第76話 3人と3国
――国をぶっ壊して欲しい…
ローゼンシアにとってドウランは生まれ育った祖国だろうに。たった一人の女の願いのために国を滅亡させても良いのだろうか?
あの後。
ローゼンシアの願いを叶えると約束すると、彼女はにっこりと微笑み、
「うん。じゃあもう眠いし、寝るね」
とそのままベッドに横になった。これは抱いても良いサインなのだろうか?と一瞬疑問に感じたのだが、そのあと「Zzzzz」というイビキを聞いて、あ、これガチで寝てる奴だ、と思い、部屋を出ていくことにした。
果たしてこんな約束しても良いのだろうか?
どんな悪国だろうと、そこに住む人たちがいる。国がなくなれば、彼らの居場所は無くなってしまうだろう。
それをローゼンシア一人の願望のために彼らの住む場所を潰して良いのだろうか…
…まあいいか!
そもそも自分たちの手で祖国を奪還できない本人たちにも問題あるもんな!
こんなことは今に始まったことではない。
本当に大事なら守るべきだった。守れなかったにしても、自分たちの力で取り戻すべきだ。
たとえ人類軍が魔族を撃滅して取り戻したとしても、それはもう人類軍の土地であり、奪われた人たちの土地ではない。文句があるなら実力で証明するしかないのだ。
もちろん、命は大事だ。国よりも命を優先して守ることも大事だろう。
だが国を守れるのはそこに住む人だけなのだ。そして一度奪われた国は何もしない限り二度と返ってこない。自分たちで取り戻すしかないのだ。
そしてローゼンシアは取り戻す気がない。むしろ滅亡を願っているくらいだ。
こういう言い方をすると、じゃあもしも自分の祖国が奪われても同じ回答なのか?と聞かれそうだが、僕の意思なんて関係ないだろうに。
どんなに堪えがたい現実だろうと、力がない以上、受け入れるしかないのだ。
そう、強い者だけが選択肢を持てる。弱い人間はたとえ本音では嫌だとしても従うしかない。
「――その割には僕、選択肢少ないな」
と一人、自分の部屋に戻る廊下で僕は愚痴を零すのであった。
…はあ。間男に選択肢を握られるなんて、なんて加護だ。
ローゼンシアの部屋から自分の部屋に戻る途中。
「リューク?」「リューク様?」
「うん?…二人とも、どうしたの?」
シルフィアとフィリエルの二人に遭った。見れば二人とも、なんだか肌がほんのり赤く、髪が濡れている。
そろそろ眠る予定だったのだろう。
シルフィアは胸元にV字のスリットのある、谷間がやけに煽情的な寝間着で、艶やかな太ももが露になっている。
フィリエルも今夜はやけに色気のある青色の寝間着で、胸が強調されるセクシーな見た目だった。
…二人とも。寝間着といえば寝間着なのだが、なんでちょっと透けて見えるのだろう?そのせいで下着がないことが見て取れた。
「もう終わったの…ってあれ?もしかして何もしてない?」
シルフィアになんだか意外そうな顔をされた。いや、そもそも仕事の話をしたいだけであって、抱く予定ではなかったのだが。
「次の攻勢ではローゼンシアの祖国を攻めることになったから。それを伝えただけだよ」
「え!!!!!…そ、そうだったのですね。…それは痛ましい限りです」
一体なにを想像していたのだろう?フィリエルはサッと僕から顔を背けて、なんだか申し訳なさそうな顔をする。
「そっか。ついにドウランを攻めるんだね。…ってことは今、リュークは空いてるのかしら?」
僕の話を聞いて深刻そうな顔をするシルフィア。しかし途中から一転、口元に笑みを浮かべてなんだか得意げな顔をする。
…え、なに?
「リューク、次の戦いまでもう時間がないんだよね?私、いっぱい愛してほしいかな?」
「うん?」
「あのリューク様。私も、もっともっといっぱい愛して欲しいです」
「ん?」
二人の美女が同時に迫ってくる。彼女たちは僕の両腕をその胸の中に抱き込むと、体を密着させ、足を絡めてきた。顔が近く、甘い吐息が首筋にあたる。
湯上りだからだろう。シルフィアとフィリエルの肌はしっとり濡れており、その濡れた体の感触が興奮を煽ってくる。
「最近、あの人たち、みるみるテクニックが上がってるからね。ちゃんと愛してくれないと、取られちゃうかもしれないよ?」
「な、なんだと!」
ドクン…なぜだろう。心臓が高鳴る。条件を満たしてないのに加護が唸りをあげる。
「あ、私は大丈夫ですよ?あの人はその、一緒に頑張る仲間ぐらいにしか思ってませんので。確かにその…ちょっと…気持ち良かったけど…あ、大丈夫ですよ!心配しないでください!」
「え!いや、あの…」
ドクンドクン…フィリエルの言葉になんだか異様な戦慄が走る。
シルフィアとフィリエル。彼女たちはとても美しく、魅力的な女性だ。当然、他の男が放置するとは思えない。思えないだけに、危機感が募る。
この顔。この体。この腕。この足。そして…彼女たちの下腹部へと嫌でも意識が向いてしまう…
――絶対に奪われるものか!
「あ💓」
「あん💓」
「――お前たちは僕のモノだ。絶対に他の奴らに渡したりはしない。今日から毎晩抱いて僕の色に染める。いいな?」
「ふふ…うん💓」
「あ、そんな強くお尻を…ん💓」
僕は彼女たちを両腕で抱き上げると、そのまま自室へと連れ込み、たっぷり愛情を注ぐことにした。
キングサイズのベッドの上には今、二人の美女が並んで寝転がっている。倒れた時に寝間着の紐が解けたのか、胸元が開かれて柔らかな肌が見え隠れする。
「…あは」
「…ふふ」
蠱惑的な視線を向けて、口元に笑みを浮かべるシルフィアとフィリエル。
「リューク💓…私のことめちゃくちゃにして💓」
「リューク様…好きです💓いっぱい愛してください💓」
「僕も愛してる。大好きだ」
そんな君たちをこれから他の男に抱かせる。その想いが僕に妙な興奮を抱かせた。
「…」
「…」
「…」
「…💓」
「…💓」
「…ねえ…リューク、私に命令して欲しいな」
「……」
「…え?…ん💓……あんッ!!!!!!!!!!!」
「す、すごいシルフィア…え、私も、ですか…はい💓…あ、まってそれ………!!!!!!!!!!!!!!」
「…💓」
「…💓」
「…」
「…」
「…」
「…💓」
「…💓…💓💓」
「…?…もしかして前より…あん💓」
「…う、うん。やっぱり前より大きく…ん💓」
「…」
「…」
「…好き💓」
「…好きです💓」
――はあ、はあ。なんだか今夜は凄かったな。
というか、前よりも体力がついているような…まあ加護が発動しているとはいえ、戦場で戦っているわけだからな。体も鍛えられているのかな?
それにしても、シルフィアには驚かされた。
まさか、間男に抱かれるのが怖いから僕にヤれと命令して欲しいなんて言われるとは。
――リュークに命令されたら、私、頑張れるから、と彼女は言っていた気がする。
シルフィアは確かにエッチで気持ち良くなっているかもしれないが、それはあくまで体の生理現象。体は感じても心では嫌だって言ってたからな。もしかしたら本番になって怖気づいてしまう恐れがあったようだ。まさか僕が命令するだけであんなふうになるだなんて…彼女の新しい一面を知ってしまった。
…シルフィアはドMだったのだろうか?ふむ、わからん。
そしてフィリエル。彼女は、その、喜んでもらえたと思う。それは間違いない。致している最中、彼女はとても幸せそうに見えた。ただなんというか、そう、寝取られることに対してそれほど抵抗感を持っていないようにも思われる。
…大丈夫なのか?まあ、ある意味大丈夫といえば大丈夫なのだろう。彼女場合、なんといか、マッサージでも受けるような感覚で寝取られているのかもしれない。
だからシルフィアと比較するとフィリエルの方がストレスは少ないのかも。
そっか。きっとフィリエルの相手をした間男は良い人だったんだろうな。…ふざけんな!間男に善人もクソもあるか!
「すー、すー」
「すぅ…すぅ…」
よほど疲れたのだろう。全身汗だくで肌をテカテカにしている彼女たち。青い月明かりを浴びて寝ている彼女たちはすっかり熟睡している。
ただその安らかに寝ている顔はとても可愛く、なんとしてでも彼女たちを守りたいという気持ちをいっそう強く抱いた。
――がちゃ。扉が開く音がする。誰か部屋に入ってきた。
「リューク?」
「うん?ルワナか…どうした?」
忍び足で音をたてないよう、ゆっくりと扉を閉めてからルワナがベッドルームへとやってきた。
「その…シルフィアと約束したんだ…リュークが戦場に行くまでの間、シルフィアとフィリエルがリュークの夜の相手をするって…」
それは…あの時かな?シルフィアがなにかルワナに小さい声で囁いていたのだが、なるほど、そんなことを言っていたのか。
まあ確かに褒められたことではない。ただ、これは遊びではないのだ。
魔族との戦闘においてシルフィアとフィリエルの協力は必須だ。いくらルワナが可愛いからといって、二人をぞんざいに扱うわけにもいかない。
ルワナには悪いとは思う。だが、シルフィアがルワナより自分を優先して欲しいと言うのであれば、僕はシルフィアを優先するしかな…
「ボク…我慢できなくなっちゃって。…みんな終わった後でいい。だから、ボクもリュークとエッチなこと、したい…ダメかな?」
上目遣いにこちらを見つめてくるルワナ。彼女は頬を赤く染め、目を潤わせながら僕に熱っぽい視線を送る。
…冷静に考えたら、二人抱くのも三人抱くのもそんなに違いはないような気がするな。
もちろんシルフィアとフィリエルを優先したいという気持ちはある。だからこそ最初に二人を抱く。その後、二人が眠った後にルワナを抱く分には問題は何もないように感じられた
ただ僕が頑張れば良い。それだけの話じゃないか。
幸い。何度も戦場に出て行ったおかげか、今の僕はかなり体力がついている。ルワナの相手だってまだまだいける。幼少のころよりちゃんと体を鍛えておいてよかった!
「あ、ごめん、やっぱりこんな抜け駆けみたいなことダメだよね…」
「ルワナ」
「うん、ボク戻るね。ごめんね。えへへ…」
「おいで」
「え?いいの?」
僕はベッドからおりてルワナに近寄ると、彼女の体をそっと抱き寄せる。腕の中にすっぽりおさまるルワナの柔らかい金髪を撫でると、甘い香りが漂ってきてなんだか力が湧いてくる。
「僕が抱きたいと思った。もしもシルフィアに何か言われたら、僕のせいにすると良い」
「だ、ダメだよそんなの…ううん。大丈夫、その時はちゃんと私から誘ったって言うから。リューク、ボク、好きだよ💓」
「僕もだ。愛してる」
僕はルワナにそっとキスすると、そのままベッドに押し倒す。
彼女の寝間着の紐をそっと引っ張ると、スルスルと帯が落ちてルワナの体の全貌が露になった。
張りのある健康的な美少女の体。月の青白い光が照らすその姿を見て、再びやる気が充実する。
「…ん💓」
彼女の柔らかなおへそに手をおくと、なんだかくすぐったいような顔をした。
「リューク、いっぱい愛して」
「ああ、任せてくれ」
「…」
「…」
「…💓」
「…💓💓」
「…好き💓」
「…」
「…」
「…ふわあ、あれ?まだ夜…なんか騒がしい…え!なんでルワナがここに…、ちょ、まってリューク、いいからやめなさ…ん💓」
「…え?リューク?それ、シルフィアだよ?…あん💓」
「ちょ、待ってリューク、私怒って…ん💓」
「……リューク、ボク、それはダメだよ💓」
「…」
「……もうダメ…もっとして💓」
「…いいな。ボクもあれして欲しい…え、やった💓」
「…」
「…」
「…」
「さっきはごめんね、ルワナ」
「…ボクこそごめんね、約束破っちゃって…え?」
「そ、そうして欲しいの?…もうリュークってば、変態なんだから💓」
「…」
「…」
「…」
「…リューク、好き💓」
「…好きだよ、リューク💓」
……そして夜は更けていく。
翌朝。シルフィアとルワナの仲が良くなった。
――■ミルアド・ドウラン国境沿い
その日。ドウラン国を支配する魔族軍よりミルアドを支配する魔族軍へ向けて魔族の使者たちが馬車を走らせていた。
本来であればもっと早くお互いに情報のやり取りをするべきだったのだが、彼らを統率する魔王ギュレイドスが滅んだことで魔族軍の組織網が乱れ、それぞれの意思を統一するまでに時間がかかった。
もともと共同体としての意識が薄い魔族たちにとって、魔王という強者の存在こそが彼らをまとまりのある集団に変えさせていた。
その魔王がいなくなったことで、今度は誰に従うのか、ギュレイドスの代わりは誰が務めるのかで元ギュレイドス軍の幹部たちはそれぞれの部下たちと会議という名の口論を始め、揉めに揉めていたのだ。
会議は荒れ、時には拳が飛び、血が出るような事態になりつつも、ようやく一つの結論が出始めていた。
それぞれの幹部が独立すればいい。ギュレイドスという旗が無くなった今、他の幹部の顔色を伺う必要はない。
幹部同士で意見の交換など一切していないにも関わらず、幹部たちはみな、同じ結論へと辿り着いたのだった。
確かにまだ人類軍は残っており、魔王を斃した存在は脅威ではある。しかし、だからといって自分よりも弱い幹部に従うつもりもない。
魔王ギュレイドスと違って、幹部の力は横並び。基本的にそこまでの戦力差はない。しかし、幹部たちは自分こそが魔王の次の強者だと考えており、他の幹部は自分より弱いと考えていた。
もちろん、いくら相手の方が弱いといえど、戦えばそれなりの損耗はあるだろう。たとえ勝っても部下がいなくなってしまっては意味がないし、その状態で他の幹部に攻められたら負けてしまう恐れがある。
それならば、拮抗状態にするのが一番かもしれない。
せっかく土地と街が手に入った今、わざわざリスクを犯してまで幹部たちにケンカを売るつもりもなかった。たとえ相手が嫌な相手だとしても、だ。
だからこそのギュレイドス軍の解体であり、それぞれの幹部が独立して国を支配するという空気がだんだんと醸成されていった。
いつしか魔族の軍人たちは街中に居を構えるようになり、そこで生活。中には商売を始める者も出始め、魔族の街として機能し始めていた。
今後は独立して街を支配する以上、それなりのルールは必要だった。魔族としては既に人類との戦いは終わり、今後は平和的に街を運営するつもりだったのだろう。
そのためにはお互いを牽制しつつも国を運営しなければならない。
国を運営するには周囲の国との交易を開く必要もある。そのための使者を送って国交を成すためのやり取りをする――そのつもりでドウランを支配する魔族軍幹部はミルアドに向けて使者を送った。
今回は交易が目的ということもあってか戦力は持たず、あくまで平和的にに交渉を進める。そのための使者たちの馬車がこれからミルアドの国境を越える、というまさにその時。
「うん?なんだあれ?」
ドウランの魔族たちを乗せる馬車は、わざわざサイズのデカい魔族に合わせて作られた特注の荷馬車で、屋根がない。少しでも軽量化をはかるための措置だったわけなのだが、そのせいで外から馬車の様子が丸見えだったりする。
そんな馬車の前方に人影がいる。それは短槍の歩兵部隊。横一列に陣を組むその歩兵部隊が国境のすぐ近くに配置されていた。
一瞬、人類軍かと思ったが、よく見れば背後に魔族がいたので、ミルアドの魔族の部隊、それも奴隷兵たちの部隊なのだろうと馬車の魔族は納得する。
だからこそ、特に警戒もすることなく馬車は進んでいく。やがて魔族の使者たちが乗る馬車が横陣の歩兵部隊の近くまで寄り始めると…
「撃て!」
ババババンッ!
その号令とともに爆発音が連続して発生。強烈な火薬の匂いと黒煙が空気を濁す。そして…
「ぐは!」
「ぎゃ!」
「なんだ、ぐあ!」
それは一瞬の出来事だった。
横一列に並ぶ短槍の歩兵部隊。そんな部隊が持つ短槍の先端が突然火を噴いたかと思ったら、馬車に乗っていた魔族たちが何かにぶつかったような衝撃を受けて後ろへとバタバタと倒れた。
もっとも全員が倒れたわけではない。なかには無傷の魔族もいる。
「第二陣、弾を込めろ!…撃て!」
「や、やばい逃げろ…うぎゃあ!」
「なんなんだよ!なにが起きてうがあ!」
「て、敵だ!敵襲!今すぐ引き返せうが!」
今回は使者であるため馬車の数が少ないこと。なによりまったく警戒もせずに近づいたことで、魔族の使者たちは次々と小銃の餌食となって倒れていった。
「…掃討完了しました」
「よし、魔族どもの首を切り落として馬車に載せろ。おっと、ついでにこのミルアドの魔族軍の軍旗を掲げておけ」
「幻影魔法は解いていいぞ」
「ハッ!」
指揮官の命令されると、今まで背後に控えていた魔族の集団がまるで淡い霞のように幻となって消えていった。
「よし、首も積み終わったな。では行け!」
人類軍の指揮官が馬の尻を叩くと、やがて馬は魔族の頭を載せた荷馬車を引っ張ってトコトコと歩いて今まで来た道を引き返していった。
数日後。
ドウラン国の国境内で使者として出立した魔族たちの頭を載せた馬車が見つかり、魔族軍は激怒。ミルアド国の魔族軍の仕業と考え、派兵を決定する。
それと同じようなことが教国でも起こる。
二つの魔族軍勢がミルアドへの進軍を開始した。
三国を支配していた魔族軍が一ヶ所に集まる。
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