第14話 彼女のレベルが上がりまして

 Dランク上限いっぱいのレベルは、24。

 Cランク昇級試験を受験可能になるレベルが、21。


 そして、俺達の前に置かれた『力量の水薬プラスポーション』。

 こいつは実に24レベル分の強化が可能な、最高級のシロモノであるという。


 え、待って。

 さすがにそれはおかしい気がする。


「あの、『力量の水薬』って、効果が強いものほど体への負担とか副作用が大きくなるはず、ですよね? 24レベル相当の強化って、さすがにヤバくないですか?」


 基本的に『力量の水薬』に毒性はない。

 しかし、このポーションにもランクがあり、高ランクほど宿る力が強くなる。


 高ランクのポーションを飲めば一気に強力な力を得られる。が――、

 それだと肉体の方が強化に耐えきれず、内側から崩壊することになるのだとか。


 だから『力量の水薬』を飲む場合は、低ランクのものから使っていく必要がある。

 そうして徐々に肉体を強化していくことで、慣らしていくワケである。


 一度に24レベル分の強化を行なうなら、そりゃ確かに最高級品だろうよ。

 けど、今日、冒険者になったばっかりのラーナには致死毒レベルじゃないのか。

 と、俺はその懸念を伝えたワケなのだが――、


「ま、普通はそうなるわなぁ」


 何故か、ウォードさんは笑みを崩さない。何でだよ。


「クラリッサが出したそいつはな、別の意味での最高級品なんだよ。何せ世界に一本しかないってブツだ。これがこの世に存在すること自体、奇跡みたいなモンだぜ?」

「はいぃ~?」


 彼の言っていることがわからず、俺は思わず眉根を寄せる。


「これが、世界に一本だけ……?」


 ラーナが、テーブルに置かれた『力量の水薬』をまじまじと見つめる。

 ふ~む……。


「ちょいと失礼」

「あ」


 俺はポーションを手に取って『鑑定アナライズ』の魔法を発動する。

 意識内に、この『力量の水薬』の詳細なデータが伝わってくる。


「えェ……」


 そこに明らかになった事実に、俺は思わず疑問の声を出してしまう。


「低ランクと同等の負荷で、高ランクポーションと同等の強化を得られるゥ?」


 何だよそれは、掟破りもいいトコじゃねぇか。


「世界に一本と言った理由がわかったようだなぁ、ビストよ」

「ああ、まぁ、わかりました。なるほどね。こりゃ珍品だわ……」


 狙って作成されたものじゃなく、偶然できあがったモンっぽいな、どうやら。

 ついでに色々とわかったこともある。例えば、こいつは複製不可能らしい、とか。


「贈呈」


 言って、クラリッサさんが再びポーションをラーナの前に置く。


「我々、冒険者ギルドはラーナ嬢に強い期待を抱いているでマスター。それはこの証と思っていただきたいでマスター。必ず役に立つでマスター」

「……わかりました」


 一瞬、こっちの方を窺いながらも、ラーナは『力量の水薬』をその手に掴む。


「わたしは、人に期待されるのって本当は少し苦手です。わたしなんかに期待に応えられるのかなって、不安になっちゃうんです。でも――」


 そして、彼女はその顔に決意の表情を浮かべて、ポーションの蓋を開ける。


「ビスト君と一緒に色んなところに行きたいし、色んな冒険をしたいです。だから、わたしは足手まといにならないために、がんばらなきゃって思います。……えい!」


 気合の声と共に、ラーナが『力量の水薬』を一気にあおる。

 そして、瓶の中身がその口の中へと流れ込む。


 中身を飲み切った瞬間、ラーナの全身に力が漲るのが伝わってくる。

 それは速やかに彼女の体の隅々にまで行き渡り、馴染んでいった。


「どれ――」


 俺は、今度はラーナを対象にして『鑑定』を使用する。

 今のラーナのステータスが、俺の目に可視化される。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


◆ラーナ・ルナ

 ジョブ:神官

 レベル:24

 ランク:G


・ステータス

 生命:161/D

 魔力:533/S


 筋力:64/F

 敏捷:103/C

 器用:112/C

 知性:256/A

 精神:317/S

 幸運:189/B


・保有適性

 魔法属性:光/S・水/B・地/B

 神官適性/SS

 術師適性/B


・保有技能

 白魔法:レベル1


―――――――――――――――――――――――――――――――――



 ラーナのステータスは、半日前とはまるで見違えるものになっていた。

 冒険者ランクがGのままなのは、正式に昇格手続きがとられてないからだな。


「どうだ、ラーナ」

「うん!」


 問う俺に、ラーナが満面の笑みを顔に浮かべて勢いよくうなずいた。


「すごいよ。力が溢れてくる感じがするよ、ビスト君!」


 両手でグッと拳を握り締め、彼女は嬉しさに頬を紅潮させている。

 これまでになく元気な様子のラーナを見て、俺も何故か喜ばしく思えてしまう。


「クックック、しっかし、ビスト君と色んな冒険がしたいです、ねぇ……」


 二人で喜んでいると、ウォードさんがそんなことを言ってきた。


「何です、ウォードさん?」

「おまえさんも隅に置けないなと思ってよぉ、ビスト。なぁ、ラーナの嬢ちゃん?」

「ウ、ウォードさん!?」


 ウォードさんの視線を受けて、何故かラーナが取り乱す。

 慌てふためく理由はわからないが、彼女が困っているのは間違いないようなので、


「ちょっと、茶化すのやめてくださいよ、ウォードさん。俺だってラーナと色んな冒険したいですよ。だって、仲間なんですから。当たり前じゃないですか」

「え」


 ウォードさん、何故か固まる。


「…………」


 さらに、ラーナが何故か半眼になって俺を見つめてくる。え、何? 何なの?


「不憫」


 なお続けて、クラリッサさんまでもが、こっちに憐れむような視線を向けてくる。

 何だよ、何なんだよ、この空気。理解できないんですけど!?


「おまえさんも大変だなぁ、ラーナの嬢ちゃんよ……」

「いえ、いいんです。これがビスト君ですから」


 何故かウォードさんが同情を示し、何故かラーナがそんな不可解な返答をする。

 俺とラーナは仲間だろ。それは間違いないだろ?


 ここで俺が『ああ、ラーナは俺のことが好きなんだ』とかいう勘違いをしてみろ。

 それがきっかけで俺達の絆に亀裂が生じる可能性だってあるんだぞ。


 ラーナは俺の大切な幼馴染で、今は唯一の仲間。相棒。パートナーである。

 それを、変な勘違いでなくすような真似だけが厳に慎まねばなるまい。


 ただでさえラーナは可愛いしスタイルもいいし、性格もいいし、魅力満点なのだ。

 だからこそ、相棒の俺がしっかりしなければならないというワケだ。


「――あ、そうだ」


 と、ここで俺はふと思いついて、手をポンと打つ。

 ラーナの強化されたステータスを見て、気づいたことがあったのだ。


「なぁ、ラーナ」

「え、なぁに、ビスト君」


「おまえの魔力も結構強化されたしさ」

「う、うん……」

「俺が、幾つか使えそうな魔法を教えてやるよ」


 今のところ、簡単な白魔法しか使えないからなぁ、ラーナは。

 白魔法は光属性に基づいた治癒と浄化の魔法。神官であれば大抵は扱えるものだ。


 ラーナは、固有の属性として、他に水と地の魔力を宿す。

 水属性に基づいた青魔法と、地属性に基づいた金魔法。最低この二種は教えよう。


「本当!?」

「ああ、何の因果か、今日の朝から魔法は俺の得意分野になったんでな」

「ありがとう、わたし、がんばるね!」


 素直に喜んでくれるラーナを前に、俺も悪い気はしなかった。

 その後、俺達はクラリッサさんから目的のダンジョンの詳しい話を聞かされた。


 なるほどね。

 だから『特別指定依頼』。


 詳細を聞いた俺とラーナは、共にそんな感じで納得することとなる。

 この場にウォードさんはいた理由も、そのときに聞いた。


「そういうワケだ。頼むぜェ、ビスト」

「ま、やれるだけはやりますよ」


 初めてのダンジョンに内心ウキウキしつつ、俺は努めて冷静にそう返すのだった。

 このとき、俺達はまだ知る由もなかった。

 これから向かうダンジョンで、俺達を待ち構えている『あいつ』の存在など。


 ――出発は、三日後と決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る