第58話 そういうコトとなりまして:中
冒険者達の間でも、どよめきが起きている。
「ラーナちゃん、大胆は提案をするなぁ……」
「ああ、そうだな。驚いたぜ……」
「それにしても――」
そんな中で、幾人かの新人冒険者が周りに尋ねる。
「……魔王軍って、何?」
「えっ」
それには、ルイナが思わず反応を示してしまう。
「まぁ、そりゃそうよ」
俺は椅子に背をもたせて、納得するようにうなずく。
「魔王の国とここはそれだけ離れてるんだよ。魔族のことは知ってても、魔王軍のことを知らないヤツなんて、この辺りならザラにいるぜ、ルイナ」
逆に、魔族を知ってるヤツは多いけどな。
この国でも有名な『英雄』が魔族――、しかもルイナと同じノスフェラトゥだ。
「だ――」
軽く周囲を見渡していたルイナが、俺とラーナをキッと見据えてくる。
「だから何だってのさ。こっちじゃ魔王軍の知名度が低かろうと、あっちじゃ今も近隣の国々とバチバチにやり合ってんだよ。人類と魔族の生存競争をさ!」
お、口調が戻った。
お嬢様のときにはやや下がっていた目じりも、きつく鋭いものに変わっている。
「今も言った通り、ラーナのお嬢ちゃんに助けてもらったことには礼を言うさ。でもね、アタシが魔王軍を裏切るなんて、あるはずがないだろ? だってアタシは――」
「栄えある『
堂々と名乗ろうとするルイナだったが、ラーナに先取りされてしまった。
しかし、それにムッとした様子も見せず、ルイナは腕を組む。
「フン、その通りさね。そのアタシが魔王軍に不義理を働くはずがないだろ!」
「「…………」」
俺とラーナは、無言で同じテーブルに座っている他二名に目を向ける。
「あ~、このクッキーおいしいね~。もひとつ、もひとつ~」
「わ~! ミコミコ、食べ過ぎなんだぞ~! それ、あたし様の分~~!」
「「…………」」
俺とラーナは、無言のまま再びルイナの方へを視線を戻す。
そして、俺が言った。
「栄えある『五禍将』が、何だって……?」
「ちょっと、言い訳を考えさせとくれ」
ルイナは真顔のまま、片手で頭を抱えた。
反論ではなく言い訳というワードが出ている辺り、すでに心が負けを認めている。
「あのさ、ルイナさ」
「何だい?」
「おまえって、今の魔王軍に義理立てする理由って何かあるの?」
俺は、一気に核心に触れてみることにした。
ルイナが今も魔王軍に所属している理由。それを知りたいという気持ちがあった。
「何言ってんだい、あんたは?」
そしたら、何故か鼻で笑われてしまった。
「今も言ったけど、アタシは『五禍将』だよ? 御屋形様に義理立てするのは当たり前じゃないかい。いつだって、アタシの中の忠は御屋形様に捧げられてるのさ」
…………ん?
「そもそも、アタシから見ればあんたの方がおかしいんだよ。どうして御屋形様の転生体であるあんたが冒険者なんてやってんだい? 『あの三人』と同じ冒険者を!」
…………おやおや?
「まぁ、いいさ。『記憶』と『力』しか受け継いでないなら、そういうこともありうるんだろうね。業腹だけど、あんたの次の転生体を待つしかなさそうだね。そうしたら今度こそ御屋形様は魔王軍に戻ってきてくださるだろうさ」
…………こ、これはッ!?
「あの、ラーナさん」
「うん、ビスト君……」
俺とラーナは、共に緊迫した面持ちで互いを流し見る。これは、こいつは……!
「何だい、お二人さん。その面は何事だい?」
未だ、全く自覚がらしきルイナが俺達に突っ込んでくるが、そこに、ホムラ。
「なーなー、ルイルイ~」
「何さ。って、もぉ~、ホムラ! 口の周りに食べかすがついてるよ、拭きな!」
「むきゅうぅ~~」
ルイナが再び取り出したハンカチでホムラの口元を拭いていく。
ちなみにこの二人、実はホムラの方が年上である。数百年生きてるから誤差だが。
「はい、いいよ」
「ありがと~、ルイルイ!」
「別に礼なんていいさ。で、何だい?」
「お~、そうだった! あのさ、ルイルイさ~?」
「だから、何だってんだい?」
「おにーちゃんは別に、おとーちゃんのことはきいてないぞ!」
俺とラーナが抱いていた疑問を、そのままホムラがブッこんでくれた。
「……何だい、そりゃ?」
そして、直接それを言われてもまだ気づいてない『銀禍の将』さん。
「だ~か~ら~、おにーちゃんは『今の魔王軍』のことをきいてんだぞ! そこで何でおとーちゃんの話が出てくるんだ? 全然違くね? ってあたし様は思ったぞ!」
「え、そりゃあ、だから……」
言いかけて、ルイナの言葉が不意に止まってしまう。
「え~と……」
そして、ルイナは露骨に悩み始める。
すると厳しかった表情から力が抜けていって、再び目じりが下がっていく。
実はルイナ、素の状態だと可愛い系の顔なんだよなぁ。
意識して目じりを上げてキツい顔立ちに変えてるけど。相当無理してると思うわ。
「あの――」
やがて、彼女は俺達の方に素の顔のままで話しかけてくる。
「ど、どうしましょうかしら?」
俺達に言われても、どうしようもないんだが……?
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