第46話 一週間が過ぎまして

 あっという間に一週間が過ぎた。

 今日までに色々あったけど、トピックとしては三つほど。


 一つ目、ホムラが冒険者になった。

 最初から魔族バレしてたホムラだが、クラリッサさんがOKしちまったよ。

 あの人曰く、


『歓迎。伝説の『五禍将フィフステンド』というのならば実力は折り紙付きマスター。過日の『邪神』騒動もあり、実力のある冒険者が必要なのでマスター。人格面についても問題はないと判断するでマスター。監督はビスト氏にお願いするマスター』


 とのことで。

 あれ、マスター語尾復活したんですか? 真顔でその語尾は腹筋に悪いんすけど?


 そういったこともあって、ホムラは冒険者として認められた。

 さすがに魔族ということで、クラリッサさんの言葉通り俺が保護者になったけど。


 しかし『英雄派』みたいに魔族だからと差別してくるような冒険者はいなかった。

 それについては、元より自信というか、確信に近いものがあった。


 そこは大丈夫だろう、って感じで。

 というのも、この国にはすでに『魔族の冒険者』が存在するのだ。


 しかもそいつ、Sランク。

 つまりは『英雄』にまで上り詰めている、国内でも特に有名な冒険者だ。

 ここが魔族の国から離れていることもあるのだろう。お国柄、ってヤツですね。


 そう考えると『英雄派』の連中の主張を『英雄』が事実上否定してるのか。

 何だそれ、皮肉が過ぎるってモンだろ。


 これが一つ目のトピック。

 なお、本日のホムラはGランク依頼で薬草採取お出かけ中。

 お目付け役としてミミコが同行している。


 ……だ、大丈夫かな。


 どうせ一緒になって遊ぶんだろうなという諦念が俺の中を占めている。

 とはいえ、ちょっと俺も街を離れられない用事があり任せるしかないのだが。


 さて、二つ目のトピック。

 ラーナのレベルが32を越えました~! イェイ!

 彼女のステータスは、今、こんな感じ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


◆ラーナ・ルナ

 ジョブ:神官 術師

 レベル:32

 ランク:C


・ステータス

 生命:416/D

 魔力:992/S


 筋力:110/F

 敏捷:247/C

 器用:229/C

 知性:492/A

 精神:566/S

 幸運:301/B


・保有適性

 魔法属性:光/S・水/B・地/B

 神官適性/SS

 術師適性/B


・保有技能

 白魔法:レベル8

 黒魔法:レベル3


 赤魔法:レベル2

 青魔法:レベル5


 金魔法:レベル6

 銀魔法:レベル2


―――――――――――――――――――――――――――――――――



 これは、だいぶ強くなったなー。

 まぁ、この前のクラヴィス兄との一件もあって、いい感じに経験点稼げたしな。


 あとあれね、魔法ね、魔法。

 いや~、ラーナはやっぱ才能の塊だわ。『天才』と呼ばれるのもうなずける。


 基礎六種の属性魔法を、熟練度には差こそあれ、もう一通り覚えちまった。

 これは『手のひらの虹』を実現するのも、もうすぐかもしれない。実に楽しみだ。

 で、ラーナがレベル32になったことの何がトピックなのか。


 ……Bランク昇級試験、受験可能なレベルだからだ。


 つまりこれは、俺にとってはこれ以上ない凶報、だァァァァァ――――ッ!

 ウアアアアアアア、Bランクになんかなりたくねェよォォォォォ~~~~ッッ!


 いずれはBランクになれればいいと思ってたさ。

 でもそれはいずれはであって、冒険者登録後一か月でなるのはダメだろ!?


 ちなみにラビ姉から言われた。

 もしBランクになったら、アヴェルナのギルド史上最速だピョン。って。


 やめろよ、その忌まわしいワード! 俺にとっては即死魔法同然なんだよ!

 あと、語尾も復活してたんかよッ!? あ、マスターも復活してたわ。だから何!


 そんな感じで、非常に順調に、そして駆け足で冒険者生活を送っている我々。

 これが二つ目のトピック。俺としては勘弁してほしい感じのね……。

 そこから繋がる、三つ目のトピック。それは――、



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 街中を歩くラーナは、自分の儀式杖を名残惜しそうに撫でている。


「もうこれも使えないのかぁ……」

「そりゃね、仕方がないわな」


 三つ目のトピック。

 ラーナが装備を交換する必要が出てきました。


 ん? 『英雄派』?

 連中ならすっかり静まり返ってるよ。俺にとってはもう終わった話だ。

 それよりもラーナの装備の方ですわ。


 いや、防具とかはこれまでに一回替えてはいたんだけど、武器の方がね。

 今、ラーナが使っている儀式杖は、神官用の杖なので用途が限られているのだ。


 サレク様のお古で随分使い込まれた杖だがモノ自体は低ランク冒険者の装備相当。

 使いやすさは比類なく、だがそれは同時に性能の低さを実証しているワケだ。


 杖ってのは、神官や術師などの魔法メインのジョブが扱う『術具』の代表格。

 他に典型的な『術具』として知られてるのは魔導書、指輪、宝珠なんかだろうか。


 変わり種としては儀礼剣、儀礼短剣とかも『術具』の一部ではある。

 これらは刃物としてはあまり性能は高くないが『術具』としての性能は割と高い。


 そして、代表格の杖にも結構な種類がある。

 全属性の魔力を万遍なく増幅できる、最も使いやすい『魔導杖』。


 黒、赤、銀の三種の魔法の増幅に適している、術師用の『賢者の杖』。

 白、青、金の三種の魔法の増幅に適している、神官用の『儀式杖』。などなど。


 なお、短い杖はワンドと呼び、長い杖はスタッフと呼ぶ。

 ラーナの使ってる儀式杖は後者。彼女の背丈よりやや高いくらいの長さだ。


「今のおまえだと、さすがにその儀式杖は不釣り合いだよ。今後のことを考えるなら、もっと性能が高いモノにしないとダメだ。って、昨日も言ったよな」

「うん。そうだけど~、でも~……」


 やっぱり愛着が強いようで、ラーナは未だ渋っている。

 仕方がないんだろうけどな~。今使ってる杖は神官様から贈られたものだし。


 愛着を持つのはわかる。ずっと使っていきたいのもわかる

 しかし、そうもいかん事情ってものがあるのだ。冒険者やってくからには。

 そこで俺は、ラーナを説得することにする。


「なぁ、ラーナ。おまえは言ったよなぁ。見たことがない景色が見たい。外の世界を知りたいし、色んなことをやってみたいって、言ってたよな」

「う、うん。言ったけど……?」


「それじゃあ、装備も替えないとな! 新しい装備に替えるという『やったことがないこと』をやってみないと! 自分の目的に反するモンなー!」

「あ、ズルい。その言い方はズルいよ!」


 そりゃあそうですよ。ズルい言い方をしているんですから。


「……ちゃんと行くモン」


 ラーナは愛用の儀式杖をギュッと抱きしめながらも、軽く俯いてそう言う。

 少しばかりの罪悪感が伴うが、それでいい。


 冒険者は宿をケチってもいいが、装備をケチってはいけない。

 これ、冒険者やってる孤児院の先輩からの受け売りだけど、その通りだと思う。


「ところで、ビスト君の方は武器は替えないでいいの?」

「ああ、これか?」


 俺は自分の腰に提げている古びた長剣に目をやる。

 防具はCランクになった時点で相応のモノに替えたけど、こっちはそのままだな。

 そして、当分は替える必要もない。というのも――、


「これな、実は魔剣っぽいんだわ」

「えっ」


 ラーナが、非常に簡潔な驚きを示してくれる。ちょっと面白い。


「と、いっても、特別な効果がある魔剣じゃないんだけどな。ただ、人の手で作られたものじゃなく、自然発生したタイプの珍しい魔剣だ。わかる?」

「それってもしかして『錬魔剣カリバーン』っていわれてる……?」


 そうです。当たりです。


「長年、モンスターを斬り続けたことで剣が魔力を帯びるようになって魔剣化したもの。それが『錬魔剣』だ。どうやらこの剣もそのタイプらしくて、効果としては斬撃威力の強化、耐久性の向上と多少の自己修復能力、使い手の身体能力の微弱向上と、何とも使いやすい一振りですよ。前の持ち主がよっぽど丁寧に使ってたんだろうな」


 前の持ち主。それはつまり俺の実の父親ってことになる。

 どういう人間か知らないが、剣を見るに地に足つけた冒険者だったんだろう。


「だから俺はこの剣を使い続けるよ。何でか、手に馴染むしな」


 俺は、片手で剣の柄を掴む。

 う~ん、何か安心する。手に馴染む、って言葉の意味を実感として覚えるよ。


「そうなんだね……」


 ラーナはうなずいて、何故か空いてる方の手を握ってくる。


「ラーナ?」


 見てみると、そこには頬を赤くしているラーナがいる。

 ちょっと? そんな顔されると、俺まで意識してしまうんですけど……?


「わ、わたしの手もビスト君の手に馴染むモン……」


 ぐふぅ。

 ちょっと拗ねたようにほんのりアヒル口になってるラーナさん。

 その言い方とそのセリフは、誰が見てもあざといんすよ!


「……おう」


 何かを返さねばと思って、結局返せたのはその一声だったよ! ふがいなや!

 そこからは互いに手を繋いだまま無言になって、目的の店に到着した。


 ……もう着いちゃったよ。

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