼婦だというギャップもあって妙な興奮がある。
二人の見た目はとても対極的だ。だがどっちも好きだ。
「ちょ、なに勝手なことを言ってるんですか?リュークサマには私という素晴らしい相手がいるのです。お呼びではありませんよ?お二人には野営テントがあるじゃないですか。さあリュークサマ、一緒に部屋に行きましょう」
そう言って割り込んでくるのは、紫色の髪を持つ絶世の美少女のローゼンシア。
「うん?ああ、でもこのままだとゼイラとニーナがテントで過ごすことになるし…」
「だから何なのです?それとも今日は私はお呼びではないのですか?ふーん、そうですか」
と言って目を細く、なんだか妙な顔をするローゼンシア。
「なら仕方ないですね。私としては楽しければ誰でもいいので。さて、あの特殊部隊はどこに…」
「ま、待て!待つんだ!」
こんな場所で加護を発動させる気か?
「なんだ、ローゼンシアもしたいのか…なら4人でやるか!」
「え?」
まるで当然だと言わんばかりの勢いでゼイラが近寄る。そしてすっと僕の背中に手をあて、耳元に甘い吐息を吹きかける。
「あんな凄いもの見せられてさ、アタシ、溜まってるんだよ💓うずうずが止められないんだ…なあ、いいだろ?」
「いや、その…」
「私も構いませんよ?身請けされたあの日以来、この身は伯爵様のものですので。ただ、そうですね。可愛がってくれたら嬉しいですね💓」
「え……いいのか?」
ニーナはエルフだけあって白く綺麗な肌をしている。そんな普段は白い美肌をしている彼女の表情がなんだか赤い。
「リュークサマ…私のこと、いっぱい愛してくれますよね?」
上目遣いで甘えたような声を出し、僕をじっと見つめるローゼンシア。
―――なんだよこれ、なんなんだ?……これは…もういいのか?
次の戦い。ルワナの覚悟。そして僕の加護。
色々な考えが頭を巡り、錯綜する。しかしいくら考えたところで結論が出る気はしない。いや、結論はもう出ているのだ。
――戦うしかない。誰が寝取られようとも、僕には戦うしかないのだ。
僕の知らないところで勝手に事態が進む。知らないところで勝手に覚悟を決めて、勝手に行動する。
じゃあ僕が勝手に振る舞っても問題ないか。
なんだか色々と真面目に考えている自分が馬鹿みたいだな。
「わかったよ……よし!今夜は楽しむか!!レッツパーリィしようぜ!!」
「「「イェーイ!!」」」
もうどうにでもなれって感じだ。
僕は三人の女性たちを抱き寄せると、そのまま民家へと向かった。
ははは。今日は楽しむぞ!
「あん💓」
「きゃ💓」
「へへ💓」
美女たちを連れて民家へと入ると、そのまま扉をパタンと閉じた。
そんな光景を遠巻きに見ている人類軍の兵士たちは…
「おい、アレ見たか?」
「え、パーリィするの?これからパーリィするの?明日、戦だぜ?」
「ああ、あんな美女ばっかり家に連れ込んで…羨ましい」
「さすが人類を救う男はちげーな。ネトラレイスキー、とんでもねえ男だ」
「っていうかさ、あの人……なんかデカくね?」
その晩。次の決戦に気分が昂っていたのか、僕はとてもハッスルした。そんな僕の高揚が伝わったのか、彼女たちもなんかハッスルした。とても素晴らしい時間だった。
「…💓」
「…💓」
「…!……💓」
「……え、大きすぎない?」
「……嘘だろ?…でも…💓」
「……うん……なんか成長してるんだよね…なんでだろ…あん💓」
「……」
「……」
「……」
「…好き💓」
「…大好き💓」
「…あ💓…ダメ…壊れちゃう💓」
「……」
「…」
「………!!!」
「「「好き💓」」」
ルワナが次、他の男に抱かれるかもしれない。そんな焦燥感も手伝ってか、とても激しいハチャメチャになった。
その結果、ゼイラとニーナとの間に加護の繋がりを感じるようになった。
そして次の朝。
「「「おはようございます!」」」
「?ああ、おはよう」
相変わらず兵士たちからは尊敬の眼差しを受けていたのだが、なんだかその尊敬の色がいつもと違うような気がした。
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