そうだこれが私の空白だった。はっきりと思い出した。再び、道へ。 私はその空白を思い出したので、どうやら蒼白の顔をしていたみたいだ。妻が心配そうに、

「どうしたの?  何かあったの?」と尋ねながら、新吾を隣の部屋に連れていった。新吾に遊ばせておいて、私のところに戻ってきた。私は、 妻に空白だった記憶を思い出した事を告げ、全てを正確に話した。

「すまなかった!  思い出したんだ。明日警察に行ってくるよ、罪を償わなくては」

「・・・・・・」妻は暫く沈黙していたが、

「そう、待ってるわ新吾と一緒に貴方が帰っ てくるまで、ここで待っているわ」と言った。

「 恭子!  本当かい!  すまない、有り難う」

「何いってるのよ、私は貴方をずっと愛しているわ。それに今の話じゃ、事故よ、事故じゃない!  貴方が殺意を持って殺そうとした訳では無いんだから、 違うわ、助けようとしたのだから」

  妻は、大粒の涙を流しながら言った。私は妻の細い両肩を抱えて、隣の部屋に入っていった。

「新吾!  もう寝るよ」 新吾はまだ遊びたかったようだが、私達と三人で川の字になって休んだ。妻は、私の方に肩 を見せていた。その肩が少し震えていた。私も何だか眠れない夜を過ごした。 私は考えていたが、どうしても納得のいかないところがあった。

 

  ーーおかしい! 不思議だ?ーー

 

 そうだ、明日は警察に行く前に諏訪さんの家に行ってみよ うーー。

 そうして一夜が明けた。 翌朝、何時ものようにアパートを出た。川土手の上にある道を、通勤、通学をする人々は川下にある駅に向かって歩いていたが、私はその流れに逆行して、川上の方に歩みを進めた。今日は無断欠勤だ。私は川上 で諏訪さんの家を、訪ね歩いて、やっと見つけた。諏訪さんの家は、まだ新しくて大きなお屋敷だった。ふと表札を見ると、二つ掛かっていた。『諏訪要蔵』と『諏訪浩司すわこうじ』とあった。

 ーーえっ、・・・諏訪浩司?ーー

 私はビックリした。とにかく諏訪さんの家の玄関でチャイムを鳴らした。すると家の中から返事があって、玄関のドアを開けて中年の男性が顔を出した。

「あっ、先生!  やっぱり諏訪浩司と言うのは先生のことでしたか」 「やぁ、設楽さん。どうしましたか?」

「あの~、先生! 実は、記憶が昨日甦りまして、要蔵さんを訪ねてきたのですが・・・」

「あぁ、父に用事ですか?  しかし設楽さん記憶が戻って良かったですね」  私の通院している精神科の主治医である、先生のお宅とは思いもよらなかった。すると先生の後ろから要蔵さんが顔を覗かせてきた。「やぁ、設楽さん。どうかしましたか」 「私の空白の時間を、思い出しましたので、要蔵さんに会いに来ました」 「何ですって、思い出した!  さぁ、ここでは何ですから、上がって下さい。お話を伺いましょう」 そう言われて、私は洋室の応接室に通された。要蔵さんと先生と私の三人で、部屋に入って椅子に腰を掛けた。

「いやぁ、まさか先生のお宅とは思いませんでした。諏訪という名前を要蔵さんから聞いたときは、ひょっとしたらとは思いましたが。今日はお休みなんですか?」

「はい、今日は夜勤明けなので、休みです」

「要蔵さんから、息子さんは警察官になったと聞いていたものですから・・・」

「あぁ、警察官になったのは、長男の潤一郎で私は次男です」

 「そうなんですか、とにかくビックリしました」 話を聞いていた要蔵さんは、私の記憶を聞きた くて、ウズウズしていた。それを感じた私は思い出した過去の話をゆっくりと丁寧に話した。

「成る程!  そうじゃったのか、う~む」 要蔵さんは、唸っていた。

「しかし、これで事件の全体がやっとはっきりしましたな。設楽さん申し訳ないが もう一度警察に行って話をしてもらえないかな。何も心配することはありませんだでな」

「はい、勿論そのつもりで訪ねてきました」私は、昨晩疑問に思ったことを要蔵さんに訊ねた。

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