第24話 奪還のプラン

「――それでは、現在はナルシッサ様のために兵を集めているということですか?」


 屋敷の僕の寝室。光り輝く魔水晶が明るく室内を照らしている。そんな室内のベッドの端に座る僕とフィリエル。


 現在、僕の部屋にやって来たフィリエルに今の状況をできるだけ正確に伝えることにした。


 本人としてはもっと色っぽい話をするつもりだったようで、僕が真面目な話しをするとフィリエルは当初こそきょとんとした顔をしたものの、我に返ると一瞬だけ恥ずかしそうな顔をしつつもすぐに仕事モードの冷静な顔付きに戻して僕の話しを聞いていた。


 ただ、隣に座る彼女からなんだか甘い香りと石鹸の匂いがするのだが、もしかしてお風呂に入ってきたのか?


 メイドといってもフィリエルはあくまでナルシッサのメイドであって、この屋敷においてフィリエルも一応はゲスト扱いとされている。


 だから彼女がお風呂に入るのは問題ない。しかし、それってもしかして…そういうつもりがあったということなのだろうか?


 どくん。


 いかん。そう思うと急にこちらもフィリエルのことを女として意識してしまう。彼女の柔らかく、それでいて女っぽい体つきがとても艶めかしく感じられた。


 くびれのある腰。メイド用のエプロンドレスを盛り上げる大きな胸。そしてベッドに深々と埋まる彼女の大きなお尻。


 そんな女性らしい体が僕を…


「それでは…リューク様?」


「うん?あ、ごめん、どうかしました?」


 いかんいかん。ついフィリエルの大きな胸とお尻を見てしまっていた。ちゃんと真面目に話さないと。


「えっと、そうですね。では当日はその軍を率いてランバールに攻め込むということでしょうか?」


「まあ、そうなりますね」


 といってもあくまで戦力としてはほとんど数えておらず、あくまでランバールの軍が命をかけて戦ったという実績が欲しいだけだったりする。


 そうでないといくらカルゴアとランバールとの間に密約があったとしても周囲は納得しないだろう。


 今回のランバールへの侵攻にあたり、領土獲得を目論んでいる人間はなにも海外の王侯貴族だけではない。カルゴアの国内貴族もしかりだ。


 分割統治というが、あくまで現状において大まかに領土を分割すると決めているだけで、まだ具体的に誰がどこの地域を治めるかまでは決めていないのだろう。決めるのは、全てが終わった後。その決め方は、誰がどのぐらい戦果に貢献したのか…


 それこそ、武勲に応じて決めるのだろう。


 ルクス王子が言うには、魔王を斃した僕にもそれ相応の論功行賞があるとのことだ。もっとも今は忙しくてそれどころではないのだろうが。


 いくら元々はランバールの王が支配する国だったといっても、今は魔族が支配している。昔は昔、今は今だ。いくら魔族は人種ではないからといって、他の国の軍隊がランバールを奪えば、その土地はその奪い取った国のものになる。当然、いくら主張したところでナルシッサに返してくれるわけがない。


 ナルシッサがランバールを取り戻そうと思うのならば、やはり自国の軍隊を出すしかない。


 結局のところ、主義主張などどうでもいいのだ。本当に欲しいなら力づくで奪い取るしかない。


「――言い分はわかりました。ですが、そんな小隊規模の戦力で領土を取り戻せるほどの戦果が上げられるのでしょうか?」


 と疑問を呈するフィリエル。


 まあ、そうなるよね。普通ならば無理だ。ならば、普通ではない方法を採用するしかない。


「フィリエル。目の前にいるだろ?たった一人で戦果を上げられる人間が」


「え?で、でもそれってまさか…」


「当日になったらランバールの軍に強力な助っ人がくる。その人がきっと戦果を上げてくれるよ」


「そ、そうなのですね。えっと、それはどこのどなたのか、聞いてはダメなのですね?」


「え?ああ、うん。そうだね」


 カルゴアの兵士が他国の軍人として行動するなんて本来はあり得ないからな。なによりそんなことしたらカルゴアとランバールとの間に密約があることがバレてしまう。


 だから、うん、内緒だよね。僕がランバールの軍に加入して戦果を上げるなんて、絶対に言っちゃダメだぞ!


「…す、すごい…でも、やはり全部は難しいのですね」


 僕の話を目を輝かせるフィリエル。しかし、ここまでやったところでランバールの領土をすべて取り戻すことは不可能という考えに至ったのか、目を伏せて肩を落とす。


「…そうだね。僕も手を尽くしたんだけど、やはり全部を取り戻すのはできなさそうだね」


 もっとも本当に手を尽くしたのはルクス王子なのだが。


 しかし僕のそんな本音など知らないであろう、フィリエルは僕が全部やったものだと信じ、感謝してくれている。…ありがとうルクス王子。あなたの頑張りは忘れません。


 やがて何かを振り切るように首を振ると、「大丈夫です」とフィリエルは言う。


「本当はもう無理だろうと諦めていました。でもナルシッサ様を悲しませたくないから、あの方は諦めていないから、私も陛下のために気丈に振る舞って耐えてきました」


 フィリエルは続ける。


「でも、どんなに耐えたところでやっぱり限界があります。正直、疲れ始めていました。諦めた方が楽になれる、早く諦めてほしい、そんなふうに心の中で願ったこともあります。ふふ、ダメなメイドですね」


「…でも諦めなかったでしょ?」


「だとしたら、それは陛下のおかげです。まだ子供だから、諦めることを知らないのかもしれませんね。ですが、本当は悲しくて、泣きたいのに、それでも必死に我慢して頑張るナルシッサ様を見ていたら、どんなに辛くても頑張るしかないじゃないですか…」


 ――本当に、諦めないで、よかった…と切実な顔をしてフィリエルは独白する。


「リューク様、信じていいのですね?本当にランバールに帰れる。故郷に戻れるのですね?」


「ええ、約束しますよ」


「でも、こんなのおかしいです」


 嬉しいのか、それとも悲しいのか、フィリエルは瞳に涙を浮かべながら笑顔を浮かべ、なんだか感情が乱れている。


「話しが上手すぎます。騙されてるとしか思えない。でも縋りたい。こんな甘い話、信じるなんてバカげてる。でも信じたい。でも信じられないんです。だって、も、もしあなたのことを信じて、捧げて、それで朝になって本当は全部嘘だって言われたら、私、……もう耐えられない。これ以上はもう耐えられないんです。壊れてしまうかもしれない…」


 ――それが怖いです、とフィリエルは云う。


「こんなに嬉しいことはありません。絶対に無理だって思ってたのに、それがこんなにも簡単に手に入るだなんて、おかしいですよ。だって、だって…」


「フィリエル、君はもう苦労なら十分したでしょ?報われたっていいと思うよ?」


「ち、違います。わ、私より苦労してるのに、それでも報われない人がたくさんいるじゃないですか。そういう人たちを差し置いて、私たちだけ、幸せになっても良いのでしょうか?」


 もしかして罪悪感を抱いているのだろか?


 確かに、今の世界の状況は悲惨だ。地獄といってもいい。フィリエルたちは確かに苦労しているかもしれない。しかし、彼女たちよりも不幸な境遇に喘ぐ人もまだ大勢いるだろう。


 きっとフィリエルは優しい人なのだろう。そんな彼女のことを僕は、守ってあげたくなった。


「フィリエル」


「リューク様…私…あ」


 僕はそっと彼女の腰に手をあて、抱き寄せる。すると彼女の柔らかい体が僕の胸の中に飛び込んでくる。


 僕と彼女。体と体が密着している。衣服越しに彼女の体温が伝わってくる。とくんとくんと彼女の心音さえ聞こえてくる。はあはあと甘い吐息が伝わってくる。


 すぐ目の前にフィリエルの顔がある。濡れた睫毛に、綺麗な瞳、汗に濡れた白い肌。赤く染まる彼女の頬。そして、濡れいてる彼女の唇。


「好きだよ」


「……出会ったばかりですよ?」


「それでも好きだよ」


「私は、伯爵様に釣り合う身分ではありません」


「関係ない。君を幸せにしたい」


「私は、ナルシッサ様の従者です。あの方にこれからも仕えますよ?」


「ええ、もちろん構いませんよ。それでも僕のフィリエルを好きな気持ちに変わりはないので」


「…本当に助けてくれますか?」


「もちろんです」


「なんでですか?」


「好きだからです」


「でも、他にも好きな方がいますよね?シルフィア様とか…」


「ええ。でもフィリエルが好きなのも本当ですよ」


「私だけを愛してはくれないんですね?」


「…でも愛情はたっぷり込めますよ?」


「…ひどい人…なんでこんな人を…」


 すっと彼女は顔を背ける。すると彼女の白い首筋が眼前に見える。そんな彼女の首筋に口づけした。


「…ん💓。もう酷いです」


「嫌でした?」


「…もう、ズルいです」


 とくん、とくん。彼女から伝わる心音が、だんだん早く、そして激しくなっている。


「もう、言い訳が思い浮かびません」


「そうですか?早く言い訳しないと、フィリエルのこと、もらっちゃいますよ?」


 フィリエルは再び僕の方を見る。彼女のうるうると濡れいてる瞳がまっすぐに僕を見つめてくる。


「あなたのものになったら、私の…私たちのこと、ずっと守ってくれますか?」


「もちろんですよ。必ず幸せにします」


「本当ですか?」


「ええ、僕は約束は守りますよ。知ってますよね?」


 とくん、とくん、とくん、フィリエルの心音がますます激しくなる。抱きしめる彼女の体温はますます上昇し、彼女の体が熱く、汗で湿っぽくなる。


「こ、怖いです」


「…」


「もしも今夜、あなたに抱かれて、その後捨てられたら、それを思うと怖いです。もしもそんなことになったら私、あなたのことを刺し殺してしまうかもしれません。そんな女でも良いのですか?」


 …急にとんでもない告白きたな。


「体だけ抱いて、その対価として国を救う。それでいいじゃないですか?私はそれで構いません」


「言ったはずですよ?それだと困るって。それだとフィリエルの心が手に入らないじゃないですか。フィリエル、君が欲しい。体だけじゃない、君の全部が欲しいんだ」


 ごくりと、フィリエルが唾を飲み込む音がする。目を丸くし、僕の方を瞠目する。


「だ、ダメです。も、もうダメですよ…リューク様が…悪いんですから…私は抱くだけで…いいって…ちゃんと言ったのに…それなのにそんな甘いことをいうリューク様が悪いんですからね!」


 たどたどしく、それでいて感情的に言葉を吐くフィリエル。いつの間にか僕の背中に手を回し、彼女は僕のことを強く抱きしめていた。


 そして彼女は声を震わせながらも言う。


「フィリエルは今、あなたのモノになりました。好きです。もう離したくない。ずっと私のこと守ってください」


「いいよ、フィリエル、今から君は僕のものだよ」


「はい。リューク様…」


 フィリエルはメイド服の紐を解き、ボタンを外す。すると彼女の服の下に眠っていた胸がたわわに飛び出した。


 ぱさり、と服が落ちる音がする。やがて彼女の綺麗な裸身が視界におさまった。


「私、初めてです。教えてもらえますか?」


 僕はフィリエルの顎をあげてキスをする。


「あ💓」


「フィリエル、愛してる」


「私も愛してます、リューク様…ん💓」


 そして僕はフィリエルをベッドの上に押し倒し、そして…


「…ん💓」

「…」

「…ん💓…💓…もっと💓…」

「…」

「…」

「…あ💓」

「…」

「…」

「…ん💓…んんッ!…あ💓」

「…」

「…」

「…すき💓」

「……」

「こ、こんなに凄いんですね…」

「…」

「…」

「……え?」

「…」

「!!!!!!!!!!!………………💓」

「……」

「…」

「………💓」

「……」

「りゅ、リューク様…次は私が…」

「……」

「…」

「………」

「………好き💓」

「……」

「わ、私がお掃除しますね💓」

「…」


 僕らは愛し合った。最初は僕にされるがままだったフィリエル。しかしだんだん慣れてきたのか、汗だくになりながらもその大きなお尻を振って僕のためにフィリエルは頑張ってくれた。


「あ…ん💓…はあ、はあ、リューク様、もう無理です」


「…少し休もうか…フィリエル、おいで」


「はい」


 一体どれだけ時間が経ったのだろう。まだ窓の外は暗く、月明かりが差し込んでいる。


 そんな青白い月の光を浴びているフィリエルは僕の腕の中で、髪を乱し、汗に皮膚を濡らしながらも、僕の腕の中で呼吸をはあはあと乱しながらも、満ち足りた笑みを浮かべている。


 ついに、フィリエルと結ばれた。僕の中で確かに、彼女に対する愛情が芽生えている。


 彼女を守りたい。どんな手を使ってでも守りたい。そして…


 もしも彼女に手を出す男がいたらぶっ殺してやりたい、そんな黒い感情が確かに生じていた。


 確証はない。しかし、加護の条件を達成したことを脳内で感じ取っていた。


「…あ💓」


「ご、ごめん…」


「い、いえ、いいのです」


 僕の異変に気づいたのか、フィリエルが甘い声をあげる。そして顔を赤くして、濡れた瞳をチラチラと僕の方に向けながら…


「リューク様…あの、もう一度して頂けますか?」


「え?」


「そ、その、また欲しくなっちゃって💓」


「…いいだろう」


 仕事をしている時はあまり感情を出さず、常に冷静な顔をして仕事をするフィリエル。そんな彼女に甘えられたら断れず、このあとめちゃくちゃした。

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