第29話 覚悟の証
――夜。窓の外を見ればすっかり暗くなっており、月明かりが差し込んでいる。
室内には今、僕とシルフィア、そしてフィリエルの三人がいる。
そしてシルフィアは云う。
――もしも自分を選ばないなら他の男に抱かれに行く、と。
…なんで?
…なぜに?
…どうしてそんなことに?
いやいやいやいや…だっておかしいじゃん。それは違うじゃん。
僕が他の女性を抱くのも、そして君が他の男に抱かれるのも、すべては魔族から人類を救うため、いってみれば生きるために仕方なくやっていることだよね?
でもこれは、明らかに違う。魔族との戦いとまったく関係ない色事だ。
僕だけに聞こえるようにそっと耳元で囁くシルフィア。そんな僕らを遠巻きに見ているフィリエル。彼女だけが会話を聞いておらず、不思議そうな顔で僕らを見つめている。
シルフィアの口元が薄く嗤う。
「選んで欲しいな、リューク…でないと私、おかしくなっちゃうかも」
「それは…どういうことかな?」
「あの、リューク様、シルフィアさんとなにを話されているのです?」
シルフィアは僕に体を密着させ、僕の背中に手をまわし、そして吐息が耳に届くほどに接近している。
まるで自分だけが蚊帳の外といわんばかりの状況にフィリエルはなんだか不安そうな顔をしていた。
「ご、ごめん、ちょっと待ってて欲しい」
「だっておかしいじゃない、リューク」
シルフィアはフィリエルに聞こえないように、小言で僕に囁く。
「私はもう故郷なんて無いのに、その女だけ取り戻せる…不公平すぎて嫌になるわね。でもいいの。リュークが傍にいてくれるなら、私、どんな理不尽も耐えられるから。でもね、リュークがいなくなったら私…」
――私の世界が壊れちゃうの、とシルフィアは囁く。
「リュークはね、今の私にとって全てなの。土地も家族も全部奪われちゃった私にとって、思い出しかない私にとって、リュークが最後まで残った私の世界そのもの。だからね、私にとって世界を守るってのは、リュークを守ることなんだよ?」
――私、耐えれるよ?とシルフィアは囁き続ける。
「いいじゃない、私だけでも。大丈夫、私はリュークが大好きだから、たとえたくさんの男に抱かれたとしても、絶対にリュークを忘れないよ?でも、リュークが私を見捨てるなら、もう世界なんていらない。壊れればいい。だからお願い、ちゃんと私のこと、愛してほしいの」
それが本音なのだろか?
ルクス王子の前ではもっと人手が必要と言っていた。きっとそれはそれでシルフィアの本音なのだろう。
でも今の言葉も本音なのだろう。大切なものをすべて失ってしまったシルフィアにとって、これ以上なにかを失うことは耐えられないほどの苦痛で、それならばいっそ壊しても構わない、そんなふうに考えているのかもしれない。
「フィリエルさん」
とシルフィアは僕の耳元から顔を離すと、フィリエルの方を向いて言う。
「確かに今のあなたと私は立場的には対等かも。でもね、気持ちだけなら私の方がずっとリュークのこと愛してるの。だから、しばらく我慢して欲しいかしら?」
「そ、そんなの勝手です!確かに私はまだリューク様と知り合って日が浅いですけど、気持ちなら私だって負けてません!」
シルフィア?一体なぜそんな挑発を?
そんな言い方をするもんだからフィリエルもなんだかムキになって僕に迫ってくる。そしてシルフィアとは反対側から僕の体に抱きついてきた。
「リューク様、私を選んでください」
「リューク、私を選んでね……でないとわかってるよね?」
「し、シルフィアさん、事情は知りませんけど、それ脅迫ですよ!」
流石にこれだけ密着していたら声が届くよな。
二人の美女の感触に、嫌でも僕の体が興奮していく。二人の柔らかい女の体の感触が伝わってきて、血液が沸騰しそうな勢いでどくどくと体内をめぐっている。
女の子の甘い香りが僕の鼻腔を刺激する。彼女たちの柔らかい胸の感触が服越しに伝わり、その甘い誘惑に理性が振り切れそうだ。
長く綺麗な赤い髪をしているシルフィア。
ショートカットの黒髪のメイドのフィリエル。
どちらも凄い美女だ。しかし抱けるのは一人だけ。しかもシルフィアに関しては選ばないと寝取られてしまう。
なんで、なんでこんなことに?
「リューク、好き」
「リューク様、好きです」
「二人とも…僕は…」
どうしたらいい?僕はどうするのが正解なんだ?
「リューク様、仰いましたよね?私のこと、愛してるって。その言葉を信じたから、だから身も心も捧げたんです。あの言葉、嘘じゃないですよね?」
今にもキスできそうな間近で、フィリエルは訴えかける。
「フィリエル、僕は…」
「もしもリューク様に裏切られたら私、耐えられません。そこにある刃物で…いえなんでもありません」
え?僕、殺されるの?選ばないと殺される?
というより何故あんな場所に刃物が?あれは果物用のナイフか…そういえばさっき、フィリエルがリンゴを剥いてあげますとか言っていたような…なんでリンゴもないのにナイフを持っているのか不思議だったが、なるほど、こういう時のための方便だったか。
「でも大丈夫ですよね?私、リューク様が選んでくれるって信じてますから」
「違うよね、リューク…私だよね。というか、フィリエルさんはいつでも抱けるのだから、今度でいいじゃない。別に私、あなたがリュークとエッチしちゃダメなんて言ってませんよ?ただ今だけは我慢して欲しい、そう言ってるだけですよ?」
「う、嘘です。目を見ればわかります。今日を逃したら、その後もなにかと理由をつけて私とリューク様がエッチできないように難癖つけるつもりですよね!」
「ふふ…」
シルフィア、なぜ否定しない?え、まさか本当にそうするつもりだったの?
そんなことしたら、まるでフィリエルを騙して寝取らせたみたいな感じになっちゃうじゃないか。それはマズイよ。
いや、もちろんキッカケはフィリエルに加護の協力を求める、つまりフィリエルを利用することだったのかもしれない。
しかし、今の僕の心には確かにフィリエルに対する愛情もある。だから、そんな利用するみたいなマネはできない。…まあ結果的に利用するみたいな感じになるかもしれないが。
でも違うのだ。あくまで結果的に利用するたみたいな形になるだけで、本音では利用するつもりなんて微塵も無いから!
まあ、それはともかく、なんというか、お互いに引く気がないというのはわかった。
ならば、僕がなんとかするしかないのだろう。
シルフィアの魂胆は、おそらくわかった、気がする。
魔族との戦いに勝利するためには、どうしてもシルフィア一人では足りない。だから協力者を求める意思はあるのだろう。
しかし、同時に彼女は僕のことを独占したがっているようにも見えた。
だから、一回は我慢したのかもしれない。フィリエルが僕に抱かれる一回は、仕方のないことだと受け入れたのかもしれない。
しかし、二回目を許すつもりは無いのだろう。利用するだけ利用する、そういうつもりだったのかもしれない。
…それは他の人からすれば、なかなか悪どいやり方なのかもしれない。しかし、僕は彼女を許したい。だって好きだし。
しかし、許すからといって彼女だけを選択するというわけにはいかない。
今の僕に、どちらかを選び、もう一方を切り捨てるなんて、そんなマネはできない。なぜなら僕は、覚悟を決めたからだ。すべての女性を愛するという覚悟を。
「シルフィア…」
「なに、リューク…あ💓」
「フィリエル…」
「リューク様?…ん💓」
僕は今まで空に浮かんでいた両手をそっとおろし、そのまま彼女たちのお尻を掴む。うむ、二人とも凄く柔らかく、形の良いお尻をしてるな。
「ふふ、私を選んでくれた…」
「えへ、私を選んでくれた…」
「「え?」」
二人の声が重なる。
そもそも何故こんな事態に陥ったのか、きっとそれはシルフィアとフィリエルが性なる事に関する知識をあまり有していないからだろう。
だが、僕は知っている。別にエッチなことは一対一でないといけないなんて決まりは無いことを。そして彼女たちに告げる。
「君たちはなにを勘違いしてるんだ?僕は言ったはずだよ?すべての女性を愛すると」
「え?う、うん、でも愛し合えるのは一人だけでしょ?」
「ふふ、シルフィア。それは違うよ。この広いベッドを見なよ。三人ぐらい、余裕で寝れるよ?」
「…え?」
僕はなぜこのベッドがキングサイズなのか、ずっと疑問に思っていた。一人で寝るにしては大きすぎる。しかし、今になってようやくルクス王子の気遣いを理解できた。
これは、そういうことなのだろう。
ルクス王子は切れ者だ。だからきっと前々から気付いたのだろう。加護の能力を十全に発揮させるには女性一人では足りないということに。だったら、ベッドもそれに合わせて大きくしないといけない、そう気付いていたはずなんだ!
「フィリエル、では約束通り、今夜君を抱こう」
「え?いや、あのこれってそういう事じゃ…あん💓」
「シルフィア…君にはどうやらお仕置きが必要みたいだな。覚悟するんだ」
「ちょ、待ってよリューク。これはそういう意味じゃ…ん💓」
ちょうど二人とも僕に体を密着させていたので、抱くにはちょうど良い。僕はがっつり両腕で二人を抱くと、それぞれにキスをする。そして、ベッドに放り投げた。
「きゃッ💓」
「あんッ💓」
「さあ、二人とも、服を脱ぎなさい」
僕は眼下にいる二人に命令する。彼女たちはベッドの上で息を荒くしながら僕を見つめて…
「え、本当にするのですね…わかりました💓」
「もう、手荒ね…はあ、いいわよ、お仕置きして💓」
僕が服を脱いでいくと、それに合わせて彼女たちも服を脱いでいった。パサリと床に服が落ちていき、一枚ずつ脱げるごとに彼女たちの肌が露になっていく。そして最後の一枚が脱ぎ終わり、その柔肌を隠すものがなくなった…
「リューク様💓」
「リューク💓」
キングサイズのベッドの上に、二人の美女がいる。そして僕は二人に覆いかぶさるように抱き、そして…
「……ん💓」
「……あ💓」
「…」
「…そんな、いきなり…」
「…」
「…え?だ、ダメだってリューク…ん💓」
「…」
「…リューク!…!!!!……!!!!!!」
「…………💓」
「……!!!!!…………💓」
「………しゅごい…💓」
「…シルフィアさん、すごい顔…」
「…」
「…」
「…」
「…はあ…はあ…はあ…ごめんなしゃいリューク、ゆるして…ん💓」
「…」
「…あの、次は私…あ💓」
「…」
「……」
「………!!!!!」
「!!!!………!!!!……」
「…」
「………」
「…………💓」
「…さっきはごめんね、フィリエル……ん💓」
「…いえ、私の方こそ…あん💓…ごめんなさい、シルフィアさん」
「もう、これからはシルフィアって呼んで…あん💓、もうリューク、今話して…あ💓ん💓」
「……」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…💓…💓…💓…💓…💓」
「……………💓💓💓💓」
「………」
「……」
「…」
「…はあ、…はあ、リューク、大好き💓」
「……はあ、…はあ…リューク様、好きです💓」
…
…
…
そして全てが終わった時。なんだかベッドの上が大変なことになっていたが、僕らはみんな仲良くなれた。
「す、すごい💓…でも、もう無理です…Zzzz…」
「私も無理💓。はあ、はあ、リューク、なんだか前より凄くなってない?」
え、そうかな?自分ではよくわからないが、まあ本人がそう言うならそうなのかもしれない。
よほど疲れたのだろう。フィリエルは僕の左腕にその頭を預けて眠ってしまった。ちょっと前までは綺麗な顔をしていたのに、今では髪が乱れ、全身は汗だくで、肌はなんかの液体で光沢を帯びている。
彼女が呼吸をする度にその柔らかそうな胸が揺れ、なんだか愛おしく感じた。
そして右腕には現在、シルフィアがいる。
彼女もなんだか疲れて汗だくだ。しかしその表情はどこか晴れやかでスッキリしているように見えた。
「ふふ、リュークは凄いね」
フィリエルを起こさないように配慮しているのか、そっと耳元で囁く。彼女も全身が汗だくで、あの綺麗な赤い髪が大いに乱れている。そんなシルフィアがぎゅっと僕に抱きついてくるもんだから、彼女の肌が直接触れ合って、終わったばかりなのに再び興奮しそうな勢いだった。
「これでフィリエルはもう安心だね」
「うん?あ、やっぱりさっきのって演技だった?」
「ふふ、半分はね」
と含みのある笑みを浮かべるシルフィア。ふむ、やっぱり半分は本気だったか。
一応、先ほどさんざんシルフィアにはお仕置きをしたのでもうさっきみたいな不貞を匂わせるようなことはしないと思うのだが、それでも確認しておきたかった。
「シルフィア、君は…」
「大丈夫、私は浮気なんてしないよ」
と優しい笑みを浮かべるシルフィア。
ふう、よかった。
「いくらあっちの方が気持ち良かったからって、リュークを裏切ったりしないよ」
…今なんて言った?
ドクン。せっかく収まりかけていた心臓の鼓動が再び脈動を始める。
「うん?どうかした?」
「いや、あの、だからその、…気持ち良かったってどういうこと?」
「うん?そのままの意味だよ…ああ、そういえば言ってなかったね」
シルフィアはなんだか意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「私を抱いたあの人ね、エッチは凄く上手だったから、気持ち良さではリュークより上かもしれないね」
「な!」
え、いや、ちょっと待ってよ。だってシルフィア、あの時…
「でも安心して。私を幸せな気分にできるのはリュークだけだから。それにリューク、前よりうまくなってるし、きっともうすぐあの人より上手になれるよ…それに幸せなエッチはリュークが一番だから大丈夫。ただ、気持ち良いエッチはあっちの方が上だった、それだけだよ。ふわあ、全部解決したら気が抜けちゃった…私も寝るね」
「いや、ちょっと待ってシルフィア!今の話ってどういうこと?」
「う~ん、もうなに?ああ、エッチの気持ち良さの話?う~ん、わかりやすく言えば、料理の腕前は間男の方が上だったけど、愛情のある料理ならリュークの方が上だってことだよ。じゃあもういい?私、すごく眠くて」
「え!…えッ!!いやいや、待ってよ!それってつまり…感じてたってこと?」
「それは前も言ったよね?仕方ないよ、リューク。だって感じるのは生理現象だもの。私だって好きで感じてるわけじゃないんだよ?そういう体の仕組みだと思って理解してね。じゃ、おやすみ……そうだ、最後に一言だけ。あの人ね、王宮のパーティーにいたよ…ふわあ、眠い…Zzzzz」
それだけ言い残すと、シルフィアは目を閉じて眠りに落ちていった。
…ちょっと待ってよ。なに君たちだけ全部解決したみたいな顔してんの?なにも解決してないんだけど!むしろ最後の最後でとんでもない劇物残してるじゃないか!
い、いたのか?あの中に、間男がいたのか!一体誰なんだ!
僕のそんな内心の動揺など気にせず、シルフィアは僕の腕の中ですやすやと安眠している。
僕が大好きなシルフィア。シルフィアも僕のことを愛してくれている。しかし、彼女は確かに言った。エッチの気持ち良さはあちらの方が上だった、そしてそいつは王宮にいたとも彼女は言った。
でも、愛情のあるエッチなら僕の方が上だと言っていた。…それはそれでいい。いや、よくはない、よくないが、大丈夫、まだ飲み込める、耐えれるから。ただ問題は…
シルフィアのこの綺麗な白い肌。それを触れた男は、王宮にいたらしいその男は、僕よりも、気持ち良いエッチをした……それはどうしようもないほど間違いのない事実だと、彼女自身が今、告白したのだ。
あ、ああ、あああああああああああ!
頭が、頭が割れるように痛い!ぐ、なんなんだ、この痛みは!ぐあああああ!
できれば叫びたい。思いっきり叫んでこの苦痛を外に吐き出したい。しかし今、両腕にはシルフィアとフィリエルが安眠している。彼女たちを起こすわけにはいかず、僕は必死に苦痛に耐えていた。
だ、大丈夫、なのか?僕はこんな心理状態の中で、ランバールを取り戻せるのか?
どうしようもなく不安な戦いが始まろうとしていた。
なんなのだ、この苦しみは?これが魔王を斃すことの代償とでも言うのか?あんまりじゃないか!こんな加護は、本当ならば使いたくなかった。しかし、魔族が侵略などしたから、そのせいで使わざるを得ない。
くっそ!おのれ魔族どもめ!お前らのせいでシルフィアが、シルフィアが、僕以外の男のアレで気持ちよくなっちまったじゃねえか!絶対許さないぞ!
地獄を、見せてやる。魔族どもは一匹残らず殲滅だ!
――不安でしょうがない。魔族に負けることが、ではない。もしかしたら次の戦いでシルフィアが堕とされるかもしれない。そんな不安で心が張り裂けそうだった。
こんな辛い想いをさせる魔族に対する憎しみをバネに、僕は苦痛に耐えるのであった。
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